それでもお前は商人か
草花が道端に生えているのを馬車に揺られながら見る。
こういった風景をのんびりと見るのも良いかもしれない。なにせ、オルディア国の首都、メルリーンは木はあっても雑草がなかった。
「……あのよぉ、あんた、俺に謝罪の一言はないのか?」
「え?言って欲しいのおっさん?」
「誰がおっさんだ!!」
アンリは荷台から、馬車を操っている青年を見た。
黒い髪を後ろで一つに結わえた、どう見ても三十代位にしか見えないので、愛称?はおっさんである。
「冗談よおっさん、良いじゃない、若い子と絡めて嬉しいでしょ?」
「ガキには興味ねぇよ、つーか俺はまだ21だ」
「うっわぁ、そういうパターン良くあるわよねぇ、おっさん強面だからそうに見えるのよ、整形したら?」
「ぶっ殺すぞ」
そろそろ怒りで手綱を持つ手が震えてきていたので、やれやれとアンリは大人しく後ろへ頭を引っ込めた。
「全く……最近の若い奴は、クリスタまで折角送ってやってるのに」
「まぁまぁ、怒らないで」
「誰が怒らせたと思ってる」
「んー、私かしら?」
……最早、彼の口からは溜息しか出されなかった。
流石の彼……六は幼子を背負っているまだ十代前半であろう少女を、怒りに任せて道端に捨てるなど出来なかった。
因みに何時もならしてる、行儀作法を身に付けていない奴は嫌いだ。
「おっさん、名前は?」
「あー、六だ、百地六」
「ジラチ・ロク………変な名前ね」
「極東出身なんだよ」
「キョクト?」
極東は独自の文化を開花させた、大陸の極東に有るとされている国である。
極東出身の者は変に律儀だとか、忠誠心が強いだとか、様々な憶測が飛び交っているが世間一般的には知られることは少ない国だ。
それを六はアンリに一々説明した。
「あぁ、故郷がつまらないからこっちに来たのね」
「こいつ何でこんなに歪んでんだ………可愛くねぇな……」
「擦り潰すわよ」
「何をだよ!?まぁいいや……俺はクリスタの手前までしか送れないぞ、そこまで着いたら自分で歩け」
「…………………チッ」
「イヤイヤイヤ、今の舌打ちは何だ!」
アンリが自身の後ろにいるので顔は見えなかった。
実際は六が慣れてきた為に反応が薄くなったのを見て、悔しくてつい舌打ちした、というのが真実である。
「この辺りは魔物は少ないからな、俺としては楽……」
「その言葉全部言ったら刺すわよ」
「いきなりどうした!?」
「変なフラグ立てないでちょうだい、そんな事言うからいきなり魔物とかが襲ってくるのよ」
そこまで言って、アンリはハッとした。
……六の視線が痛い。
「……最後まで言ったな、お前が」
「……エヘッ」
「笑っても散々お前見たから可愛いとは思わないな」
その時、馬が声を上げていきなり停止した。
何事かと前を見て……あ、となった二人。
目の前には、魔物の小さな群がいた。
次回、戦闘