馬車に乗って
突然だが、サラは[僧侶]、コウキは[双銃士]の職持ちだ。
[僧侶]は支援、回復を得意とする職。
[双銃士]は名の如く二丁銃を扱える職である。
ランとはバランスが良いので、よくパーティーを組んでいる。ランが近距離、コウキが遠距離、サラが支援だ。
仲も比較的良く、お泊まり会だってした………そしてそれを、
「………あのクソ男………!!」
「こ、コウキ落ち着いて………?」
馬車に揺られながらコウキは激しく後悔していた。
話を簡単に過去に戻すと、こうなる。
“今すぐ取り返してこないと皆クビにするから“
十代三人が職権乱用を始めてみた瞬間だった。
あんな大人にならないため、ギルドカードを剥奪されないため、アンリも一緒にクリスタを飛び出した。
ここでギルドカードについて説明を追加する。
ギルドカードの発行は冒険ギルドと商工ギルドにて一回ずつしか行えない。
犯罪防止の為のルールだが、一度カードを剥奪された場合、たとえ所属していたのとは別のギルドへ行っても、ギルド登録は出来ないのだ。
因みに、稀に冒険ギルドと商工ギルド両方に登録する者がいるが、違法ではないので黙認されている。
「でも、怪盗さんの居る場所も分かってるんだし、早く帰ってこれるよ!」
「けっ、どうだか……不幸女が居るんだから、簡単にいかねーだろ」
そう言い放ち、馬車の奥の方にランと共に座っているアンリを見た。
勿論馬車は狭いので、アンリとランにも聞こえてる。
「………姉さん、本当にコウキに嫌われてるよね………」
「そうねぇ。犬派か猫派かの少しの違いが、こんなにも深く溝を作るなんて……残念」
「誰もそんな話してないよ。所でさ、今から行く……えっと」
「“ローツェルブ“」
「そうローツェルブ、どんな所なの?」
ローツェルブ、クリスタから少し離れた場所にある街である。
人口はクリスタの二倍、クルヴェルと名付けられた巨大な湖が観光スポットとして有名な土地だ。
湖に住む淡水魚が名物で、味は淡泊でおいしいとか。
「そこでよくキャットウォークマンが出没するって言う噂を、薬草買いに行ったときに聞いたのよ」
「………姉さん?私、ローツェルブに行ったって聞いてないよ?」
ランに言われ、自分の失言に気づいたアンリ。
その時、ランが依頼に行って留守の間を狙い、内密に行ったのだった。
ー………まぁ、良いか。
「えぇ、話してないもの」
「また無駄遣いして!収入と出費が雲泥の差じゃんか!」
「お姉ちゃん、ランを育てるために頑張って働いてるじゃない」
「気持ち悪ッ!!もう私一人で生きてけるよ!」
「またまたぁ、私から見れば甘ちゃんの世間知らずっ子よ」
「それ常識を考えない姉さんに言われたくない!!」
「………………うっせぇ」
二人の会話を聞いて、コウキは自然と溜息を吐いた。
今乗っている馬車は、クリスタからローツェルブに行くための馬車で、魔物からの荷物の護衛の代わりに乗せてもらったのだ。
なので、他の業者からの視線が痛い。
「ふふっ、二人とも仲が良いよね」
「知るか」
サラの言葉に相槌をうち、眠ろうとヘッドバンドを目元へとずらしてーーーー。
鼓膜から脳を伝って頭の中に響くような音が一気に聞こえてきた。
「っっ!?」
「うっ………!?」
「?コウキ君、サラちゃん?ランまで………何やってるの?」
「っ………姉さん、この音聞こえないの………!?」
「音?私の歌声のこと?」
「それ本気で言ってるなら凄くイラってくるからやめて」
つい耳を塞ぐのは三人だけで、アンリや業者達は何ともないようにいた。
「音………ラン、それってまさか…」
アンリが口を開いてーーー急に馬車が止まった。
音も何故か止み、耳から手を離す三人。
「?どうしたんですか?」
「治療なら安く見ますわよ?」
「姉さんその敬語胡散臭さしか生まないよ」
馬車の業者がこちらへと振り返って………鎌を手にした。
「……………え?」
「っラン!」
唖然とするランを手で後ろに無理矢理引くと、鎌がランの前髪の毛先を捉えた。
それに我に返ったのか、ランがコウキ達の後を追って馬車から降りるのを見て、アンリも降りて小さく声を上げた。
他の馬車の人間達、ほぼ全員が農具を手してアンリ達を囲んでいた。
「ど、どうしちゃったんですか急に!?」
「加齢臭じゃねーのかババア」
「殺す」
「コラ!喧嘩しないの!」
「そーそー、喧嘩は駄目よぉ?」
そんな声が、馬車の上から聞こえてきた。
振り返って上を見ると、太陽の光に照らされて………黒いマントをたなびかせた、ネコミミの女が居た。
「はじめまして、クリスタ冒険者さん達……怪盗・キャットウォークマンよ。宜しく」
その女はそう言って、可愛くもないウインクをしてきた。




