月光に照らされて
……扉を潜り、音を立てないように歩み寄る。
そして、盛り上がった布団に手をかけてーーー刃。
「妹が妹なら姉は姉か?夜這いするには少し早い気がするが」
「あら失礼しちゃうわ、初めての夜を応援しに来てあげたのに」
「誤解を生むような発言はやめろ。斬るぞ」
「遠慮するわ、無理矢理なのは嫌いなの」
起こされて不機嫌らしい。刀を向けてきた神月の布団から手を離すアンリ。
時刻は月が真上に昇る頃、簡単に言えば深夜だ。なのにアンリは人の気も知らずに夜中に訪問しに来た。
そこら辺の思いやりと常識は全くないが、いざという時はやるアンリ、三十路間近である。
「で……俺に何の用だ」
「んー、特には?」
「寝る」
「冗談よ冗談。そうね、この上ででも話さない?」
そう言いながらアンリは窓を開け、そこから屋根の上へと登る。
呆れ気味に神月も後から着いてきて、屋根に登る。
光はない、月光に照らされた町が一望出来た。
「昔、まだランが子供の頃よく仲間と登ってたわ」
「ミライか」
「さぁ?どうでしょう……単刀直入に聞くけど、ランの嫁にな」
最後まで言わせまいと、神月は遠慮なく刀の柄をアンリの腹部に思い切りめり込ませた。
腹部を抑えてしゃがむアンリを、出会った頃のように冷たい目で見る神月。
「阿呆かお前、お前の発言には呆れるしかない」
「私的には別にいつ嫁に来ても良いわよ?」
「……おい、何で俺が嫁なんだ。せめて婿と言え、腹立つ」
「そこ?まぁいいわ。本題はこれからなの」
屋根の上に腰掛けながらアンリは続ける。
「セストとアストリッドって男、知ってる?」
「……昼間、女主人が言っていた奴か。仲間か」
「えぇ、ランには秘密で情報を集めてるの。だってあの子、私も捜してるなんて知ったらギルド辞めちゃうわ。生活の危機よ」
「……お前、薬士じゃないのか」
「確かに専門は植物生態学よ、私《植物学者》持ってるし……けど、ぶっちゃけるとやる気がないの。驚くぐらいに」
それは何となく神月にも分かった。
それでこれから巻き込まれる事も簡単に予想がついたが、今はアンリの話を聞くことにしたらしく何も言わない。
「ずっと捜してる人なの、子供の頃に行方不明になって」
「死んだんじゃないのか」
「あいつらは簡単に死ぬ奴等じゃないから、だって強化しまくった魔法弾命中しても生きてたし」
そこまで言って、アンリは立ち上がった。
「ま、それを聞いてくるって言うことは知らないのね。残念」
「見つけたらどうする気だ」
「んー……そうねぇ、片方と結婚でもしようかしら?」
「……哀れだな」
「あらそう?まぁこんな性格の悪い女と結婚する奴なんて性格に異常があるか耐性が付いているかのどちらかよね」
自分でそう言ってはキリがない。
だが、満更でもなさそうな表情になっていたのは神月だけが知っていた。




