馬鹿な人は痛い目を見る
赤い煉瓦のギルドに入る二人。
悲鳴が聞こえてくる二階に駆け上がり、扉を勢いよく開けた。
「ガキみたいに泣きじゃくってるおっさんはどこ!おしゃぶり喰わえさせるわよ!」
「イヴァルさん、何があったの!?」
「!!二人とも!!シェルの、シェルの服がないんだ!!」
………床に這いつくばっていたイヴァルの言葉を聞いて、二人はシェルの服が入っているクローゼットを開いた。
フリフリのエプロンドレスが、ハンガーに大量に掛かっている。
「シェルの服は相変わらずいっぱいあるけど……」
「そうねぇ、逆に増えてないかしら」
「違う、僕がシェルの為に作っていた新しい服が無いんだ!」
昔から変わっていない見た目の美青年……イヴァルは言った。
以前作った人形には愛着が沸くとは言っていたが、イヴァルのシェルに対する異常なほどの愛情は、最早初孫を喜ぶ祖父に等しい。
言われて机の上を見れば、確かに何かが置いてあった形跡が残っていた。
「僕が目を離した隙に窓から入ったらしくてね………殺す」
「イヴァルさん、その目はギルドマスターがする目じゃないよ」
「考えられるのは、[人形師]の技術かしら」
[人形師]は、人形に関することについては異常なほどに趣向を凝らすという悲しい性を殆どの者が持っている。
勿論イヴァルも例外ではない。シェルや他の人形達にかける愛は、人間と人形の壁を越えた。
「大方、レースとか変に工夫したのでしょ?」
「あぁ……シェルの服、流行を先取りしてるって前に聞いた」
「誰からよ」
「チェリナから」
「あぁ、あの永久の魔法少女から………」
「チェリナさんのことなんかどうでも良い」
復活したのか、イヴァルが急に立ち上がった。
窓の方につかつかと歩み寄っていく。
「僕に売られた喧嘩だ、六より喧嘩は弱いけどギルドマスターを怒らせたら命はないと思ってほしいね」
「………あの人、あんな性格だからモテるのにまだ独身なのよね…」
「姉さんそれ禁句だよーーー」
刹那、窓の外から何かが飛んできた。
それに気付いたイヴァルが反射的に避け………アンリの顔にめり込んだ。
「ね、姉さんーーー!!?また顔面キャッチしたの!?」
「………ったく、何なのよ一体………」
飛んできた物を拾い上げるアンリ。
黒いボールだった、軟らかいのでアンリに怪我はなかったようだ。
超不幸体質故なのか、悪運も強くなってきたなとアンリはしみじみと思って……目を見開いているランに気付いた。
「?」
「………姉さん、それ、反対側見て」
ランに言われた通りにボールを半回転させる。
そうすると、アンリの方からは見えなかったが白い文字で何かが書かれてあった。
“[人形師]の魔力がこもった服は頂いた“
“怪盗・キャットウォークマン“
……イヴァルが、握っていた窓枠を破壊する音が、二人の耳に入ってきた。
「……………うわぁ」
つい、ランの口からそんな声が漏れた。
まずもって、胡散臭いし怪しい、しかも手紙ではなくボールで送りつけてくるとは、落ちた場合はどうしたのだろうか。
幾らランでもこんな事はしない、得などしないしメリットもない。
ー………この人、馬鹿なのかな
「キャットウォークマン……聞いたことあるわ」
「え、そうなの?」
「えぇ、ここ数年で名を上げてきた怪盗ね。しかも職持ちよ」
「…………猫なのに?」
「ええ、猫ね」
………と、階段を駆け上がってくる音が響いたかと思うと扉が一気に開いた。
入ってきたのは、コウキと息を切らして追いかけてきたサラ。
「……あ、ランちゃんおはよう!」
「あ、うんおはよう……コウキ?」
「猫と聞いて来た」
「耳が良すぎるよ猫馬鹿!!」
※コウキは猫派。
そしてこれが、波乱の幕開けとなるのを誰も知らなかった。




