15.再会
気が付けば、シオリは雲ひとつない青空を見上げていた。
どのくらい寝ていたのだろうか。数分、或いは数時間か。シオリは体を起こし、辺りをぐるっと見渡す。特に場所は移動していないみたいだ。真隣には王都への門があった。
体を完全に起こし、剣を握り、門を開ける。すると、生気が全くしない、もぬけの殻の王都がシオリを出迎えてくれた。
……朝? 昼? それにしては静かすぎる。もう終わったのだろうか? ただ、あの鉄錆のような独特な臭いがしない。
シオリは剣の柄を握り、王都内へ足を踏み入れた。
王都内は家や店で視界が悪かった。シオリは出来る限り神経を研ぎ澄ませ、どこの突き当たりから人が出てきても対応できるようにする。
にしても、本当に人の気配がしない。きっと、ゼロ達が全員殺したのだろう。ただ、やっぱり何かがおかしい。誰も最初からいなかったかのように、臭いがなんにもしない。
どうしようかと頭を抱えてる時、ふと、足音がした。微かな足音だった。ただ、シオリの耳はしっかりとそれを捉えていた。
シオリは音のした方へ慎重に歩く。ここの突き当たりの先から聞こえた。シオリは意を決して、飛び出した。剣を前に突き出し、威圧するような姿勢を取った
「って……ゼロ?」
ただ、そこに居たのはゼロだった。シオリは心の緊張がフッと解ける。向こうも心底驚いたのか、目を見開いたままこちらを凝視していた。
◇◇◇
「なるほどね。理解したよ」
あの後、ゼロから何が起きたのか色々教えてもらった。内容を要約すると、王都は滅ぼしたが、相手の能力で全員の位置をばらばらにされた。から探してる。との事だ。
「最悪な置き土産をされたみたいだね」
「そうだな……視界の悪さも相まって、ピリカ達とは未だ合流出来ていない」
「普通に声を張り上げて場所を伝えるのじゃダメなの?」
「それも考えた。ただ、もし援軍が来ていると仮定するならばその選択は無しだ」
どうやらゼロは最悪の事態を想定しているようだった。ただ、さすがに隣国からの援軍が来ることくらいは、シオリもなんとなく分かっていた。
「そう……だね。だけど、静かすぎない?普通なら、足音とかするでしょ」
「場所が悪い可能性を考慮しろ。はぐれてる状態での接敵は最悪死を招くぞ」
その時だった。遠くから、微かな足音が聞こえてきた。ゼロ、シオリは互いにアイコンタクトを交わす。そこに言葉は無かったが、同じ可能性を浮かべていることくらいは分かった。
敵か、味方か。どちらにせよ、この状況で油断はできない。
段々と足音が迫ってくる。シオリは固唾を呑んだ。左足を床に噛ませ、いつでも飛び出せる姿勢になる。
足音が、止まった。向こうも、こちらの存在に気付いたのたろう。緊張が更に一段階上がったその時、ストン……と、遮る物のない直線の道に白色の何かが置かれた。それは、お手玉だった。見覚えのある簡素な手玉だった。
「……ピリカなら返事をして」
シオリは、警戒交じりに言い放った。すると、数瞬経ってから「はいは〜い」というなんとも腑抜けた返事が帰ってきた。その返事は、この場の緊張を解くのには十分なものだった。シオリは剣先を下げる。何となく察したのか、ピリカがひょこっと顔を出した。傷一つない、守りたくなるような顔だった。ピリカがこちらに歩み寄って来てくれたため、シオリが動く必要はなくなった。3人は路地の中央で固まった。
「ヴィザールが未だ見つかってないみたいだね……」
ピリカ、ゼロ、ヴィザール、シオリ、襲撃時にはこのメンバーが居たはずだ。ヴィザールはどうやら復活? したのでピリカの手元から離れ、好き放題していたらしい。ただ、そこからどこに行ったか分からず終いとのこと。
「最初は彼奴らしき気配を感じ取ったのだが……いざ見てみればただの肉塊だ。こんな状態じゃ、大まかな場所すら推測できん」
不満気にゼロがそう言った。
「……そう……にしても、本当に何も気配がないね」
シオリは淡々と、2人に事実をぶつけた。ヴィザールと思わしき気配も、敵の気配も、全くしないのだ。しんと静まり返ったこの街には、既にこの3人しか居ないのでは? と思わせる程だった。
「死んだんじゃない? ヴィザールって、よく油断するじゃん?」
ピリカは捜索を諦めているようにも見えた。シオリもそう言われてしまえば否定出来なかった。ヴィザールなら、有り得る話だった。
「1回、帰ろうよ。確かに王都は潰れた。捜索はホタルを捕まえてからでいいでしょ」
シオリは、これ以上ここにいても無意味だと踏んだ。シオリが眠りこけてる時に戦ってくれてたヴィザールには申し訳ない。ただ、仕方がない。
「さんせ〜い☆」
遠足に行くかのようなテンションでピリカも答える。
「そう……だな。そうするとしよう」
一瞬考え、ゼロも賛成した。
「それじゃあ、行こうか」
3人は頷き合い、出口へと向かって歩き出した。依然として、街は静寂に包まれている。そういえば、この世界に来てから、喧騒に包まれたことが無い。どこでも静寂、静寂、静寂だった。そろそろ、賑やかな場所に行きたいものだ
シオリはそんなことを考えながら、門へと歩いていく。
その時だった。シオリは妙な違和感に襲われる。誰かに狙われているかのような、そんな感覚がする。ただの勘に過ぎないが、外れることはあまりない。
「待って──」
シオリは足を止めた。それに伴い、ピリカ達の足も止まる。
「どーしたの? シオリちゃん」
「……」
ピリカの問いには答えず、シオリは周囲の気を探る。剣を強く握った。間違いない、近くに誰かがいる。恐らく、後ろの方に。ただ、反応を見るにピリカとゼロの視界には入っていない。視界に入らない能力を所持しているのだろう。
シオリの背筋に、冷たいものが走る。
「────!!」
シオリは咄嗟に剣で周囲を薙ぐ。
「手応え無し……」
そう簡単ではないか……と目を鋭くしながら呟いた。
「よく、気付きましたね」
虚空を睨んでいると、その虚空から声がした。感心と、気付くのは当然だろうという気持ちが混じったような声だ。ジリジリと人の輪郭が現れ始める。
「ずっと透明化してればいいのに」
シオリは、いつも思っていた事を一言一句そのまんまで口にした。
「嫌なんですよね。シオリさんとは正面で戦い合いたいですから」
謎の信念を持っている響がシオリの目の前で透明化を解除する。
「……変なの」
眉根を寄せてシオリは言う。その声は、ほぼほぼ呆れているような声色だった。
ヒビキは小さく笑った。
「変なのは、お互い様ですよ」
その笑顔は、人間であるにも拘わらずどこか神聖な雰囲気を纏っていた。
「後ろは……この前居た人たちですか?」
「そうだね」
ヒビキはピリカ達を一瞥し、小さく頷いた。
「手間が省けました」
ゼロが眉根を寄せ、警戒の意を込めた鋭い視線をヒビキに突きつける。
「そんなに怖い目で見ないでくださいよ。悪いのはそっちなんですから」
数歩、ヒビキはシオリ達の方へ歩く。
「ルーディアも、あなた達がやったんですね」
シオリは答えない。ゼロも、ピリカも無言だ。ただ、黙々と戦闘準備を行っていた。
「今回は殺します──」
ヒビキの容赦ない声が、静寂の街を切り裂いた──




