ネコミミ女は部屋にいる
廊下中の扉という扉を開きまくるラン。
そんなランの様子を見て、アンリは珍しく呆れた様子で口を開いた。
「ランったら、そんな簡単にネコミミ出てこないわよ?」
「否、意外にいるかもしれないでしょ?可能性がある以上、虱潰しにいかないと!」
「まぁそうね、頑張って」
「働け!!」
ランの様子壁にもたれ掛かりながらアンリは無言で観察していた。
この、如何にも人が住んでますというオーラを出す廊下には先程到着したばかりだ。
ランが開け、放置していった部屋をのぞき込めば、使われていないのか蜘蛛の巣が張っていて、一歩も足を踏み入れたくない惨状が広がっていた。
「ねぇランー先に行きましょうよー」
「働けニート」
「ニートじゃないわよ失礼な子ね」
ニートではない、本職薬剤師と副職ギルド員だ。
それを今言うと、溜息すら帰ってこない気がして口には出さないが。
「言っておくけど、姉さんだけ先に行くとか止めてよね?早死にしたいの?」
「別に死んでも十分生きた……ランを道連れにして逝くわ」
「たち悪いな!!人生諦めるの早すぎるよ!!ったくもー」
自身の側に寄ってきたアンリに苦笑しつつ、扉を開くラン。
刹那、アンリの姿が消えた。
「………あれ、姉さん?」
「ネコミミ仕留めたわよ!!」
正面の部屋の中を見て、ランは固まった。
壁一面に飾られた、怪しげな仮面や人形、武器累々。
その中央で、アンリが棍とネコミミの襟首を握りしめてガッツポーズをしていた。
ーイヤイヤイヤイヤイヤ!!
「姉さん急展開すぎる!しかもそれ一見して悪役!」
「ぐ……何でここが分かったのよぉ……」
「地道な作業の賜よ」
「否何誇らしげに話してるの、姉さん一カ所も開けてくれなかったじゃん!」
ランの言葉に微笑して、更にネコミミの襟首を掴む手を握る。
逃がすわけにはいかない、面白いのだ、この怪盗自身が。
だが、ネコミミ……キャットウォークマンは服の袖の死角から折りたたみのナイフを掴んだ。
アンリの腰を狙い刺そうと、腕を横に振った、が。
「姉さんっ!」
「きゃっ」
女性らしい声をして、ランに引かれるようにアンリは下がることになった。もちろんナイフは空振り三振さよならである。
立ち上がり、キャットウォークマンは二人を見た。
「チッ」
「……女って怖いわね」
「姉さん人の事言えてないよ!?さっ、大人しく御用されなさい、キャットウォークマン!!」
「…………本当なら、私もこんな事したくないのよ」
急にぽつりとそう言いだした。
「だって……親近感を感じるんだもの」
「姉さん理由になってないから黙ってて」
アンリの言葉を一蹴し、両腰の剣にそれぞれ手をかけるラン。
それを見てキャットウォークマンは舌打ちし、指を一本立て、息を大きく吸いーーーー
「………っっ!?」
あの時の不快な音か再びランの耳に届いてきた。
素早くランは耳を塞いで、アンリを見た。
「姉さん!!」
「任せなさいーーーーー」
アンリの目が光ったと思うと、魔法陣がこの部屋全体に広がった。
そして手を挙げるアンリ。
「《雨》」
下げると同時に、一気に雨が降ってきた。
ランはそれを見て………耳から手を外し、剣を手にした。
「!?」
「一刀流ーーー飛花落葉!!」
一気に間合いを狭め、鞘から一気に抜刀した剣がキャットウォークマンの腹部に突き刺さった。
軽かったのか、ナイフを持つ腕を操って襲ってきたが、その腕を掴み、体の軸を変えると同時に地面に投げた。
「っあ!!」
「アナタの傀儡術、姉さんが見切ってくれた」
剣の血を振り払い、鞘に納めながらランは続けた。
「人は年を重ねるごとに聞こえる音の周波数が下がる。それを利用して音波による術式を考えたんだよね?」
「傀儡術自体、余り知られてないから調べるのに苦労したわ……蓋を開けば一種の催眠術ね。こういった現象は昔から犯罪に対して利用されている」
とある映像に、他の映像を刷り込ませておくと、目には見えなくても瞬間的に脳が感じ取り、無意識の内にその映像が頭に残るという。
そういった犯罪が過去にある、それの応用みたいなものだろう。
「あなた、職は本当は[盗賊]じゃなくて、[音律士]ね?」
「……………」
[音律士]……媒体から発せられる音波を操る職である。
アンリの言葉に、キャットウォークマンは、目を反らしたのだった。




