3.門は閉じ、世界は開く
2人が出会ってから早2時間。魔界に向かうためにずっと歩いていた
「……ねぇ」
シオリが声をあげる
「いつまで歩くの」
それは単純な疑問。歩いても歩いても入口のような物は見当たらない
隠してるだけなのかな、そう考えてるとピリカが声を出す
「そうだね? それじゃあそろそろ魔界に行こっか! 随分と私は話楽しんだし〜」
そう言い、ピリカは両手で虚空を掴んだかと思えばグイッと強引に引っ張る。
空間が裂けた。黒い夜が紙のように捲れたかと思えば、向こう側には禍々しい紅の空
それを見たシオリが色々と思案している間に、もうピリカは裂け目の中に入っていた
「早くおいでよ〜♪ 結構ここ空気美味しいよ?」
「……そうだね」
これ以上考えても、きっと意味はない。そう決め、足を踏み入れる。
世界が変わる。文明なんて最初から無かったかのように更地であり、地面の亀裂からパチパチと炎が弾けてるだけだった。
「……魔界。なんだね。想像してたのとちょっと違うけど」
それを聞いてピリカは少しだけ笑って
「本当はもっと栄えてたんだけどね〜……人間たちに皆殺されちゃって」
軽い口調。ただ、少しだけ重かった
「ま、早く行こ? ボスに会いたいでしょ」
そう言い、ピリカはまた歩き始める。シオリは無言で着いていく
魔界のボスと言うくらいだから、禍々しい存在なのだろう。と安直な考えをした。
実際、シオリが読んできた本の中に出てくる魔王と呼ばしき存在は大体が禍々しくてゴツイからだ。
シオリが色々考えてると「着いた着いた〜」
と言う、ピリカの素っ頓狂な声が前方から聞こえてきた。
前を向くとそこには紅の空を突き破ろうとしてるように聳え立つ尖塔。黒曜石のように黒い城は殆どの人が見るだけで萎縮してしまうほどの圧力を放っていた
ピリカは何の迷いも無く、扉を押し開ける
中は暗かった。青い炎の松明がメラメラと燃えているのに、どういう訳か暗かった。
それでも迷いなく、ピリカは歩いていった。シオリはそれに着いていくしかなかった。
しばらく歩けば扉は見えた。黒くて冷たい扉だった。
「ボス〜入るよ〜」
ピリカはボスと呼ばれる人の返事も聞かず、扉を開けた。扉の隙間から見えたのは随分と可愛らしい内装だった。棚は視認できる範疇にはぬいぐるみが置かれていた
「さ、入って入って〜」
ピリカが手招きをしたので、シオリはそれに従った
扉を閉め、部屋の方に目を向けるとベッドに華奢な体をした少女が座っていた。
着ている羽織は誰かからのお下がりなのかブカブカで、服は空の色と良く似た紅色だった。シオリは次に目立っていた髪色を捉えた。美しい、純白の髪だった。
自分の髪と照らし合わせる。無論、かなり同じ色だったのだが、向こうの方が美しく感じるのは何故なのだろうか。
「魔女…………いや、魔女によく似た人間か」
彼女は言葉をよく選んでいるようにシオリは感じた。
「我はゼロ。貴様も名を名乗れ」
可愛らしくて、愛くるしい見た目とは裏腹に鋭利で今にもシオリの顔を貫きそうな声がシオリの脳に響く。
「シオリ」
もう少しくらい、彩りがあっても良かったよな。と、答えてから後悔する。今から付けたそうにも不自然な間が出来ることになってしまうので、それで貫き通すことにした
「そうか」
ゼロはシオリを一瞥した後にピリカの方に目を向ける
「何故、コイツを魔界に連れてきた?」
「んー、連れて来たかったから? それに、ゼロちゃんの計画にも協力してくれると思うんだけど〜?」
ゼロの凍てつく視線にも怯まず、ピリカは答えた。
ゼロと呼ばれる人物はそうか、とだけ言って、立ち上がる。ポニョっと音がしそうな程に小さく、可愛らしかった。140cmもあるかないか。それ程だった。
「手始めに。貴様が我の計画に協力できるほどの実力を持ってるか試させてもらうぞ?」
「え、ああ。はい」
なんでこんな華奢なのに自分が劣勢のように見えるのだろう。謎の圧倒感があった。学校で悪ふざけをしてる時に先生に「おい」って言われた時みたいな。それに似た感覚だった
気が付けば、シオリはだだっ広い空間に立っていた。ちょっと遠くにはゼロが立っていた。先程までは無かったはずの尻尾が4本、腰辺りから生えていた
「両者が1本と認める一撃を最初に与えた方の勝ちだ」
ここに辿り着くまでの記憶はあんまりない。ただ、ここで何をすればいいのかは、ピリカの声が聞こえた瞬間にわかった
「よーい、スタート☆」
と言う掛け声と同時に爆発音がした。それを皮切りにシオリは全速力で走る。ゼロとの距離は瞬く間になくなり、シオリは己の右腕を振り上げる
確実に捉えた。のだが、それは寸での所で勢いが止まる
腕を掴まれた。ゴツゴツとした感触が右腕を蝕む。 きっと腕を掴んでるのは尻尾なんだろう。とシオリは悟った
ここで足を上げてしまえば最後、空中で宙吊りにされて終わりな事くらいシオリは予測できた。ならば何をするか。
シオリは右手の力を弱める。すると右手に先程まで握ってあった短剣は一瞬宙を舞う。その短剣を左手で掴んだかと思えば自分の右腕の根元をバッサリと切り落とした。
無論、声は出た。なんとも1文字じゃ表せない発音だった。切り落としたと同時、バックステップで距離を取る。シオリは脂汗が滲んでいた。それは自分の肉体を切り落とすという精神的な痛みと肉体的な痛みが合わさって出たものだと察した。
あの場で斬りかかってもきっと無意味だった。ならば片腕など犠牲にして展開を作る方が勝機はあるとシオリは思っていた。
ゼロは目をパチパチと瞬かせており、その後に歪んだ笑みが見えた。まるで、コイツまじか。と言っているかのような
これはマジモンの殺しなんかではない。向こうもダメージを負わせるなんて考えても居なかったのだろう。ゼロはそれ故、シオリの狂気さに興味と恐怖が湧いた
ピリカはシオリの狂気を見ててニヤニヤしていた
シオリから痛がってるような表情はもう消えていた。この娘の顔にあるのは笑顔だった。純粋な、23年間見せたこともないような笑顔だった
シオリはまた距離を一瞬にして縮め、ジャンプ斬りをしようとする。しかし、必然と言うべきか、あっさりと尻尾で防御された。それに追加でボロかった短剣は衝撃に耐えられず、根元からポッキリと逝ってしまった。
しかし、それはシオリにとって向かい風でもあり追い風でもあった。短剣が折れた際のベクトルを殺さず、そのまま一回転。回転中に足を伸びきらない程度に伸ばす。
ゼロの頭頂部を回転しながら目で捉える。ゼロでもこの動きは予想外だったらしく、未だ処理が追いついてないようだった。戦闘の猛者と思える者にこんな間抜けな顔をさせられたのはシオリにとって何よりも嬉しいものだった。
「私の勝ちだ────!!」
そのまま思いっきり踵落としをゼロの頭頂部にお見舞いする。直後、踵にビリッという感覚がする。勢いは下から前に行き、そのまま前方に進んでぶっ倒れる。
ゼロの視界は踵落としを受けた瞬間、ブラックアウトした。しかし、ゼロはその程度で意識が絶たれる程弱くは無い。
ブラックアウトしながらも尻尾を動かし、ゼロの前方やや上、先程までシオリがいた場所に尻尾を勢いよく突き刺す。が、それは空を切った。既にシオリはゼロの後ろでぶっ倒れていたのだから
ゼロは意識が飛びかけ、膝を着く
「……」
第三者視点から見ていたピリカはシオリの異常さにこの上ない興味を示していた。そのせいか阿呆な声が出ていた
ゼロは数秒膝を着いた後、フラフラしながら立ち上がる。そして後ろを振り向く。そこには立ち上がろうとしているシオリが居た。
踵には絶大なダメージが入っていた。骨挫傷、内出血があってもおかしくない程だった。それに右腕からの出血、痛みも相まってシオリの意識は段々と薄れていった。立ち上がろうとした。ただ、そのまま意識が無くなった
◇◇◇
目を覚ます。目先に映るは見知らぬ天井でもなく、透き通ってる青空でもなく、ゼロの顔だった。シオリが起きたのを確認するや否や、ゼロは眉を上げ、すぐに顔を逸らす
「起きたのか」
普通を装った声。ただ、その裏側には心配もあったのだろう。少し声がブレていた
「……あ。うん」
右腕の感覚はあった。踵の痛みも無くなっていた。地球だったら摩訶不思議な事だが、異世界と呼ばしきこの地では治癒魔法なんかがあってもおかしくはなかったので、追求はしなかった
「いや〜にしてもすごいねぇ〜シオリちゃん。手加減してるとはいえゼロちゃんにダメージを与えるなんてさ。誇らしいことだよ」
後方からピリカの声が聞こえる
身体を起こし、辺りを見渡す。恐らく寝室だ。
「そういえばさ」
シオリはピリカの方を向く
「計画って、何」
「あ〜それはね〜……」
ピリカがゼロを一瞥した後、話し始める
「ゼロちゃんはね。師匠を殺して、魔界の皆を死へと追いやった人類が憎くて憎くて仕方ないんだ〜だから、復讐をしようって計画。とはいえ、私とゼロちゃんだけだったら剣聖とか色々束になってこられたら負けちゃうから、協力者を集めよう! って事なんだよね〜」
「へー」
「それで、シオリちゃんにも協力して欲しくてさ?」
「いいよ」
また、素っ気ない返事になった。いつもこうだ。
ゼロの方を向けばゼロは若干嬉しそうだった
「良いよね。私、勝ったし」
「……あぁ」
「よぉーし! 決まりぃ! それじゃ、色々今後のことについて話そっか?」
「ん。わかった」
話し終わる頃にはシオリは疲弊しきっていた。何十時間も話すなんて、誰が予想できたんだよ




