絆
ランとキャットウォークマンを見ずにアンリは廊下に出て、奥の方へと走り出した。
少しすればランが追いついてくる気配がした。相変わらず運動神経が良い妹だ。
「あら、ネコミミ怪盗どうしたのよ?」
「弱ってたし放っといてきた!わざわざ溺死しに行くなんて姉さんやっぱり馬鹿!?」
「そこの階段から突き落とすわよ」
正面に見えてきた、下へと向かう階段を降りていく。
一番下が見えてきた所で、ランが口を開いた。
「姉さん、キャットウォークマンの話聞いてた?」
「何よいきなり?」
「姉さんに付いて行ってる私も私だけど、この先で洪水が発生するかもなんだよ?」
「あらあら、何言い出すかと思ったら……なら帰る?」
階段を降りきって、アンリは壁に触れる。
少し湿気が含まれているのか、冷たかった。
ー………まぁ、基本壁って冷たいんだけど……。
「そんな事する訳ないでしょ!?私も行く!」
「私の本音を漏らすと、ランには戻ってほしいのよねぇ」
ふう、と息を吐きながらランの頬に手を添えたアンリ。
「上にはコウキ君とサラちゃんと、ついでに神月がいるわ。三人に危険を知らせてもらいたいの」
残念なことに、アンリが言っても冗談に聞こえてしまうだろう。こんな性格の人間の言葉を真に受けたら世の中生きていけないと、アンリ自身が十分に分かっていた。
が、ランはアンリの手を掴んだ。
「私も行く」
「ラン、手痛い」
「何言っても私が引くわけないって分かってるでしょ?だから私も行くよ。行って姉さんを守る」
「……本来の立場なら、私がアナタを守るのだけれど」
「私、大人になるまで姉さんの庇護下にあるからそのお返しって事で!だから姉さんは私を守って、私は姉さんを守る」
そう言うランの眼は、真っ直ぐだった。
……溜息を吐いて、ランの手を振り払うアンリ。
「全く、主人公気質の妹を持つのって大変ね」
「姉さんの妹だから。妹は姉の背中を見て育つんだよ?」
「アナタ、私と身長殆ど変わらないじゃない」
「そう言う事じゃなくて!あのね姉さん?この言葉は本来………」
ザッバァ!!二人の足下に水が流れ込んできた。
同時に音が小さく聞こえてきて、二人は顔を見合わせてーーー全速力で階段を駆け上った。
「姉さんと話してたら決壊しちゃったじゃん!!」
「洪水って言うよりも鉄砲水に近かったわね。知ってる?鉄砲水って軽く時速10km以上でるんですって」
「その豆知識心底どうでも良い!!」
階段を上りきって、やはり全速力で走り出す。
キャットウォークマンのいる部屋は無視した、それ所ではないのだ、どうせ逃げているだろう。
「ラン」
「何!?一分一秒喋る暇あるなら走ることに全力を注いで!」
「床、斬れる?」
「床!?………成程、楽勝」
そう言いながら腰の剣に手を添えるラン。
そして足を踏み出すと同時に走ってきた方向を向いて剣を抜いた。
「二刀流・四連奏」
床に四つの切れ込みが深く入り、同時に表面が崩れて大きく穴が出来た。
その技は簡単に言うと斬撃を四つ放つ技だが、その技の応用で床に大きく穴を開けたのだ。
「ま、ほんの数秒の足止めよ。行きましょ」
「あっ、姉さん抜け駆け禁止!!」
再び走り出したアンリを見て、ランも慌てて剣を納めて走るのを再開した。
音は、段々大きくなっていく。
「恐らく、入り口の階段を上りきれば大丈夫」
「でも、もし街に水が流れこんだら………!!」
「あら、ローツェルブはその対策はもうしてあるわよ?」
アンリの言葉に目を細めるラン。
「迷路みたいでしょう?あの街の造り」
「うん、迷うかと思った……けど、それが何?」
「流れるときって、直線よりも曲がりくねった方が速度と威力が和らぐのよ。そのまま湖に流れて戻る……って事よ」
「あぁ、成程……」
そう話して前を見れば、入口の下にある階段が見えた。
だが、ランは首を傾げた。
「え………三人は!?」
「見てないわねぇ」
来る途中で三人の姿は見ていなかったのだ。
だが後ろから来る音は着々と近付いてくる、無駄に考える時間はなかった。
「ほら先に行きなさいっ!!」
「うわっ、姉さん蹴らないで!」
アンリにど突かれながら駆け上るラン。
アンリも上がろうと足をかけて……水に滑って転んだ。
「ん………って!!姉さーーーん!!?」
「いたた………転んじゃったじゃないのよ……」
「姉さん危ない!!」
「は?」
頭をさすりながら背後を見るアンリ。
すぐそこに、水が迫っていた。
「ランは先に行ってなさい!!」
「っ……姉さん置いて行けないわよ!!」
階段を飛び降りて、アンリの腕を掴むラン。
そして迫ってくる水につい目を閉じてーーーーー
「何やってんだ阿呆」
手を、掴まれた。




