姉と妹二人
彼の者の名はガラス・ヴェストルド
オルディア国騎士団団長にして英傑と証された男である
……が、馬車に跳ねられて死亡、享年46歳
彼の者の名はエリス・ヴェストルド
ガラスの妻で、お淑やかで人望のあった女性である
……が、難産の末に死亡、享年35歳
そんな二人の娘、アンリ・ヴェストルドは墓の前で途方に暮れていた。
背中に首の据わっていない赤子を背負って、少し重いが。
「………困ったわねぇ、齢12歳で家無き子になるとは」
全然困った顔をしていない。
アンリは少し周りとズレていた、同年代の子より少しだけ頭が良く、少しだけ魔法の才に溢れ、少しだけ周りを冷静に見ていた。
なので分かっていた、ここで子供のように喚いて泣いたって何も起こらないことを。
「そもそもお母さんも歳だったんだから、止めとけば良かったのに……ま、お陰で天涯孤独にならずにすんだけれど」
「うばー」
アンリに反応したように笑う赤子、因みに妹だ。
自分と同じ銀髪に青い目、将来は美人になるだろう。
ー……さてと、これからどうしよう
「叔父様は一年前に肺癌で死亡、叔母様は先日頭を強く打って死亡、祖父祖母はとっくに死亡……どうしましょ」
こういう時、騎士団やら街の孤児院が声をかけてくれれば楽だ。だが葬式から三日過ぎた今でも、そんな誘いは一回もない。
数日の間に立て続けに死亡したアンリの両親、二人とも人望が取り柄のような人柄だった。
だから分かるのだ、アンリの一家の不幸さが。いきなりすぎて皆が異端視するぐらい、不幸の元に産まれた子を引き取りたがる物好きなど、いない。
「……そうね……冒険者ギルドにでも行こうかしら、遠いところが良いわね、田舎辺りにしましょう」
そう呟いて、アンリは墓の横に設置されたベルを鳴らした
小さい音が響いたのを確認して、笑う
「さよならお父さん、お母さん、取り敢えずもう会わないと思うから、元気でね」
そしてアンリは、明日にはオルディア国を旅立つために、墓地を去ったのだった。
初投稿。