ケジメ
階段からイヴァルは降りてきて、ランの手中のドレスを見る。
「ありがとう、これでクビは免れたね」
「たね、って………イヴァルさんが脅したくせに……」
「………で、彼は?」
流れ通りなのか、イヴァルはアンリの横にいる神月を見た。
その目は、疑心暗鬼に満ちていて普段のイヴァルとは考えられない様子だ。
……神月は小さく息を吐いて、イヴァルを見た。
「神月だ……アンタの大切なもん盗んだ奴の元手下だよ」
「神月!?」
ランが驚いたように神月を見る。
イヴァルは小さく眉をひそめていて、神月はそれに気付いたのかそのまま続けた。
「ランに誘われて来た、が……アンタは俺のことが嫌いだと踏んでたさ。盗んだ奴の手下なんて好きな奴はラン以外いねぇだろう」
「あの神月さん?私のことさり気なく変人って言ってない?」
「だが盗みに加担したことは謝罪する、アンタの好きなようにやってくれて構わない。悪かった」
「マスター、殺します?」
シェルが、容姿に合わない言葉を放った。
手を構えて……腕から回転刃が現れたが、イヴァルはシェルの頭を撫でてそれを止めさせた。
そして、神月を見る。
「僕、こういう事苦手なんだ……止めてくれないかな?」
「イヴァルさん………!!」
神月の肩を叩きながら、イヴァルは笑顔で言った。
「頭を下に付けて床を舐めながら“俺は貴方の奴隷です“って言えば許すよ?」
「最悪だ!!性格歪みすぎて笑顔の意味を問いたくなる!!」
「因みに六はしてくれなかったよ」
「師匠にもしたの!?というかイヴァルさんどんだけその台詞好きなの!?そういう趣味持ってましたっけ!?」
「大変だねぇ~」
ランがツッコミ、チェリナは傍観し、アンリはにやけている図が出来上がった。
笑顔で告げたイヴァルを見る神月、そして肩に乗ったままの手を払った。
「俺の中身をぶちまけろ、と言うことか………」
「神月駄目だよ幾ら何でもやったら!!イヴァルさん調子に乗って色々言ってくるよ絶対!」
「あー、イヴァちゃんならやるね!」
神月は笑って、その場に膝を突いた。
そして頭を床に付けるように下げた。
「神月!何本当にやって」
ランの足に、赤い液体が飛び散った。
飛んできた方を見るとーーー神月の腹部から、じわじわと流れ出てきた血が着物や床に染み込んでいた。
ランの顔から、血の気が引く。
「神月!!?」
「にゃーーーっっ!!切腹ーーー!!?」
「……………っっ」
腹を斬ったらしい、血で汚れた短刀を床に放り投げて、手で押さえながら神月はイヴァルを見て、笑った。
「文句あるか、これで………!!」
「……きみ、死ぬ気かい?」
「俺は、過去の俺のケジメを付けただけだ………!!」
「…内臓までにはいってないわ」
アンリが短刀に付いている血痕を見ながら言った。
「イヴァル、医務室貸しなさい」
「どうぞ、気に入ったよ。登録準備はしておくから」
笑いながらイヴァルはそう言った。
そして神月は急遽医務室に運ばれ……何故か神月の叫び声が響いた。
それを聞いて、溜息を吐くイヴァル。
「またやってるですの?怪我人に対しての新薬実験」
「いつか訴えられると思うなぁ、アンリさん」
「姉さんやめてあげてーーーーっっ!!」
† † †
ベッドの上でぐったりとしている神月。
手当ての筈が、逆に死ぬ危険性が出てくるとは思っていなかったのだ、普通は思わないが。
ランはチェリナとある店に行っていて、医務室にいるのは一応主治医のアンリと病人の神月だった。
「で、ギルド登録終わったらどうするの?」
ふと、アンリが口を開いてそんなことを問うてきた。
神月は外を見て、溜息混じりの苦笑を見せた。
「この町を出るにしても、ランの奴は許してくれないだろうな」
「ふふっ、あの子、完全にかーくんに懐いちゃったものね」
「気ままに余生をこの町で過ごすさ……極東に戻ったところで居場所なんぞ無いだろうしな」
その言葉を聞いて、ふむ、となるアンリ。
暫くして、再び神月を見た。
「あくまで私の憶測の範囲だから、気を悪くしたらごめんなさい」
「……?」
「世界には二万人に一人、体の色素が薄い人が現れるって前に本で読んだことがあるわ」
神月の目が、鋭くなった。
「赤い目に白い髪と白い肌、偶に一部色が付いている人もいるようだけれど………かーくんと合ってるのよねぇ」
「………………」
「極東だと、貴方どういう扱い受けてたのかしら」
………ふぅ、と息を吐く神月。
目は動揺しているのか揺れていて、手を握りしめていた。
「…………お前はランと違って、頭脳派だな」
「あの子だって頭良いわよ?私の妹だもの」
「極東での事なぞ忘れた。もう過去のことだしな」
「ふぅん、そんな感じには見えなかったけれど」
「……………話すさ。俺はこの町に骨埋める覚悟で誘いに乗ったからな。ランやお前にはいつか伝えたいと思っている」
「そう?なら気長に待つわ」
アンリが笑っていれば、扉が開いてランとイヴァルが同時に入ってきた。
まるで話が終わるのを待っていたようなタイミングで、アンリはつい笑ってしまう。
「あらあら、随分とタイミングが良いわね?」
「何のことだい?神月さん、体の方が大丈夫なら登録したいんだけど、どうかな?」
「問題無い、始めてくれ」




