暴力は人と自分を傷付ける
振動に合わせて揺れる体。
ゆったりのんびり、田舎生活の如くまったりとクリスタへの道筋を馬車は走っていた。
その馬車内でーーーー火花を散らすアンリとコウキ。
「ね、姉さんストップ!!気持ちは分かるけど暴力で解決なんて絶対駄目だから!!」
「コウキもだよっ、どうしてそんなに怒ってるの!?」
ランとサラが二人を引き離そうとするが、生憎と地理的状況は狭い馬車の後ろの荷物置き場。
神月も混じったのでとても狭い、引き離そうとしても対した距離ではないのだ。
因みにその神月は傍観を決め込んで無言。
「ふざけんじゃねぇぞクソ婆!!コイツとは確かに再戦したい、けどギルドに連れて行く義理はねぇ!!」
「あら野蛮ねぇ、再戦って最終的には殺すの?」
「頭潰して目玉ほじくり出して内臓闇金に売りさばく」
「私は最早その言葉が物騒すぎて捌けないよ」
そう、本人は傍観しているが神月の事だ。
ランが誘い、アンリは軽く許可し、サラも頷いたがコウキは首を縦には振らなかったのだ。
ラン自身それは想定内だが、喧嘩になるとは思っていなかった。
「かーくんが頷いたのよ?良いじゃない別に」
「……………それは、俺のことか?」
「他に誰がいるのよ」
寧ろその呼び方が特殊なのである。
「コウキはそんなこと言わない!姉さんは逆撫でしない!」
「文句があるならランに言ってみなさい」
「私!?」
「だって言い出しっぺはアナタよ?」
アンリの言葉にランは反論できず、小さく声を漏らす。
それを見て神月は溜息を吐いて、コウキを見た。
「俺がお前と顔を合わせなければ良いことだろう」
「けっ……口を開けばあぁだこうだ……口挟むな、おっさん」
プチッ、神月からそんな音が響いた。
そして刀を抜き始める神月を見て、ランは今度は神月を羽交い締めにした。
「イヤイヤイヤイヤイヤ!!買い言葉に売り言葉とは言うけれど!!短気すぎるよ!?」
「離せ、斬る」
「そんなこと言って離す奴を見てみたいよ!」
「俺はまだ21だ!!」
「その主張心底どうでも良い!!」
ふと………馬車が一段と揺れて、止まった。
アンリが外を覗き見て、小さく頬を緩ませた。
「着いたわよクリスタ!」
「ち……この勝負は後日、だ」
「望むところだおっさん」
ー……駄目だこの二人(byラン&サラ)
アンリの後に続いて四人も馬車から降りる。
視界の先には、クリスタの門と町並みが見えてきていた。
業者と別れ、三人はギルドへと向かうために町の中央へと向かっていた。
コウキとサラは門の所で分かれていない、それ程神月と同じ空気を吸うのが嫌なのだろうか。
その神月は、町を行き交う亜種族の多さに目を開きながら着いてきていた。
「……珍しいな、この町は」
「そかな?そう言えばローツェルブって亜種族の姿は中々見なかったよね………珍しいの?」
「まぁ国境線の近くにあるのだし、珍しいんじゃないかしら」
そう軽くやり取りをしながら、赤い屋根の家…ではなくギルドに到着する。
そしてランが扉を開いて足を一歩踏み出し
「ランお帰りなさい寂しかったようぶっっっ!!」
手を大きく開きながら飛びつこうとしてきた少女の懐に入り手加減無しの遠慮無しでラリアットを決めた。
壁に激突する少女を見ずに、受付にいるシェルの元へ歩くラン。
「シェル、イヴァルさんいる?」
「いるですの!少し待ちやがれですの!」
階段を登っていくシェル。
ふと、壁に激突して床にご対面していた少女が起き上がった。
腰まである金髪に、左目を髪で隠しているが色は藍色、白と黄色をベースにしたワンピースを着用している。
壁に叩きつけられた筈だが、その表情は笑顔だった。
「もぅ、照れちゃって!」
「私が照れてるように見えるなら視覚異常起こしてるよ」
「かーくん、紹介するわね?」
状況が理解できず、目を細めていた神月を見て笑いながら、アンリは少女を指さした。
「チェリナ・アルトゥール、[魔術師]でこのギルドの一員よ」
「そしてランとアンリのお母さんだよぅ!」
「頭の紐が緩くってこういう発言ばかりするのだけれど、まぁ煩いって思ったら斬っても平気よ?」
「照れなくっても良いんだよ!私何時でも腕を広げて歓迎するから!」
清々しいほどの笑顔で、腕を広げながらチェリナは言う。
魔法の腕はアンリ以上で強いのだが、子供のような言動に加えて今のような自称母親宣言だ。
……ランが実力行使に出るのは、チェリナのみである。
「あれ?チェリナ、ナルは?」
「ナルは簡単な依頼引き受けて森に行ったよ?すぐ帰ってくると思う」
「あら珍しい、コンビ組んでるのに行かなかったのね?」
「混沌を司る深淵の闇が私の体を奈落へと引きずり込んできて…」
「素直に寝坊したから置いてかれたって言いなよ」
だからここに残っているらしい、対して珍しくもない理由だった。
受付の横の椅子に置いてある白い大きな帽子を被り、長い金髪を整えたチェリナ。
そして階段の方を突然見た。
「やぁランちゃん、アンリさん、お帰りなさい」
「あらイヴァルさん」
シェルの後に続いて、イヴァルが降りてくるところだった。
……背後にいた神月が、小さく身じろぐのにアンリは一人、気付いていた。




