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今日だけは死亡フラグでなく勉強フラグ

その翌日、キルトはいつの間にかクリスタから姿を消していた。

シェルや帰ってきたイヴァルの話では、旅という名目で放浪するのが趣味らしく、滅多にクリスタへ帰ってこないらしい。


「帰ってくるぐらい、アンリちゃんの能力スキルは珍しいってことさ。国に天然記念物の申請でも出すかい?」

「その顔面剥ぐわよ」

「いやだなぁ、冗談だよ」


笑いながら言ったイヴァルの顔面を殴りたい衝動に駆られた。

そんな事は兎も角、アンリは宿に戻る事に。


「……………あら?」


戻ろうとして、首を傾げた。

アンリは基本、宿屋に入るときは裏口からなのだが、その裏口で随分と見慣れた赤髪と青髪の少年がコソコソ何かをしていた。

足音を消して、背後に近寄る。


「かまぼこ!!!」

「ギャーーースッッ!!?………って、お前かアンリ!!」


セストとアストリッドが振り返ってアンリを見る。

……セストが何かを裏手に隠しているのが丸見えだった。


「み・せ・て?」

「誰が見せるかこの野郎」

「失礼ね、私は女よ。と言うよりも貴方達、学校は?」


クリスタにも勿論学校は存在する。

8歳から13歳まで、約6年間通学するのだ。アンリもメルリーンの学院に行ってはいたが、クリスタに来るために自主退学した。


「今日は午前だけなんだ。聞けよアンリ、セストの奴テストで3点取った……」

「アストてめぇぇえ!!それ言うならお前48点だったろ!」

「お前と違って一桁じゃない、町の中ぶらついてないで勉強したらどうだ?」

「その言葉、俺とつるんでるお前にそっくり返すぜ!」

「私からすればどんぐりよ、どんぐりの背比べ」


……黙り込む二人。


「因みにどの教科?」

「………………地理」

「…………………………はっ、仮にも冒険者が何で地理で一桁なの?アホなのは知っていたけれど………人生やり直したら?」

「そこまで言われなくちゃならねぇのか俺!?」

「仕方ないわねぇ……メルリーンの学院で常に上位に入ってた私が直々に教えてあげるわ、上に来て」

「さり気ない自慢やめろ!」




ランを寝かせて、アンリは二人を見た。


「じゃあ地理について始めるわね、テスト見せて」

「え」

「どこ教えるか把握したいの、セス君のね」


……渋々と差し出された答案用紙を見るアンリ。

そして、一瞬にしてアンリの手の中で灰と化した。


「俺のテストーー!!処分には困ってたけど母ちゃんに見せてねぇのに!!」

「話にならないわ。何で計算問題だけだけ出来てるのよ」

「え……金に換算すれば出来るからな」

「そもそも地理に計算問題が出ることがおかしいのよ、こうなったら基本から始めるわよ」


そう言って、棚の中から世界地図をアンリは取り出した。

机じゃ狭いので床の上に敷くようにして広げる。


「これが地図よ、分かる?」

「お前俺のことどれだけ馬鹿にしてんだコラ」

「セスト諦めろ、アンリはこういう性格だろ?」

「…………つってもよ、地理とか似たような単語多くて覚え切れねぇよ」


セストの言葉に、ふむ、となるアンリ。

そして手を叩いて、ビビットカラーのクマのヌイグルミを手に取った。


「……目に痛い色だな」

「ラン専用のクマよ。良い?頭がオルディア国、そこから左腕がロータス共和国、右腕の根元がエスドラ連合国、左耳の所がクラヴァス、右足がフォドラ」

「へー」

「クラヴァスはエルフ族の故郷とされてる魔術国家、フォドラは独裁国家だから情報は少ないわ。オルディアとロータスは互いに貿易関係で友好関係は程良く良し」

「ロータス?」

「……救いようがない馬鹿ね、主に鉄製品や音楽で栄えてる都市国家よ。民主制を推進してるから住みやすいわね」


クマを置きながら言うアンリ。

セストは、あまり話に着いていけなかった。


「……やるからには、とことんやりましょうか?」


そんなセストに、アンリはニコリと笑いかけた。

…素早くアストリッドは荷物を纏めるが、セストに肩を掴まれる。


「逃げるなよ親友」

「寝かせてくれないか?」

「いつも十分寝てるだろ?良いから一緒にアンリ先生の授業を受けようぜ」

「断る」


遂には無言でにらみ合う二人を眺めるアンリ。


ー……始まらないわ

「…………まぁ、少なくても後10時間は勉強できるし良いか」


そう呟いたアンリの言葉に、二人は固まった。

お昼の一時頃を少し過ぎた時間だった。

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