シュレーディンガーの猫
暴れるランを宥めつつ、見えてきた入り口から飛び込むようにして出たセスト。
そこで、本の中でよくありそうな出来事が発生した。
「あっ、セス………ぎゃぼっっ!!!」
「あ、スマンミライ…………ミライ!?」
一つ年上の少女の顔を膝蹴りで蹴ってしまい、そのままの流れで器用に着地したセスト。
振り返ると、ミライの他にセッカと蒼姫もいた。
ふと、蒼姫がセストの腕中のアンリを見て、目を細める。
「………………サンドリオンの、毒?」
「!ミライ、アンリとランを頼んだ!!」
「うぇえ!?何でいるのとか聞かないの!?」
「急いでんだよ退けよヘタレ!!何でいんだよ!!」
「言葉が矛盾してるの気付いてる!?」
セッカとミライに二人を押しつける。
「貴様等が受けさせられた依頼、本来ならば然るべき実力を持つ輩にさせる依頼だったらしくてな」
「あのアホリーダー………遊びかよっ………!」
「けど、三人が行ってからキルトさんが来たんだ」
キルト………獣人の風来坊の[占術士]だ。
「………危険種が、この洞窟で繁殖してる、危ない……って、だから私たち、来たけど………遅かったか?」
「んなこと言わせるかよ………良いか、絶対来るなよ。これは俺とアストがケジメ付けんだ!」
そう言って、洞窟へと走り出したセスト。
ミライと蒼姫が慌てて追おうとして………セッカに止められた。
「……………セッカ、離す」
「良いではないか、自ら死に行くのも一興……放っといてやれ」
「一興って…………人命かかってるんだよ!?」
「綺麗事だな、人命ならこっちにもかかってる奴が居る。まずはこっちだ………おいラン」
ランがセッカを見ると、ゴン!!と頭を殴られた。
そのまま地面を二、三転するランを見て、息を吐くセッカ。
「ガキが何やってんだ、家でままごとでもしていれば良かったものを………」
「虐待現場目撃しちゃったよ!!ランちゃん大丈夫!?」
「………………姉ちゃん」
「よぅし任せなさい早く戻ろう!!」
「その日以降、二人の姿を見るものは、誰一人としていなかった………。」
「想像が怖いよ!!」
「で?お前のせいでアストとセストは帰ってこなかったと」
「……………」
六の問いに、無言で首を縦に振るイヴァル。
あれから数日が過ぎ、本当に二人は帰ってこなかった。
「………兄さん、仕事、は………?」
「急いで片づけてきたから安心しろ。まぁ………アンリとランが無事だっただけマシか………毒は大丈夫だったんだろ?」
六の問いに今度はシェルが頷いた。
「後少し遅れてたら死んでたですの!超不幸体質なのにしぶとい生命力ですの!」
「お前それ喜んでんのか残念がってるのかどっちだ?」
「………六、この責任は取った方が良いよね」
口を開いたイヴァルを見る六。
蒼姫とミライ、セッカとキルトも見た(意外に勢揃い)
「………けっ!腹切って詫びるってか?アホか、このバラバラギルド、お前じゃねーと指揮取れねぇよ」
「………君は厳しいね」
苦笑して、さて、となったイヴァル。
「二人の遺体は無かったんだよね?」
「ん………洞窟中捜したけど、骨もなかったし血の匂いもしなかった………」
「僕の占いだと二人とも生きてるよ。………いつ会えるかは、流石に分からなかったけどね」
「キルトさんの言葉があれば、二人の親御さんを黙らせるのには十分……さてと、最後はアンリさんとランちゃんか……」
そう呟いて、二階にいる二人を思ってイヴァルは上を見た。
「姉ちゃん、私強くなる」
安静と言われたので、仕方なく読みたかった本をアンリが読んでいると、ランがいきなりそう口を開いた。
本から視線を外して見れば、ランは俯いていた。
「見てるだけだった、そんなのもうヤダ、強くなる」
「…………ランは二人は生きてないって思ってる?」
「………難しいからよくわかんない」
ふぅ、と息を小さく吐き、本を閉じる。
「ねぇラン、シュレーディンガーの猫って分かる?」
「?シュ……シュガートーストの猫?」
「遠い異国の人が考えた方式なんですって。箱に猫を入れて毒素を発生させて生死を判別するって言う、分かり易い喩えよ」
完全に理解不能状態なラン。
それを分かってか、アンリは続けた。
「けど箱に入ってるから中は分からないでしょう?憶測の状態なの」
「なら開ければいいのに」
「そ。実際に見ないと憶測は崩壊しない、けど開けたことによって生き残った猫の数が分かってしまう……ねぇラン」
そして、言った。
「二人を猫に例えたら、生死不明の見えない状態よ?」
「!つまり、生きてるのか!」
「あくまで確率の問題を推奨したのだけれど……私はそう思うわよ?」
「うおー!なら頑張るどーー!!」
そうやって一人で外に叫び始めたランを見て、アンリは笑った。
セストと…アストリッドはしぶとく生きているだろう、それは四年間行動を共にしたアンリが分かる、勘だった。
だから、笑っていられる。
ー……次に会うときは……
ー………一皮剥けた私を見させてあげるわよ
「今日のご飯はカレーが良いなー!!」
「うるせぇ近所迷惑だろ!!」
「あらおっさん」
その場に一人残り、腕を組んでいたキルト。
そのキルトを見、ミライは近寄ってみた。
「どうしたんですか?」
「…………少し、あることが気になっていてね」
「?」
首を傾げるミライ。
ある一点だけ、誰も気付かないで、知らないことがあった。
ー……番ではないのに何故サンドリオンモンキーに子供がいたか……。
ー……そもそも、サンドリオンモンキーに雄は………
「観測されていない筈だ………」
「?」
そして、緩やかに時は流れの速さを増していった。
ランが準主人公になった11年後編へ




