農家の妹
それから三年の月日……がいきなり過ぎるわけが無く。
ランが生後半年を迎え、離乳時期になった頃……
「面倒ねぇ…‥…何で私なのかしら」
「うー」
アンリはランを背負って早朝の町中を歩いていた。
手には、カビが繁殖しないように魔法がかけられた主婦にとっては大助かりの野菜保存用の入れ物を持っている。
「何で私がセス君の補習のために変わりにアス君の家に食糧届けないといけないのよ‥…眠いわ」
最近知ったのだが、アストリッドの両親は殆ど家に帰ってこないらしい。それを見かねて悠々亭がアストリッドの為にこうして食事を分けるのだとか。
余談であるが、セストのテストの点数は結局上がらなかった。
そうして市場を通り、アストリッドの家へ向かう途中。
自然な動作で足元を見ーーー何かが落ちてくる気配がした。
顔を上げると、目の前に植木鉢があってーーー誰かの手。
「!」
「……‥…‥…危ない、気をつける」
手の人間を見る。
黒髪黒目で、何故かセーラー服の少女が植木鉢を片手にそこにいた。
そしてもう片方には、かぼちゃ。
ー……‥今、かぼちゃって生える時期だったかしら?
「あ、ありがと」
「…………ん」
礼を言うと、何故かかぼちゃを一つ差し出された。
よく分からなかったが受け取ると、満足したように少女は頷いて市場の方へと去っていく。
……アンリでさえも、反応に困った。
「あぁ、そりゃ蒼姫だな」
「蒼姫って…………おっさんの妹?」
「そー、ってか、なんでお前学校にいるんだよ‥…‥…」
「偶然よ、偶然」
クリスタの学校でセストにその話をしてみたアンリ。
建前上は、来たのは偶然としてある。
「暇な時に市場で育てた野菜卸してんだよ。[農家]だしな」
「………[農家]って本当にいるのね……セーラーは?」
「極東じゃ18まで義務教育なんだってよ。前におっさんが話してた」
つまり蒼姫は18歳らしい、歳よりも若く見えた。
そしてアンリが気になるのは、もう一つ。
「何でかぼちゃをくれたか………セス君を殴るため?」
「かぼちゃがお前には鈍器に見えんのか!おっさん言ってただろ、野菜くれるって!」
セストの言葉を受け、真面目に考えてみる。
市場を来ていたのならかぼちゃを分けてくれる理由が分からない。売り物の筈だ。
それとも、このかぼちゃは規格外製品で、いらないから通りすがりのアンリに押し付けたのだろうか。
ー…………あ。
「あの人、私のこと知ってるのかしら?」
「じゃねーの?おっさんの事だから話してるだろ」
「…‥…かぼちゃって、離乳食に使えるのよね」
「俺に言われても‥…あのよ、早く帰ってくんね?」
そうであれば、彼女に感謝しなければならない。
家がどこなのか分からないので礼は出来ないが、気長にまた会えるのを待ってみようと思った。
ー何だか、まったりしてそうな人だったし
ー……‥。
「今、夏なのに何でかぼちゃ……」
「温室栽培してるからなー」
「…‥…‥儲かってるのね、あの人」
流石のアンリも、苦笑するしかなかった。
一気に4年後になります




