ギルドへの道程は長し
日が昇り、鳥がさえずり出す時間帯。
アンリは家の中で鞄の中身と家の中の片付けをしていた
「ふぅ、何時もこんなに働かないから……疲れた」
「うーっ」
「あぁはいはい、ミルクね」
愚図り始めた妹を抱えてすぐさまあやす。
鞄には日常で必要な物や武器のナイフ、裁縫道具が入っている。調理器具はない、家事は殆ど出来なかったりするので。
ー………ここから一番遠い冒険者ギルドは……
ー………クリスタって町ね
クリスタ、オルディア国の国境の少し手前にある小さな町である。主に国境を越えてくる旅人への観光業で収入を得ているらしい。
クリスタならば4日もあれば行ける距離であるし、国内の方が色々と便利だ。
「あぶーっ」
「あぁほら、積み木は食べちゃ駄目よ、絶対死ぬから」
「うーうー」
「…………赤ん坊にしては物分かりが良いわね……」
そう呟いて、アンリはふと思った。
今更なのだが、名前を付けていなかった。うっかりしていたにもほどがある。
「何が良いかしら?エリザベス?ウケを狙って花子とか?否、逆に狙いすぎててつまらないわね……」
そう一人自問自答して、ふと片付けていた荷物を見た
母の手持ちの中に植物の標本があるのだ、あわよくば貰って金に換金しようと思っていたのだが。
その中のランスリカの花が、偶々目に入った。
「……ならランで良いわね、毒のある花から付けた名前って言うのもイカすと思うし」
ランスリカは水媒花の一種で毒霧が発生する湖に咲くという珍しい花である。
見た目は青い花弁に白い線が走っていて可愛らしいので、毒をなくし商品化しようと試みた人間が居るほどである。
「さてと、そろそろ行こうかしら、行くわよラン~」
「う?」
「………着いてくるわけないわよねぇ」
仕方ないので再び背負った。
鞄を持って外に出るが、まだ完全に日は上がっていなかった
街の郊外へと向かって歩き出すアンリ。
「どこかに丁度良くクリスタに向かう人いないかしら…歩くの面倒臭い……もう疲れた」
それは歩き出してから10分が経過してからの言葉だった。
動くのは余り好きではない、体力は温存したい、だが今更戻るのも面倒臭い。
「………まぁいっか、出発は明日に……」
刹那、アンリの横を一台の馬車が通った。
それを見逃すアンリではなかった。
「止まれぇぇぇぇぇぇぇえええ!!!」
「ん?何だ………ぎゃあぁぁああ!!?」
馬車の運転手を恐がらせるくらい、アンリのそのときの表情は修羅と化していたと、後にランは聞かされるがそれはずっと後の話。