陽炎 side:?
好事魔多し、あの少年には悪いことをした。
いくら依頼主を守護しただけとはいえ、悪事に加担するのは未だに慣れない…否、慣れることはないだろう。
あの少年には、運が悪かったと思ってくれれば此方としても心は軽い、所詮自己満足だが。
「………汚くなったな」
刀に付いた血を振り払い、鞘に納める。
足下には肉片と化したゴロツキの姿があった、数は四人ほどだっただろうか。
路地を歩いていた際、因縁を付けられたので取りあえず斬った、気付けば辺り一面血だらけだ。
「…………汚いのは、俺の方か」
ふと、そんな事を思った。
昔死んだ、唯一味方してくれた兄は、悪事が嫌いだった。
それに対して今の自分はどうだ、悪事に加担し、無闇な殺生、背後から他人を斬る卑怯な真似をしている。
「牛首を懸けて馬肉を売る……これが一番正しいか………」
誰に聞かせるわけでもなく、彼はそう呟いた。
それにしても、随分と血が跳ねてしまった。今日着ていた着物が赤い色で良かった、他の色だったら嫌でも目立っていた。
ー……仕事は夜からか
ー……さて、どうするか……。
そう思考してーーー背後から足音がした。
「……………へぇ」
「!」
振り返ると、あの時あの場にいた女がそこにいた。
………女の背中に、女とよく似た少女がぶつかった。
とーーー少女と目があった。
“鬼子が“
気付けば、路地から逃げるように走り出ていた。
少し後ろを振り返れば、少女が追ってきていた。
「コラーーー!!待ちなさい!!」
「…………………」
待てと言われて待つ奴を見てみたいものだ。
彼は少しだけ口を歪ませながら路地を走った。このローツェルブは初めて訪れた者にとっては迷路のように感じるほど町が入り組んでいる。
暫く走れば巻けるだろう……そう思っていた、が。
「お願いだから待って!この町初めてなんだよ!迷子になるから待って!話し聞くだけだから!」
少女はしぶとかった。
仏は彼女に味方でもしているらしい、恐らく少女は適当に走っているのだろうが………運が良すぎる。
ふと彼が前方に視線を戻すと、柵があった。
ー……あの先は、湖か。
迷いはなかった。
柵を軽々と飛び越え、湖に飛び込もうと宙を舞った。
ー流石に追ってはーーー
「ちょっ、危ないでしょアナタ!?下湖なのに!!」
「……………!?」
振り返って、ぎょっとした。
少女は何の躊躇いもなく、飛び降りてきた。
そのまま着物の裾を掴まれる。
「はい!捕まえた!」
「…………………お前、阿呆か?」
「……………………え」
水面が近づく中、少女の惚けた顔が嫌に目に残った。
ー………ま、当然か………。
ーこんな阿呆、初めてだ。
そしてその日、湖の端で小さな水柱が二つ上がった。




