10 旅は道連れ?⑦
次の日、夜が更けてきた頃から外で人が歩き回る音がし始めた。
そろそろ始まるのかな・・・。さてどうしよう。
男が3人入って来て、私とゼスの鎖をもち、牢屋の外へと連れ出した。
にやにやしながら、
「お客様がお待ちだぜ。まぁ、お前達の出番は最後のほうだから緊張しすぎるなよな。
まいっちまうぜ〜〜〜」
私はちらっと冷たい視線をその男に向ける。ゼスはというと・・・あくびをしてて聞いてない。
むっとしたみたいだが、商品の私達に手出しは出来ないのだろう。
チッと舌打ちをした後、乱暴に鎖をひっぱった程度に留まった。
私がいるところからは会場内は見えない。だけど、状況が分からなければ動きようが無い為、風の瞳を使って会場内を見てみる。
私は確かに魔術が使えないように鎖につながれている。だけど・・・私には鎖が封ずる魔力はない。
ただ魔力がなくても、魔術が使えるのだ。・・・正確には魔術ではないけど。
会場には多くの男性、女性がいた。高級そうな衣服や豪奢なドレスを身にまとっているからさぞご身分が
高い方々なのだろう。顔が分からないように仮面をつけている。ただ家畜をみる目で人を買っているのには気分が悪かった。
おっと、そんな場合じゃないなーと思い、周辺を探る。
会場には蔦のような植物が壁を張っている。近くには水が流れるような気配がある。が、あまりにも心細い気配だから、使うのは無理だろう。
風の封印は解けてしまったから出来れば風のみで逃げたいが可能かなぁ・・・。土は念のために解くか等逃げる算段を模索する。
私には秘密が多くある。魔力が無くとも魔術が使えることもそのひとつだ。
ただそれは街中で暮らすには過ぎたるものだ。一般の人は魔術など使えないからだ。
私に封印を施してくれたのは師匠だった。短い間だったけど、色々なことを教えてくれた師匠を私は尊敬していたし、魔術師を生業としていた師匠は世間でも知られる程の力を有していた。その師匠が封印を施すべきかどうかを悩むほどの力だった。
師匠は力のあり方を教え、私は一生懸命修行した。だけど心がその力を拒否をしているからか、なかなか制御できず何度も師匠に助けてもらった。封印をお願いしたのは私だ。
「封印してください。私には過ぎた力です。誰かをまた傷つけるかもしれない。それが怖い・・・。
もちろん制御できるように修行は続けます。だけど今の私では、今の私の心では無理です」
「人を傷つける力は人を守る力と紙一重です。それは力を使う人の心次第です。貴方はそれを分かっています。だから貴方の言う通りにしましょう。だけどこれだけは覚えていてください。私は貴方が可愛い。貴方を愛しています。だから幸せになる努力を惜しまないでくださいね。
私が封印できるのはきっかけとなる入り口のみです。だからいつか解けてしまうでしょう」
にっこり笑った師匠の言葉に涙ぐみながらうなずいた。そして封印をしてもらった。