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悪夢の四重奏

「………ラン、降りろ」

「おうさ!」


ランを肩から降ろすセスト。

……静かに武器を構える。

そして………炭坑の道の先の角から、猿の顔がちらりと覗かれた。


「いやいや、バリバリ見えてるって!!」

「セス君ったら、こんな時までツッコむ?」

「セスト、空気を読んだらどうだ」

「セストは空気も読めないのか?」

「ランお前もか!!後なんだよ“も“って!!」


そして四人は再び正面を見て……固まった。

猿の顔が尾の先に描かれた、巨大な蠍だった。


「サソリがベースかあの魔物!!!」

「サンドリオンモンキー………あれのどこが猿だと言うんだ」

「っ来るわよ!」


ギョロ。蠍の目が四人を捉えた。

その巨体が炭坑の壁を無理矢理通りながら走ってくるのを見、投擲刃チャクラムを構えたセスト。

それをアンリは見て、はっとした表情になった。


「炎げ……」

「駄目よセス君!!」

「バフォッッ!!」


投擲刃チャクラムに火花が散ろうとしたので、慌ててアンリはセストの腕を掴んで引いた。

そのまま通路の端へ移動したので、サンドリオンモンキーが勢いのままに通り過ぎた。


「……っ何すんじゃいこの野郎!!」

「こっちの台詞よ!!心臓破裂するかと思ったわ!!」


アンリの頭が、流血していた。


「お前を見るこっちの方が破裂するわ!!何があった一瞬の内に!?」

「良い質問ね。あんたを引くときに勢い余って石炭に頭ぶつけたのよ」

「アホ!!ちゃんと周り見ろお前早死にすんぞ!!」

「その言葉、まるっとセス君に返すわ。見て」


アンリの指示した先を見るセストとアストリッド、ついでにラン。

石炭がサンドリオンモンキーが通過するときに傷ついたのか、空中に粉っぽい物が舞っていた。


「粒子状の物は発火性が高いのよ、今ここでセス君が炎系の技なんか使ったら私たち諸共、炭坑のゴミ屑になるわよ」

「え、マジで?」

「確か、フレア系の魔法を強化する際は石炭を使うんだったよな」

「流石アスト、だからこの炎をも保険として消しましょ」


そう言えば、アンリが持っていた炎が音もなく自然と消えていった。

その代わりなのか、魔法弾を出して照明代わりにした。

サンドリオンモンキーは、狭い通路をやっと思いで方向転換していた。


「うわっ、姉ちゃんまたこっち来る!」

「どーすんだよなら!俺投げるだけか?無理だろ倒せないだろ!」

「黙れ邪魔者」

「邪魔者って………アンリお前、段々口悪くなってくよな…」

「一度撤退した方が良いわ、私が魔術で奥に流し込むからこの隙を見て外に出るわよ。夜行性ってあるし、外はまだ日は昇ってる」


そう言い、再び向かってきたサンドリオンモンキーを正面に捉えたアンリ。

そのアンリの足下に、魔法陣が広がった。


「ーーー《激流ウォーター》!!」


同時、魔法陣から大量の水が溢れ出た。

そのままサンドリオンモンキーに直撃し、動きが止まるのを確認する。


「今よ!」

「流石魔導少女!格好いい!」

「調子に乗るな……」


動きを止めているサンドリオンモンキーの間を走り抜ける。

ふとセストに手を引かれているランがアンリの背後を見てーーー息を一瞬止めた。


「姉ちゃん危ない!!」

「は?」


ランの言葉に首を傾げたアンリ。

………そのアンリの背中に、太い針が突き刺さった。


「!!」

「ね、姉ちゃん!!」


倒れるアンリの周囲を、小さな蠍がわらわらと囲んでいく。

その小さな蠍は、動きを止めているサンドリオンモンキーの背中から尾を伝って地面に降りてきていた。


「ちっさーー!!」

「!蠍の習性か!!」


雌の蠍は、孵化したばかりの子供を背に乗せて保護する習性を持つ。

恐らく攻撃が雌を直撃したことにより、子供の攻撃性が高まったのだろう。

セストの手をふりほどき、近くの石を手にするラン。


「姉ちゃんから離れろこのちくしょーー!!」

「ラン危険だ!!」


石を投げ、蠍が離れていくのを見てすぐさまアンリに近寄るラン。

アンリの顔は、暗闇でも見えるくらい青くなっていた。


「アスト、姉ちゃんが危ない!背負って!」

「毒か………背負うなら、セストに背負わせろ」

「は?!」


セストを見ずにそう言って、アストリッドは銃と剣を構えた。

それを見て、目を開くセスト。


「ばっ………足止めする気かよ!?第一アンリの奴が言ってた爆発なんちゃらが、お前の銃の火花で………」

「幸い、アンリの魔術で粒子は舞っていない。この数だからな、一人が足止めしないと他の奴は生きて出れないだろ?」

「…………っ馬鹿かお前!!」


遂に激怒したセストが、アストリッドの襟首を掴んだ。


「まだ好きな女に告ってない奴が偉そうに!!何あほなこと言ってんだ!!俺も残る」

「お前はアンリを背負ってくれ、ランじゃクリスタまでもたないし背負えないからな」

「あのな!!」

「俺のことは良い、先に行け………頼むから」


そう言うアストリッドの目は、真剣そうで、哀しみを帯びていた。

……小さく舌打ちし、乱暴にふりほどくセスト。

既にサンドリオンモンキーは臨戦状態に入っていた、火花を散らせばすぐに戦闘に移りそうだ。


「…………ぜってー戻ってくるからな、くたばんなよ親友」

「…………アンリの事落としたら、その首に風穴開けるからな」

「………おう!行くぞラン!!」


乱暴にアンリとランを脇に抱えると、一気に走り出したセスト。


「!?セスト、アストどうすんだ!?」

「知るか!!良いから黙ってぶら下がってろ!!」

「何言ってんだ!?降ろせって………アスト!!」


………ランの声に、小さくアストリッドは微笑する。

その笑みが、ランにはすぐ近くで見ているかのように、大きく見えた。


「………やだ、やだよ、やだぁぁぁぁあ!!」


ランの悲鳴は、銃音によってかき消された。

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