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4.1人目 其の一

 開幕早々だが、シオリは意気消沈していた。魂が抜かれたような顔でうつ伏せでぶっ倒れている。

 理由は、2日程前から始まったゼロ、ピリカ、シオリによる作戦会議だったためだ。勿論、最初の方に何を言っていたかなんて忘れた。話してたことを頑張って掘り返してみた。

 魔界に元々住んでいた生き残り達が地上界に居るからそいつ等を仲間にする。あとは知らん。

 というか元々魔界に住んでたんなら仲間になってくれそうな気もするが。まぁ心変わりでもしたのだろう

 少し休んだらすぐ出発だなんて、ゼロたちも人の心は理解できないんだなと、つくづく思った


◇◇◇


 なんやかんやあって地上界には出た。

「生存者は合計5人だ。さっさと行くぞ」

 ゼロが先頭に立ち、歩み始める

「ねぇ。場所、分かってるの。ってか、どこ行くの」

「聞いてなかったのか? 〝無貌の禁域〟にこれから向かう。流石に場所くらいは把握している」

「……へぇ。わかった」

 無貌、どっかのゲームにもそんなヤツがいた気がする。確か、顔というか、姿がいくつもある奴だった気がする。


◇◇◇


 なんとも言えない時間がずっと続いた。この辺はずっと平原で、時折木が生えてるくらいのつまらないものだった。しかし、もうすぐそのつまらない時間も終幕を迎えそうだった。

 目の前にあるのは巨大な森。夜だからか、真っ黒だった

 ゼロ、ピリカ共に何も気にせず入っていった。シオリも、一瞬立ち止まってから入った。

 鬱蒼とした森だった。目視できる限りで植物は何も生えてなく、生命活動が行われてるとは到底思えないところだった。入る道が狭く、草木によく体が当たった

 その時、突風が吹いた。風はすぐに止んだが、違和感しかない風だった。ゼロ、ピリカ、2人の髪も、服も(なび)かなかった。

 更にいえば木々の葉っぱが風で揺れる事もなかった。あったはずなのになかった突風。ゼロやピリカは無反応だった。周囲を警戒しながら前へと進む。そして、障害物が無いかと、ハッキリと前を向いた時だった。


 誰もいなかった────────


 やられた。そういえば随分前から足音、1つしか無かったよな。と、心で反省会をする。あれは幻覚だったんだ。この、無貌の禁域に居るやつからシオリは 攻撃 を受けている。

 どうしようかと思ってる時、脳内に聞き覚えのある声が流れてきた

《あー……聞こえるか?》

 それはゼロだった。その後に《うんうん♪ 聞こえる聞こえる〜》とピリカの呑気な声が聞こえてきた

《魔力回廊を繋いでおいて正解だったな……我の指示に従え。さすれば合流できるはずだ》

 妙な説得感と違和感を同時に覚えた。ただ、違和感はこの森のせいだと決めつけ、シオリは従うことにした。ゼロの方がこの世界に詳しい。変に逆らうより、従った方がいいからだ。

《まず、はぐれた場所から移動してないのなら、2つの分かれ道があるはずだ》

 シオリは前を確認した。確かに2つ、あった。

《右に進め》

 右に進んだ。そしてすぐに尖った木の枝を踏んだ。情けない声が漏れる。全く、ついていない。

 そこからはゼロの言いなりだった。自然に嫌われてるのか、よく自然の罠を踏んで、右足に上手く力が入らなくなっていた。踏み込み足じゃないのは不幸中の幸いだろうか。

《そろそろだ。その茂みを抜けてくれ》

 よく聞けば耳からゼロの声が聞こえるくらいに近付いていた。もうすぐだと、シオリは思い、茂みを抜けた

「抜けたけど……」

「あぁ、助かった」

 随分と高いところから声がした。声がした方を向いた

それはゼロではなかった。

「御足労頂き、どうもありがとうございました」

 2m以上は確実にある、人とは言えない存在だった。肌は黒色無双と呼ばれるあの黒と同じくらい黒く、体の境目が分からなかった。目はなく、黒く楕円形の頭にはニッコリとした口しかなかった。服装はよく分からなかった。スーツっぽかった。

「……え……?」

 シオリは、咄嗟に剣を構えられなかった。せっかく、新しいのを貰ったのに。

「随分と驚かれてる様子ですね。もしかしてワタクシとマンツーマンが怖いのですか?」

 答えすら聞かず、目の前の化け物はギャルの指(爪込み)でもこれには届かないくらい細く長い指をパチッと鳴らす。

 するとバタバタバタと歩く音がそこらじゅうから聞こえる。辺りをぐるっと見ればそれは木や葉に擬態している物だとわかった。

 それはたちまち姿を変え、頭は例外なく、目の形になっていた。服装は例外なくスーツだった。

「これで怖くありませんか?どうです?少しお茶でもしましょう」

 シオリは、その言葉で我に返ったように、剣を強く握った。その瞬間、視界に一瞬だけ黒い何かが映った。それが何なのかはすぐに答え合わせがされた。

 右肩に激痛。剣を握る力も失い、地面に落としてしまった

「──ッ!」

 脱臼か。これ以上、目の前の化け物が手を下すことはしなかったので、その場で左腕を使った。

 一瞬、視界がボヤける。関節が戻る。

 剣を持ち直し、化け物の顔を見上げる

「痛ぇじゃ、んかよ……」

 勝てない相手だって、分かっていたんだ。自分でも

けれど、この場で何もせず朽ち果てるのだけは嫌だった。

 化け物の口が更に上がった

「そうですか」

 しかし、冷淡な声色だった

 シオリが動き出したのは奴の返事を聞いてから1秒も満たない間の事だった。

「──!!」

 スピードでは負けたことがなかった。だが、今回はそうも上手くはいかないみたいだ。

 あと少しの所で横から強い衝撃が邪魔をし、そのままシオリはぶっ飛んだ。ここは森ゆえ、木に激突した。無論、もろに衝撃を受けた右腕は逝った。証拠は激痛が暗示してくれていた。

 やっとシオリは気付いた。心の底から思った。


 勝てない、と。


 これは勝つ試合じゃなくて耐える試合だと。ゼロやピリカが100%くるとは信じることはできない。ただ、唯一の生存拓はそれしかなかった。

 化け物の方をちらっと見る。別に接近はしてきてないようで、口裂け女でもあそこまで上がらないだろう。と思わせるほど、口角が上がっていた

「あぁ〜……今宵は実にいい気分ですねぇ……」

 奴はそう言いながらこちらへ接近してくる。そしてシオリの顔を強引に見るやいなや、にんまりとしていた口はたちまち平行に戻る。

()()()()によく似ている……ふぅむ」

 わざとらしく手に顎を置いて奴は思案する。

 あのお方、というのはゼロの事なのか。はたまたゼロの師匠なのか。シオリには分からなかった

「まぁ、似ているとはいえ所詮別人です。ワタクシが尊敬してたあの御方はもう死んでしまったのだから……」

 そう言い、奴は腕を振り上げた

「さようなら」

 その別れ言葉は叶わずに終わった。ゼロの4本の尻尾。それが奴の両腕をキツく締め上げていたのだった。

 予想外だったのか、奴は「おや、」とだけ言って後ろを振り向いた。

「これはこれは。お目覚めになられたのですね」

「フンッ、貴様のトリックはもう見抜いている。我らにそのような小細工が通じると思ってたのか?」

 ゼロは怒り気味に挑発をする

「勿論、通じるなんて思ってませんでしたよ。ただ、時間が稼げれば良かったので。しかし、作戦は失敗してしまいましたねぇ……」

 奴は腕を突如として肥大化させる。やがてそれはゼロの尻尾では拘束できない程にデカくなり、強引に拘束を破った

「なんの用です? せっかくですし、話くらいなら聞きますよ」

 奴はゼロ達の方に体を向け、ゆったりと歩み寄る

「今の状態の貴様と話してもまとまな会話にならない事くらい把握している。まずは頭を冷やさせる所からだな」

 そう言ったあと、ゼロはピリカに目で合図を送る。シオリの治療に行けという合図だった。ピリカはそれを見てニヤッと笑う

「はいはい〜……シオリちゃん! 待っててね!」

 そう言い、ピリカは走り始めるが、すぐに奴の手下達が道を塞いできた

「そう簡単には行かせませんよ」

「アッハハ! お目目いーっぱいだねぇ! それじゃ……全部潰そっか♪」

 ピリカはどこからともなく赤い手玉を5つ、取り出して3つはピリカの後方、2つは手下達にぶん投げた

 手下達に避けるという選択肢は刻み込まれていなかった。そのため、モロに喰らい、手下達は目という名の頭がぶっ潰れる。

 そしてピリカは後方に置いた爆弾の爆発した時の衝撃で前方に綺麗に吹っ飛び、シオリの真横に着地する。

「ごめんねぇ〜? すぐ終わるからぁ♪」

 ピリカがシオリの右肩に触れる。一瞬、痛みが走るもすぐにその痛みは引いていった。

 序盤のくせに随分と強いじゃないか。普通のゲームなら負けイベントだけど、これはゲームなんかじゃないから負けイベントなんて存在しない。

 ゼロとピリカが来た以上、シオリに戦わないという選択肢は無い。

「やろうか。ピリカ」

「はいは〜い☆」

 シオリが剣を拾い、奴の事を視野にしっかりと捉える

 かろうじて人型だと認識出来ていたものが今では人のように見えなかった。腕は6本。阿修羅のように生えており、なんだか気色悪かった。

「良いですか?ゼロさん。ワタクシが尊敬してたのは貴方のお師匠様です。貴方の言いなりになるなんてワタクシはゴメンですね」

「そうか」

 ゼロは何かもっと言いたげな顔だった。ただ、口を噤んだ。

「私達もおーせんしよ?」

「そうだね」


「3人なら、勝てるはず」


 その言葉を聞いて、奴はゼロに応戦してるにも関わらずこちらを振り向く。顔が真っ黒なせいでどこを向いてるのかはイマイチ分からないが、奴の口がそれを物語っていた

「面白い」

 嘲笑ったようなトーン。それが3人の闘志を焚きつける物になった。

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