第四章 回想
――父が出て行って一年以上が経つ。
父はまだ帰って来ない。
わたしはいまだ、住まいのアパートを出ていなかった。
父の言う通りにすると、失う物があまりに多過ぎたからだ。
なんとなく、頭の片隅では、このままじゃいけないと思っていた。父の言う通りにしないと、いつか痛い目をみるかもしれない、そう思ってすらいた。
だが、学校があるから、忙しいから、今日は疲れているから……――言い訳ならたくさんあった。
わたしは父の言い付けを守ることを、そうやって先延ばしにし続け、いつしかそれほど気にしなくなっていった。
その頃には進級もして、希望の高校への推薦入学も取り付けていた。
これは父の御陰だった。学者の父の話を聞いて育ったわたしは、理数系が好き――……得意だった。
後数カ月もすると、無事中学を卒業する予定だった。後はこの“苦しい”残りの学生生活を、どうにか全うするだけ。
周囲の人々の視線、暴力、無視、見えない圧力……それらに曝される日々。精神的にとても辛いが、あと少し耐えれば、新しい学校での、新しい生活が待っているはずだ。
だからこそ、今更あんな馬鹿みたいな話を鵜呑みにする訳にはいかなかった。けれども、世界は、そんな馬鹿な話を中心にして、目まぐるしく動いていた。
わたしの周囲の環境だけでなく、世界は大きく変わっていた。
後数カ月で、世界規模で獅子座隕石群が襲来する――それは確かだった。世界はそれを認めていた。
そんな馬鹿みたいな話を信じなかったことを、わたしはその最後の数カ月で、心底後悔することになる。
朝早くにアパートを出て、貼紙だらけ、落書きだらけの、ドアの表面を見る。
『死ね』『出て行け』『お前を殺す』『売国奴』『――――』『――――』
――貼紙も、落書きも、どれも似た様なことが書いてある。その数は毎日少しずつ増えている。
鍵を締め、しっかり締まってあるのを確認してから登校を始める。
時刻は朝の六時。歩いて十五分ほどの学校へ行くには、あまりに早い登校時間だった。それでも、わたしはこの時間帯に登校を済ませておく必要があった。
登校する途中で、朝食代わりの缶飲料を買う。売る相手を選ばず誰にでも売ってくれる、ありがたい存在だった。
昨日はお汁粉だったから、今日はポタージュスープにした。この時間帯は寒いから、温かい物をよく選んで飲んでいた。一本じゃ足りないけれど、お金はあまりないから仕方がない。お昼の給食まで我慢するしかない。
朝の部活動をしている学生ですらまだ来ない時間に、わたしは学校に着いた。
買い食いは校則で禁止されているので、敷地内に入る前にスープは飲み切ってしまった。
生徒用の正面玄関はまだ開いていない。わたしは一人、玄関前に二段だけある階段の一段目に座る。温かい物を飲んで温まっていた体が、少しずつ冷えてゆく。
守衛さんが開けてくれるまで、後五分か十分ほどか。朝練の生徒が来る三十分前にはいつも開けてくれるから、それを待つ。膝を抱えて、じっと待つ。
木枯らしが何度目か吹いてから、ようやく背後で鍵が開けられる音がした。
わたしは立ち上がりながら、背後を振り返った。
硝子の玄関扉を一つ一つ、開いてまわっている愛想の無い守衛。彼は一度だけこちらを一瞥すると、何も言わずに校内へと戻って行った。
……朝練に来た生徒には、笑顔で挨拶をするはずなのに。
下駄箱を開くことは億劫だから、わたしは上靴を毎日持ち帰っていた。
いつもの様に、鞄から上履き入れにしている巾着袋を取り出して上靴を取り出し、履き替える。下履きを今度は巾着袋に入れ、それを鞄に詰めなおす。
こんこんと、爪先で床を蹴って、履き心地を整えてから、まだ履き慣れない新しい上靴で歩き出す。
自分の下駄箱入れの前を通った時、横目でそれをほんの一瞬だけ見てしまう。
蓋がボコボコにひしゃげてしまっている、ネームプレートが取れて無くなってしまった、わたしの靴を入れるための小さな空間がそこにはあった。
そこを使うことは、残りの学校生活の中で、恐らくもう無い。開くことも、きっと無いのだろう。
そこには靴が入れられていない代わりに、紙が蓋の隙間から無数にはみ出している。それを確認しようとは思わない。ただその前を通り過ぎて、廊下を進む。
一年生は四階。二年生は三階。三年生は二階。教師は一階――最後の三年生が一番楽。わたしは二階に上がった。
教室に入って先ずすることは、椅子と机の状態を確認すること。汚されていないか、何か仕掛けられていないか、確認してゆく。最後にしゃがみ込んで、机の中の掃除を始める。
もう何も入れないようにしているそこ。けれども、そこには毎日必ず何かが入っていた。
『父親のコネで推薦を貰うのはどうかと思います』『死ね』『学校に来るなうざい』『宇宙船が奪われたのはお前のクソ親父のせいだ』『死ね』『死ね』『消えろ』『進学の推薦貰う必要あるの? どうせ宇宙船にも推薦で乗るんでしょ? いつ外国に行くの? 早く行けよ』『死ね』『死ね死ね死ね』『消えろ』『――――』『――――』
――呼吸が止まっていたことにわたしは気付く。
はっとして顔を上げる。
両手から溢れださんばかりの紙を抱え、わたしはそれを、ゴミ捨て当番が毎日放課後空にしているゴミ箱に捨てる。
椅子に座り込んで、机に突っ伏して、残りの時間を過ごす。
その内……その内きっと、他の生徒たちも来るのだろう。
今日も長い一日が始まる。
授業を受けている時が一番楽だ。何もされないから。
トイレに行く時は、教科書を全部鞄に入れて持って行かないといけない。その時に――
『そのまま帰れば良いのにねー』
あるいは嬉しそうに、
『あっ、帰るんだ~?』
と、言われるのも毎度のことだ。
――聞こえているよ。
せめて聞こえないように言おうよ。
給食の時間。一日の内で一番栄養が補給できる貴重な時間。
わたしが配膳係の時は皆、決まって嫌な顔をする。
当番の日は、休み時間中にまた机に紙を入れられる。
『お前がメシ注ぐと汚ねぇんだよ死ね』『食べ物に触るな』『自分だけ多く注ぐな』『お前はゴミでも食ってろよ』『死ね』『餓死しろ』『――――』『――――』
自分に注ぐ量は、むしろ少なめにしている。多く注ぐと、何を言われるか、何をされるか、わからないから。
逆に、わたしが当番じゃない日は、決まって分量が少なくなる。かといって、おかわりに行くのもダメだ。行くと、休み時間中にまた余計に机に紙を入れられる。
何も言わず、一人で素早く食べ終えるのが正しい在り方だ。
昼休みは一番嫌な時間だ。
教室にいると、何日かに一回ぐらいの確率で、わたしの後頭部を掴んで机に叩き付けに来る人が現れることがある。無論誰も止めない。教師もいない。
廊下にいても危ない。三人くらいでわたしを囲み込んで、いわれのないことを言っては、最後に張り手をして去って行く女子と出くわす場合があるからだ。無論誰も止めない。教師がいない所で行われる。
わたしは教科書を入れ直した鞄を片手に、校内を昼休みが終わるまでさまよい続けなければならない。少しでも人気の少ない場所に行き、そこでじっとしていなければならない。
最近は図書室の一番奥の席で本を読むようにしている。静かにしなければならない場所だし、わたしに近付きたくない者は最初からそばに寄って来ないから楽だ。
それに、わたしの近くの席には誰も座らない。
ここが一番安全。ここが一番学校でおちつく。
午後の授業よ、早く終われ。
放課後。
掃除当番がある時は本当に億劫だ。
けれどもみんなは楽しそうだ。
『――を的にして遊ぼうぜ~!』
背中を向けていると何かが飛んで来る。
『――さんが掃除しても意味ないよ。ゴミがゴミを掃除してもねぇ~~』
しなければしないで文句を言うくせに……嫌がらせするぐらいなら、わたし一人で掃除するから、だから、みんなは先に帰っていいよ。
天文学部にはもう行かないようにしている。
後は帰るだけだ。うつむいて、可能な限り顔をあまり周囲に見せないようにして、まっすぐアパートまで走って帰る。
買い物はしない方が良い。だって危ないから。後を付けて来る人もいるし、わたしの顔を見ると必ず嫌な顔をする人がいるから。
だからアパートにまっすぐ帰って、宿題して、終わり。
テレビでは、専門家たちが何やら言っている。
『――確かに隕石群は襲来します。それは確かですよ。運悪く当たって死ぬ人もいるかもしれないですよ。ですがそうなる前にちゃんと避難勧告に従って、所定の避難場所に行けばいいんです。この国は今までも、地震がある度にそういった事態に直面して来ました。だからこそ、今一度皆さんは冷静になって、浅はかな行動を取らないよう気を引き締めて、これからも普通に生活を送っていけば――』
これから起こることが、まるで大したことがないかのように語る我が国の大人たち。
チャンネルを変える。
『――天文家は今どこにいるのか?』
父がどこにいるのか?――それはわたしが一番知りたい。
チャンネルを変える。
『――専門家達はなぜ、世界に先立って、この事態を世間に速やかに公表しなかったのでしょうか? 恐らく宇宙船に優先して乗せてもらうように交渉――』
馬鹿なこと言わないでよ……
チャンネルを変える。
『――では、政治家達だけが安全な地下シェルターにいち早く避難をしており、沈黙を保っています。取り残された一般人達は、連日シェルターの周囲に集まって、日夜抗議していますが、未だ一切の反応がありません。時折使用される爆弾や重火器の応酬を受けても、シェルターを守る隔壁はいつまでも破られる気配は無く――』
チャンネルを変え……――テレビを切る。
インターネットに繋ぐと、どこの誰がばら撒いたのかわからないが、父とわたしの画像が出回っている。
色々加工され、ネタにされている。酷い物は、わたしと父の顔がコラージュされ、二人が性行為をしているものまであった。
だから見ない。もう見てはいけない。インターネットにはもう繋がない。繋いでは絶対に駄目だ。
――これが、わたしの日常だ。
しかし、その日は違った。。
その日、わたしは生まれて初めて襲われた。
帰宅途中に、顔をうつむかせて走っていたのが悪かったのだろう。三人組で歩いていたガラの悪い男達の内の一人にぶつかってしまった。
厄介なことに、周囲に人影は無く、近くには雑木林があって――負の条件が重なっていた。
振り返った三人はわたしの顔を見て、最初こそ驚いていたが、次の瞬間にはわたしの顔を指して笑い出した。そして――三人の男の顔から笑みが消えた。
その時咄嗟にわたしにできたことは、一歩だけ後退ることだった。
あっと言う間に距離は詰められ、拘束された。一人に口を封じられ、一人に羽交い締めにされた。残った手持ち無沙汰な一人が、ヘラヘラしながらわたしの顔を覗き込みながら尋ねてくる。
『お前――――だろ? あの天文学者の娘だろ? お前、今一番の有名人だもんなぁ~。お前の名前と画像、世界中に出回ってるぞ』
わたしは口を押さえられながらも、ぶるぶると頭を振った。
わたしの否定に頓着することも無く、男は、わたしの落とした鞄を勝手に開いて教科書を取り出すと、そこに書いてあった名前を指差して笑った。
『うおおおぉ! マジでほんもんじゃん! あ、それにこの鞄と制服、あそこの中学のじゃん! そういや知り合いの弟も、あそこに通ってるって言ってたな~、へぇ~――ちゃん、あそこに通ってんだぁ?』
わたしはしきりに頭を振って否定するも、男の目はわたしを捉えてはいなかった。男はばらばらと教科書を開いて見た後、興味なさげに手を離してそれを落とし、そのまま遠くに蹴飛ばした。
『なぁ……聞いてくれよ。お前のクソ親父が世界中に隕石が来ることバラしたせいで、宇宙船、他の国に取られちゃったじゃんか? お前の親父のせいで、俺達死ぬかもしれないんだけど?』
父が世間に訴えかけたことで、そういう解釈をする者もいるのか……多分、インターネットで飛び交っている根も葉もない噂を鵜呑みにしているのだろう。
『俺達さぁ、死ぬんだろ? その内――』
――その時、男の目に、狂気と絶望が混じり合ったものが宿ったのを確かに見た。
わたしはそれを見て予感した。
『何してもさぁ~、もう遅いってことはさぁ? もう何をしてもいいってことじゃね?』
背後でわたしを羽交い締めにしていた男が、近くの雑木林に引き摺り込もうと動き始めた。口を押さえている男もそれに合わせて動くため、声が出せない。
呼吸だけでなく、あんなにしきりに振っていた頭もいつしか止まっていた。今はただ、震えることだけは意識せずともできていた。
手持ち無沙汰な男がへらへらしながらついて来て、その手が、なにげなく、ふと、さも当然の様に――わたしの胸を鷲掴みにした。
その瞬間、わたしの頭の中で何かが弾けた。
――もう誰も助けてはくれないんだ!
わたしの右膝が上がることが、わたし自身のことなのに、なぜだかとても緩慢に感じられた。右膝は男の腕を払い退け、そのまま伸ばした足先で男の鳩尾を運よく突くことに成功する。
腹を蹴られた男の目に、ギラ付く何かが垣間見えた。怒りに任せるまま、振り上げられる男の拳。それがすぐさまわたしの左頬を打ちすえるも、痛みは感じなかった。ただ血の味だけが口内に弾けて広がった。口を押さえていた男の手は、その一撃を回避するために離れていた。
遅れて、殴られた勢いでわたしの後頭部が、背後で羽交い締めにする男の鼻柱を強打していた。
その瞬間、ほんの一瞬だけ、わたしを背後から拘束する力が緩んでいた。頭のどこかでそれを速やかに、至極冷静に理解していた。この一瞬になにか手を打たねば、このチャンスを逃せば、もう後は無いということがわかった。
再び背後の男の手が伸びてくる前に、左右の肘を、がむしゃらに振り回す。そうすることで、連続的に背後の男の顔面を打ちすえることに成功する。そうして、そこまでしてようやく――拘束から解放された。
はやる気持ちを抑え、周囲の状況を確認した。すぐには逃げ出さず、その場に一度だけしゃがみ込み、落ちていた鞄を掴み上げた。開いたままの鞄から勢いよく中身をぶちまけながら、硬い鞄の底で、眼前に迫る、さっきわたしの胸に触れた、顔を殴り付けた男の顔に、思い切り叩き付ける。
口を押さえていた三人目の男は、はたしてどうしているのか、振り返って確認する余裕はもう無い。もしかすれば立ち竦んでいたのかもしれないし、すぐにもこちらに飛びかかろうとしていたのかもしれない。
わたしは鞄を放り捨てて、ただ、走った。
――学校が知られてしまった! 明日からどう帰ればいいのだろう!? 報復に、さっきの男達がわたしの通っている学校の名前をインターネットに流出させるかもしれない。いや、それはもう他の誰かにとっくにされていた可能性の方が高いだろう……
わたしはこの時初めて、わたしがとても不安定で危うい環境の中で生きていたことを認識した。わたしは今まで、全ての感覚を麻痺させながら生きていたのだと気付いた。
学校でのことはただのいじめの延長線上にある程度のものと考えていたのだが、まさか本気であそこまでの悪意をぶつけてくる者が現れるとは。
アパートに帰り着くと、わたしはすぐに鍵を締め、そのままゆるゆると尻もちをついた。その際、バサバサと音を立てて、誹謗中傷が書かれた紙切れがポストの投函口からこぼれ出し、うな垂れるわたしの頭に降り注いだ。
その後、ようやく体の震えが収まってきた頃にそれに気付く。玄関に無数に散らばった紙切れの中に、一つだけまともな郵便封筒があった。
それを手に取って見ると、すぐに見覚えのある校名が目に付いた。それはわたしが推薦入学を取り付けていた高校からの速達状だった――嫌な予感がした。
さきほどのこと。中学校でのこと。インターネット上でのこと。それらが、それを徐々に確信へと到らせる。それは……推薦の取消状だった。
………………わたしは、一体、この世界に何をしたというのだろうか?
わたしは、何かとても悪いことをしたのだろうか?
父一人、娘一人で、それでも仲良く、娘もぐれずにやってきた。娘がぐれなかったのは、父が優しく真面目な人だったからだ。ぐれる必要なんて無かったからだ。
では何がいけなかったのだろうか。
やはり父がしたことがいけなかったのだろうか。
はたして、本当にそうなのだろうか?
父の言うことを聞き入れなかった世界が悪いのではないか?――少なくとも、それが一番近い答えである気がした。
父の言うことを聞き入れなかったから悪い――それはなにも周りの人々ばかりではなく、わたし自身を含めてのことだった。
わたしはそれに、今ようやく気付いた。
わたしはその日、ようやく父の言い付けを果たした。
なけなしの現金が入った財布と、父が残していった《観測所》の合い鍵と、鞄に思い付く限り、持てるだけの生活用品を詰め込んで、それらを抱え込んで、電車に乗って、都会から離れた山の上にある父の職場、《天体望遠鏡設置所》にまで避難した。
山の上にある《観測所》に辿り着いた頃には、もう深夜になっていた。お金はもう全く無かったから、徒歩でここまで登って来た。
そこでわたしは暮らし始めた。隕石が来るその日まで。
その後、観測所に置いてあったテレビで見たのだが、わたしの住んでいたアパートは放火されていた。
わたしの消息が掴めていないことを、ニュースではまるで人ごとのように語り、次のニュースへと移った。
時折山の近くを、政府の広報車が走ってゆく。それは疎開の報せだった。この地帯は、隕石の襲来による影響で水位が上昇し、水没する危険性があるそうだ。
わたしはそれに従わなかった。
なぜならば、父の言うことを守るためだ。父は、父が帰って来るまでここでわたしに暮らし続けるようにと、そう言っていたのだから。だからこれでいいのだ。ここはきっと、世界で一番安全な場所なのだから。
運命の日――隕石が我が国に降り始めた。
もうみんな疎開していなくなった無人の街を、遠く、見渡しながら、一人で死を待っていた。
空から来る無数の隕石の中の一つが、その内わたしを殺すのだろうと、そう考えていた。
その時、遠くから、背後の方角から、轟音がし出した。
やがて、上空を、一瞬――黒い巨影がツバメの様に素早く過ぎって行った。
それはこの国にはもう一つもないはずの《HOPE》だった。
赤熱した隕石が降り注ぐ中、灼熱の赤茶けた空を一機、宇宙目掛けて、果敢に突き進んで行く。
既に七機の《HOPE》は全て打ち上げられていたはずなのだが、なぜ八機目が?
……そうか、この国はわたしたちを――最早、それすらどうでもよかった。
結局、最後まで裏切らなかったのは父だけだった。
お父さん。
ごめんなさい。
今度から、もっと真面目にお父さんの話を聞きます。
だから、だからお父さん……
――わたしは、空に向かって叫んだ。