鬼の恩返し
声がしたと同時に、水が襲いかかってきた。
水の強さと衝撃に目を閉じて耐えていると……浮上する気配がして、視界が明るくなった。
「っ…げほっごほっ……」
「助かったわね………服に空気が入って浮いたのよ。ありがとう……と言うべきかしら?神月?」
アンリを掴むランを掴んで浮かせたのは、神月だった。
アンリが神月を見てそう言うと、アンリの首根っこに刀が深く突き刺さった。
それを見て顔を青くするラン。
「………安心しろ、何もない限り沈まない」
「!」
そう言われ、ランも慌てて自身の剣を壁に刺してそれを持ち、もう片方を神月に持たせた。
最大の水嵩よりも上にいるので、これ以上水が来ることはないだろう。
「ありがとう神月………って違う!コウキとサラは!?」
「あの二人は上にいる、町の人間に避難を呼びかけると言ってたな」
「……あなた、氾濫するって知ってたのね?」
アンリの言葉に、小さく目を伏せた神月。
ランが不安げに見る中で、顔を上げた。
「俺が塞いでいた壁に穴を開けた」
「………でも、二人を助けたんだよね」
「助けた、ねぇ……コウキって言う奴、あいつはこれからも伸びるな」
「……………?」
不思議そうに首を傾げるラン。
話は数10分前へと遡る。
踏み込んだと共に、神月はコウキに一太刀入れたのだ。
血が飛び散るのを見て、サラの顔が青くなった。
「コウキ!!」
「…………っ調子に乗ってんじゃ」
後ろへと倒れかかった体を足を踏ん張り止める。
そして、神月の着物を掴んだ。
「ねぇ!!!」
「!?」
そして勢いよく、神月に頭突きした。
後ろに二、三歩神月はよろめいて、かわってコウキは肩で息をしながらも睨みつけていた。
コウキにサラが慌てて駆け寄り、回復魔法をかける。
「大丈夫!?」
「…あぁ、心配かけた。おいおっさん!」
「……………俺は21だ」
「俺からしたらおっさんだ。昨日の分はこれで返した、俺はテメェにもう、用はねぇ」
そう言われ、神月は目を見開いた。
回復魔法が効いたのか、腕を回すコウキ。
「本当ならぶっ殺したいけどよ、テメェと俺の力の差が分かっていながら挑むほど、俺は筋肉バカじゃねぇ」
そして銃を、納めた。
「だから再戦希望だ、嫌ならここで俺が穴だらけにしてやる」
「大人嫌いのコウキが…大人の人とこんなに話すなんて…!」
「……………黙ってろ」
「……………………」
「その義理を返した……お前なら、信用できるって思ってよ」
「何か随分と口調が……」
「だから、お前達は生きろーーー最後に会えて良かった」
神月の言葉に目を見開き、ランは慌てて片手で神月の着物の裾を掴んだ。
「……またこれか?」
「ねぇ神月、一緒に行こう!ここよりギルドは楽しいよ、神月の事きっと受け入れてくれる!」
「……」
「誰も神月が変なんて言わないよ、ううん、神月が変なんて誰も思わない、ほら!」
そう言って笑うラン。
そのランを見て、神月の頬が少し緩んで……言った。
「鬼を誘うとは、あのバカ主以来の大物だな」
「………それ、私もバカって言ってる?」
「あのバカも、最初は善人だったのにな……その言葉で十分だ、ありがとよ」
そして、ランの手を振り払った。
ランは手を伸ばすが………流れる川に、神月の姿は消えて、なくなった。
……掌を握りしめるランの頭を撫でるアンリ。
そして、思考した。
「あの言葉……調べてもらう価値はあるわね………」
川は、一時間後に流れを止めたのだった。




