コンビニ帰りの邂逅
リアルで色々あって前作がスランプ停滞してる中、手慰みに書いたら興がのった作品です。
私自身、異世界物が大好物なので私なりに書いてみました。
反省はしても後悔はしない、の精神で。
如月灯真。27歳・引き篭もりニート。
就職自体はしたのだが、2年で鬱を発症し退社。
その後もバイトを転々とするも、鬱を発症する度に欠勤し、クビになる。
現在では気力も何もかも失くして引き篭もっている。
引き篭もりとはいえ、外出はする。近所のコンビニと自宅の往復だけだが。
その、コンビニからの帰り道。
「何だコレ・・」
ピシリ、と音がして灯真の目の前の空間に亀裂が走った。
亀裂の中身はぐにゃぐにゃと蠢く謎空間。とても近寄りがたい。
「ちょっとワクワクするが、君子危うきに近寄らずってね」
オカルト好き・ラノベ好き・サブカル系全般大好きな灯真は興味を示すも、スルーする事にした。
亀裂を避け、自宅へと歩みを進めようとする。
読みかけだったラノベの続きに思いを馳せながら。
すると、亀裂の横を通った時だ。唐突に足元の感覚がなくなった。
重力から解放された灯真の体が、亀裂へ向かって一直線に吸い込まれる。
「え? ちょ、これ強制イベントですかぁーーー!?」
奇矯な叫び声を上げながら、灯真の体は謎空間に消えていった。
灯真が"この世界"から消えた直後、亀裂は塞がり何事も無かったようにその場に静けさが戻った。
◆◇◆◇◆
「う、う~ん・・?」
灯真は謎空間で目覚めた。どうも亀裂に吸い込まれた際に気絶していたらしい。
謎空間は全く持って謎だらけで、何も見えないというか、見えているのがぐにゃぐにゃと蠢く灰褐色のナニカのみ。
意味の有る者は何も無かった。
「ここは・・」
灯真がそう呟いた時。
「気が付きましたか、如月灯真よ・・」
空間に響き渡る、涼やかな女性の声。
思わず灯真は辺りをキョロキョロと見回した。
しかし、何かが目に入る事も無い。
「何だ!? 誰だあんた?」
「私は管理者・・。そうですね、解り易く言うと『神』です」
その名乗りと共に、灯真の目の前の空間が光り輝く。
思わず目を瞑った灯真が再び目を開いた時には金髪碧眼、ロングストレートの髪とたおやかな肢体を白い布で包んだ、灯真のイメージをそのまま抜き出したような女神が鎮座していた。
「あ、あぁ・・。女神さんね。納得だわ」
見た目がイメージ通りだった感想を取り敢えず呟いてから。
「で、ここはどこ? 俺に何が起こったわけ?」
灯真は詰問口調で女神に問いかけた。
「ここは次元の狭間です。貴方は、次元の狭間に飲み込まれました」
「・・はぁ」
いまいち実感が沸かない。あの亀裂が次元の狭間だったのだろうとは思うが、情報が少なすぎる。
「で、ここが次元の狭間だとして。サッサと家に帰りたいんですが」
自宅には読みかけのラノベがある。撮り溜めたアニメや、積んでるゲームだってある。
こんな所で悠長に駄弁っている時間が勿体無い。
「できません」
「は?」
「貴方は、元の世界に返る事は出来ません」
「・・はぁ?」
唐突に告げられたその事実に、軽く混乱する。
混乱するも、直ぐに思い直す。
ここ最近は死ぬ事ばかり考えてきたのだ。こうやって痛みも何もなく死ねるなら本望じゃないか?
家族は行方不明として探すだろうから、それだけは心苦しいが。
「いえ、死ぬという訳ではないのですが」
「心くらい読めるか。で、死ぬ訳じゃないって? 返れないなら、俺は何処に行くんだ?」
ひっそり心の中に芽生え始めた期待を表に出さずに、ゆっくりと問う。
これは、これはもしやーー。
「貴方はウィンガーベルドという世界に飛ばされます。正確に言うなら、飛ばされる最中に私が干渉しているのです」
「異世界トリップキターーーーーーー!!」
ひゃっほう、と灯真は右手を高く掲げ、クルクルと回る。
「で、異世界に行くに当たって何かチート能力とか貰えるんですかね!?」
目の前の女神にそう問いかける。女神は灯真の反応が予想外だったらしく、困惑気味だ。
「いえ、チート能力、というのは因果律を歪めますので与える事が出来ません。貴方の肉体も、魂も、この世界で生まれてこの世界で育んできたものですから、それを改竄する事は、可能ですが出来ません」
「チート無しトリップか・・。まぁ成り上がり系って事か? 良し、それはそれで燃える」
「しかし、それなら女神様は何しに俺に干渉してきたんだ?」
「それは、貴方が唐突に向こうに放り出されて混乱しないよう、事前知識を与える為ですよ」
そう言うと同時、女神の姿はセルフレームの眼鏡をかけ、髪をひっつめてスーツをビシッと着こなしたものになる。
手には指揮棒のような者と本を持ち、いつの間にやら後方には黒板が現れる。
女神から女教師にクラスチェンジしていた。
「という訳で、まずは向こうの言葉から学習していきましょう。ここは次元の狭間。時間という概念の外にありますので、いくらでも学習できますよ」
ーーこうして、女神によるウィンガーベルド講座が始まった。