7.貴方、何なんですか
「はぁ……話は分かりました。協力もします」
無貌の禁域にて、ヴィザールとの戦闘は終わり、無事シオリ達が勝利を掴んだ。ヴィザールの姿は最初のあのクソでかい姿とは相反して、今では小さなお口だ。ヴィザールの説明を聞いてる限りだと、コレは〝核〟らしい
見る時は目の姿に変わったり、喋る時は口になったり、何かと忙しい。
どうやって聴いているのかが少し引っ掛かるが、まぁ理解しようとするのは時間の無駄だと思い、シオリは深追いはしなかった。
あの爆発をモロに受けたヴィザールはだいぶ悲惨だったらしい。下半身が一瞬して消し飛び、首から血が出続け、頭すらなくなってしまったという。そしてこの姿に至る。
「ワタクシは2つ、質問があります」
真面目な声色で、ヴィザールは口を歪めた。
「まず、私以外に協力者はいらっしゃるのですか?」
その質問を聞いたシオリとピリカは自然とゼロに視線が行く。ゼロは視線を受け取るや否や、口を開く
「今の所はここに居る奴らで全員だ。これから4人ほど増やす予定だな」
「4人……となるとあの人たちでしょうか? 各々が各々で過ごすようになってから、消息は分からないのでなんとも言えませんが」
「あぁ、合ってる。その認識で間違いない」
その言葉を聴いた数瞬後、ヴィザールの口がまたしも歪む。
「……正気ですか? あの魔女を仲間にしようと考えてるのなら、諦めるのが懸命だと思います。きっと、いや確実に、アベルさんやホタルさん、エルゼルさんが居てもまともに戦えるとは思えません」
唐突に出された3人の名前。そういえば会議で聞いたような気もする。
ただ、うろ覚えなため一応シオリは「誰、それ」と、答えざるを得ない質問を投げといた
「……話してなかったのです?」
ヴィザールがシオリを信用していないのかと言わんばかりの目力でゼロを見つめる
「……いいや、話したはずだ」
若干呆れ気味でゼロに見られる。
「まーまー、シオリちゃんもあんだけ長い時間話聞いてたら忘れるでしょ。また説明してあげればいーじゃん☆」
擁護するピリカ。
「そう……だな。それじゃあ、また話すとしよう」
納得したのか、ゼロが説明しようと口を開いた
「まず、我々はヴィザール含め、5人を仲間にしようとしている。このよく分からん口はもう仲間にしたから省略するぞ」
「ワタクシの扱い雑じゃないです?」
ヴィザールの声をフル無視してゼロは話を続ける
「4人はそれぞれ、純黒の魔女、及び魔女の祖『タルタロス』双竜『アベル』双竜『エルゼル』鬼の頂点『ホタル』という名だ」
ゼロは淡々と告げる。シオリは頭の中で出てきた単語を整理する。えーっと、魔女の祖に、双竜に、頂点?何言ってんだ。
以前の会議で聞き流していた単語が蘇ってくる──と思いきやすぐに消える。
「ルーシーはともかく、問題はタルちゃんだよねぇ……」
ピリカが困り眉でよく分からん単語を呟く
「ルーシー?」
その言葉にシオリは頭の上に「?」を浮かべる。どうやらそれはヴィザールやゼロも例外でないみたいだ。
「ピリカ、ルーシーってなんだ?」
その問いに、ピリカは「え、みんな知らないの?」みたいな表情を浮かべる
「えっ? 何って言われても……ヴィザール、アベル、エルゼル、ホタル。全員ルで終わって、それが4人いるから、ルーシー」
「そんな安直な理由だったんだ」
ルーシー。安直だが、何故かしっくりくる。
「まぁ、ルーシーは置いといて。タルタロスってどんな魔女なのさ」
シオリが投げかけた問いを受け取ると、ゼロは顔を逸らし、重々しく口を開いた
「エリュシオンの対のような奴で、純黒の魔女の始まりだ。エリュシオンは純白の魔女の始祖だ。今は〝常闇の禁域〟にて眠っているそうだが、近付くだけでもダメだと、ピリカが言っていた」
そう話し、ゼロは頭でクイッとピリカの方を指す
「えっ?……あ、あっはは〜……あれの事かぁ〜……確かに、あれは酷かったね〜」
頬をかきながら、覚束無い様子で話す。その様子を見る限りだと、本当にやばそうだった
「ですが、次の相手がタルタロス様ではないのでしょう?」
「あぁ、勿論。次はホタル辺りを狙いにいってるが……」
ここまで話したところで、ゼロが言葉に詰まった。
「……? どうかしたの?」
明後日の方向を見つめるゼロにシオリは声をかける
「あぁ……いや……」
声をかけたとて、ゼロは依然として歯切れが悪かった。
「……なんでもない」
そして数瞬の沈黙の後に帰ってきた返事がこれまた歯切れが悪い。なんでもないわけ無さそうだが、まぁ本人が言ってるのならなんでもないのだろう。多分。
なので、シオリはヴィザールの質問に話を戻した
「ああ、もう1つは……」
ヴィザールがシオリの方を向く
「貴方、何なんですか」
その質問に、一瞬、全員が黙る。誰も今まで触れてこなかった事。「シオリ」とかいう人間にしてはかけ離れすぎた存在の事
「あー……」
シオリは一瞬思案する
「そういえば、話してなかったね」
「ええ。貴方は……なんというか、不気味ですよ。とにかく。人間なはずなのに、人間に見えませんし。一体何が貴方をそんなに突き動かしているのです?」
素朴な疑問。それにシオリはこう答えた
「私は何も話さないよ」
……と。特に後ろめたい理由がある訳では無い。単純に、教えた所で、シオリにも、ヴィザールにも利益がでる訳では無いからだ。シオリは本当にただの一般人であり、つまらない薄い23年を過ごした人物。
「強いて言うなら、足が速いくらい」
学校で新学期や、新学年になると好きな食べ物とか、好きなアーティストとか、色々聞かれる。ただ、この世界でそんなものは必要ない。わざわざ答える程でもないと、直感で感じたから。シオリは何も答えなかった
「そう、ですか」
ヴィザールは、それだけ言って黙った。核を目の形にはしていなかった。なんでかは分からない。
「「……」」
奇妙な沈黙が続く。別にヴィザールは変なことを聞いた訳でもないし、シオリが変な回答をした訳でもないのに。
ゼロはやっぱりよく分からない方向を向いており、なんだかさっきよりも険しい顔をしていた。
「ねぇ、さっきから何見て──」
シオリが全てを言い切る前に、ゼロは木々の狭間に当てるように、尻尾を弾丸のように伸ばした。
その直後、金属で受け止めるような音が響く。
「やっぱり、か」
ゼロは尻尾を振り回し、何かに反撃の隙も与えず立ち上がる。尻尾は全て防がれているが、それは足止めに成功している合図でもあった
「嫌な予感がしていたんだ。大爆発を起こした辺りからな」
言い草的に、恐らく敵襲だろう。ただ、見えないってことは透過能力のような物か。と、安直な推測を立てた
「──ゼロ」
シオリは攻撃を止めないゼロを止める
「なんだ?」
「もう攻撃は必要ない。後は私がやる」
剣を手に持ち、ゼロの前に立つ
「……は? 何を言っているんだ?」
「分からない? 今すぐ、ヴィザールとピリカ引っ提げて逃げろって言ってんの」
その言い分に、ゼロは「馬鹿じゃねぇのか」と言わんばかりの顔でシオリを見つめる
「お、おい……何言って──」
「いいから従えよ。守るのが多いと面倒なんだよ」
どうしてこんなにも1人で戦いたかったのか。シオリ本人にも分からなかった。
何でか、姿も見えないのに、コイツとは、タイマンを張りたかった自分が居た。
シオリ以外では勝てない。とか勝手に思ってる自己満かもしれない。でも、それでもいい。
この戦闘はシオリで、シオリ1人でやらなければいけない。
じゃないと、ダメな気がして、嫌な予感がして。確証なんてないけど。ただの勘だけど
「…………分かった……」
納得のいかない声が聞こえてきた。
「ピリカ、行くぞ」
「え……あ、うん」
ゼロとピリカの足音が通さがっていくのがわかる。どうやら目の前にいる奴は、追おうとはせずに、シオリの気持ちに応えてくれたようだ
「邪魔が居なくなった。そろそろ出てきなよ。陰湿だよ」
その言い分に従ったのか、先程まで何も無かったところに人体が形成されていった
「勇者御一行……と言えばいいのかな」
4人の人間の前で、シオリは次に言う言葉を頭の中で考える
目の前にいる奴らはいかにも〝主人公〟みたいなやつらだ
剣を持ってる人は赤黒い髪に高そうな鎧。
魔術師みたいなやつは青い髪で薬品を装着している。
そして隣のヤツはオレンジ髪で、いかにもトラブルメーカーみたいな奴だ。
奥にいるのは……あいつも魔術師かな。ヒーラーとか
「私、シオリ。お前の名前は?」
そう言い、切っ先を先頭にいる剣士に向ける
「あ、ええっと、私の名前──」
「お前の名前は聞いていない。私は、前に立ってる剣士の名前を聞いているんだ」
剣士が喋りにくそうにしてたのか、代打で出てきた魔術師を強引に引っ込める
その剣士は、どこか意外そうに「ヒビキです」と言った
「ヒビキ……ね。漢字は?」
「えっと、影響とか、反響の『響』です」
この世界で「漢字」という単語を使うとは思ってもいなかった。エリス、ピリカ、ゼロ、ヴィザール。今まで会ってきた奴らの名前はみんなカタカナネーム。
まさか、日本人ネームが来るとは思わなかった。
「いい名前じゃん」
「英雄なのかな」
と、シオリは言ってみた
「いやぁ〜?どうですかね〜……まだよく分かんないですし」
なんとも言えない返答。ただ、それだけで何となく英雄ってのがわかった
シオリは静かにそう、と返した




