職の薦め
魔物の襲撃から半日過ぎた夜、六とアンリは馬車に乗って野宿していた。
焚き火に小枝を足しながら、六はアンリを見た。
「ふーん、周りが引くほどの不幸体質ねぇ」
「今までもそんな気はしてたのよねぇ、一人で歩いてると上からよく植木鉢が落ちてきたり、料理しようとすれば包丁が手から抜けて顔のすぐ横に突き刺さったり」
「お前いつか絶対死ぬぞ、そんな人間がナイフを持つな」
呆れられたのでお礼に魔法で六の上から水を落とした。
ずぶ濡れになる六を見て、ついアンリは吹き出しかかった。
「ぷっ!……あらごめんあそばせ」
「どの時代の貴族だお前……ったく、冒険者ギルドに行くならそう言えよ、クリスタまで行ってやる」
「え………」
「その顔を見る限り俺も行くことに疑問を持ってるな、殴るぞ」
「何でおっさんと一緒に行くのよ」
そう反論すれば、言いにくそうに口ごもる六
少しして、溜息を吐いてから鞄から何かを差し出した。
「それ、俺のギルドカード」
「これがねぇ………」
ギルドカードはギルドに所属した際に貰えるいわば身分証明書だ。
ギルドは大きく分けて、冒険者ギルド、商工ギルドの二つに分かれている。何故この二つだけなのかというと、冒険者ギルドが体を張り、商工ギルドが知恵を絞る、という役割分担のようなものが昔から人々の中で当たり前になっているからだ。
「何か、今すぐにでも折れそうね、えいっ」
「折るな!それ再発行するのに10万ギルはするんだぞ!」
ギルドカードは、六のを参考にするとこうなる。
商工ギルド所属 : 百地六
出身 : 極東
職 : [侍]
能力 : 《居合い斬り》
《峰打ち》
《兜割り》
《身体強化》
《検索》
それを見たアンリの、開口一番は。
「どうみても冒険者ギルドが似合ってる人に商工ギルド所属されると何か嫌ね、生理的に」
「仕方ねーだろ、俺元々冒険者ギルドに所属してたんだから」
「え、嘘ッ!?」
本当だよ、と六は小さくぼやいて焚き火の炎を見た。
どこか、遠くを見る目で。
「修行の為にこの大陸に渡ってきたけど、掴めた物が無くてな、商売に転職した」
「……職は一度決めたら変えられないでしょう?」
「今が充実してるから良いんだよ、俺の知り合いがクリスタにいる、そいつに頼めばすぐに登録できるだろ」
そう言って六は笑った。
「よし、明日でクリスタに着くために早く寝るぞ!明日は四時出発だ!」
「はぁ?早いわよおっさん、六時にして」
「ふざけんな、俺がこの馬車のご主人だ、俺が偉い!」