妹よ、強くあれ
夜九時から朝の四時、それは簡単に言うと大人の時間だ。
観光地だが、勿論ローツェルブにも酒場や飲み屋は存在する、大人達は日頃の労働の鬱憤をここで晴らすのだ。
そんな酒場にーーーー響く音。
「ねぇ支配人、最近この町って怪盗が出てるんですって?他の町で噂になってたわ」
「やはりそうか……道理で客足が途絶えているわけだ」
胸元を強調したスーツと眼鏡を着用したアンリが、酒場の後ろの方で支配人と話していた。
二人の視線は、酒場中央の舞台に向けられていた。
「どうでしょうか?私の可愛い踊り子ちゃんは?」
「うむ、なかなか良い筋をしている」
銀髪をサイドで縛った長い髪。
露出は多いが、コインをあしらったトップスに、レースのベルトを付けたショーツ。
リズムに乗りながら素足を踏みならし、両手の湾曲した剣を振り、舞う………ランがいた。
アンリとランを交互に見ながら、料理を食べるサラとコウキ。
「まさか、ランが踊るとは思わなかったな」
「ランちゃん綺麗だなぁ。確か昔、アン姉に誘われてダンス習ってたって聞いたよ」
「はぁ?あいつがダンスって………似合わねぇな」
「何か、筋肉の運動に良いとか……お金かかるからすぐ辞めたみたいだけど、即興であんなに踊れるんだね」
辞めた理由が何ともランらしかった。
酒場を情報収集の場に選んだのは、自然と情報が集まり、かつ町に詳しい者が居る確率が高いからだ。
因みにアンリはマネージャーらしい。
「……胡散臭さが服着て歩いてるだけだろ、あれは」
「そかな?」
「第一、何で都合良くランの服とスーツと伊達眼鏡があんだよ」
「ミライ姉に頼まれたとか?チェリナさんとか」
「………あり得るな」
「え、怪盗が現れる場所?」
ふと、二人の耳にそんな会話が聞こえてきた。
耳をさりげなく澄ますと、アンリと支配人の会話が聞こえてきた。
「あぁ。近くに廃屋があるんだが、そこで時折怪しい人影が出るらしいな。あくまで噂だから真相は知らんが……」
「ネコミミなのですか?」
「あぁ、ネコミミだな」
やはりキャットウォークマンは一般人にもネコミミとして認識されていた。
それに二人は微妙な表情を見せ合い、サラは舞台で踊っているランに対してさり気なく手を挙げた。
ランが微かに頷いたのを見て、アンリは支配人を見る。
「では私はこれで、お気に召されましたら住所を教えますのでそちらへ」
「あぁ、また機会があったらよろしく頼む」
酒場の裏でランを待ちつつ、三人は固まって話していた。
「うっし、乗り込むぞ」
「えぇ、乗り込みましょうか」
「へ?え、今日!?」
驚くサラを、逆に二人はえ?と見返した。
「早い方が良いだろ」
「そうよ。思い立ったら吉日って言うじゃない、極東の言葉で」
「あぁ、早く行けばババアの死亡率が上がる気がするんだよ」
「コウキ君、後で私と一対一で話し合いましょうか?」
「………何、喧嘩してるの?」
そこに裏口から出てきたランは、現状に首を傾げた。
サラが事の顛末を話すと、頷くラン。
「私も賛成、今から行こう」
「……えぇ!?」
ランは反対派かと思っていたのか、サラはつい声に出して驚いた。
それに対して苦笑するラン、サラが声を上げた理由が何となく分かったのだろう。
「今日じゃないと駄目な気がするんだ、勘だけど」
「勘かよてめぇ……」
「でもランの言う通りよ、早く行きましょう?余り強くなさそうだし、問題は神月の方ね」
その言葉を聞いて、コウキのこめかみが自然と深くなった。
本当に根に持っているらしい、コウキは意外に正々堂々が基本の真面目少年だからだろうか。
「あの用心棒さえいなくなれば、後は猿並に弱い操られた一般人と泥棒猫………ネコミミ愛好団体だけよ」
「お前流石にそれ脅威減りすぎじゃねーか!!」
「今から行く敵陣がそんな評価で良いの可哀想だよ!?」
「煩いわねぇ、良いのよ勝てれば……ラン、手筈道理にね?」
ツッコミから一変し、真剣な表情で頷くラン。
それを見てアンリは伊達眼鏡を外し、棍を手に持った。
「さぁ……楽しい夜の始まりよ」




