表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

14.畜生

「本当に、残念ですねぇ……あと数時間来るのが早ければ、助かっていたかもしれないのに……」

 家の中から顔を覗かせている黒いナニカは、口角を釣り上げながら嘲笑うように話す。

「まぁ、わざわざ遠くから御足労いただいたのですし、骸ならお渡ししましょう」

 有無を言わさず、奴はどこからともなく生えてきた腕で人体を引きずり出した。

「うわ……」

 ヒビキは声を漏らした。その体は、血の気が完全に引いていたのだ。バックリと開いた胴からは内臓が綺麗に露出しており、人間には必ずしもあるであろう〝血液〟はなかった。

「それ引っ提げて逃げますって言うのならば逃がしますが……」

 奴はなんとも言えない表情をしながらヒビキをまじまじと見つめた。

「貴方は、そんな人間には見えませんね」

 億劫な声で奴はそう言った。手間が1つ増えた、みたいなことをきっと思っているのだろう。

「……何が目的でこんなことを?」

 ヒビキは疑問で疑問で仕方がなかった。何故こいつはルーディアを攻めたのか、攻める理由はなんなのか。

「何が目的……と言われましても……特に無いですよ」

 目の前の黒いナニカは、まるで今日の昼飯に何を食べたかを話すかのような軽薄さで言い放った。

「特に無い」その言葉に、ヒビキは心の底で何かが切れるのを感じた。

「あなた方を殺すのに、何か特別な理由が必要ですか? 別に、必要ないでしょう」

 殺すのが当たり前、と言いたげに、奴は淡々と語る。

「まぁ、強いていえば復讐なのでしょうか。ワタクシ達も過去に色々とありましたからね。貴方に直接関係は無いと思いますが……まぁ、先代の方々を恨んでください」

 ヒビキは、黙り込んだ。相手の言い分に納得した訳では無い。ただ、体の底から今か今かと飛び出そうとする神気を抑えるのに神経を集中させていただけだった。

 ヒビキの沈黙を、肯定と捉えたのか、はたまたつまらなく感じただけなのか、奴は口を平行に戻す。

「さっさと終わらせましょう。ワタクシは他のお方の様子も見に行きたいのでね」

 奴は事務的に、そう告げる。その直後、奴が侵入していた家がミシミシ……と音を立て始める。

「狭いんですよ、ここ」

 家から、何かが膨らみ始める。腕が屋根を貫通する。背中が家を裂く。

 そして、家を砕いた────

 家という仮面を外し、奴はなんとも不愉快な音を立てながら全貌を曝け出し始める。

 さっきまでヒビキと同じ視点だったはずが、ゆっくりと引き離されていく。ヒビキはいつのまにか、奴を見上げていた。

「ここまで体を大きくさせるのはかなり大変でしたよ。()()()()()()()でようやくこれですし」

 その言葉に、ヒビキは一瞬思考が止まる。

 こいつ、今、全員って言ったか? じゃあ、あの人の気配は何だったんだ────

 その時、ヒビキは悟った。

 あぁ、騙されたんだ──────と。

 きっと、コイツの能力の何かが、ヒビキを騙したんだ。各家に布石を置いておいて、人間の気配を探知した奴らを嵌めるための罠だったんだ。

「こうして見ると、やはり、あのお方の血は素晴らしかったんですねぇ……」

 ヒビキの頭に直接響くように、奴の声が聞こえてくる。さっきまで疑問と怒りが入り混じっていた思考は、疑問を跳ね飛ばし、怒りで満たされた。

「それでは、さようなら。英雄気取りさん」

 奴の体のデカさに比べたら爪楊枝のように細い指がヒビキに襲いかかる。その速度は、亜音速に負けず劣らず。裸眼では絶対に捉えることができない速さだった。

 奴の指は、正確に首を狙っていた。普通なら、間違いなく対応できずに即死だ。

 ただし──────

 ヒビキは別だった。

「……ふざけるな」

 奴の指が首を断ち切るその瞬間、世界が呼吸を止めた────

 音は歪み、風は止まる。

 空気の歪みが肉眼でも確認できる。さっきまで高速だった指は蛞蝓(ナメクジ)と競争させたらギリギリ蛞蝓が勝る程の速度になっていた。

 怒りで荒れ荒れしくなっている神気が、極限まで研ぎ澄まされる。

 腰に帯びた聖剣(ヴァデン)に手をかける。


 抜刀。


 光が走る。刹那、奴の指はヒビキに接触しない程度に切り落とされる。そして、何も無かったかのように、世界が鼓動をはじめる。奴の指の速度は元通り。ただ、ヒビキに当たることはなく、空を切った。

「──!?」

 奴は驚きが隠せていなかった。まぁ無理もないだろう。絶対に当たると思っていた攻撃が防がれ、しかも反撃を貰っているのだから。

「便利だろ? この能力」

 ヒビキは奴をせせら笑うように見つめた。すると、奴のさっきまで切れていたはずの指が、知らない間に元に戻っていることに気付いた。

「時間停止……ですかね。厄介な個性能力(ユニークスキル)をお持ちのようで」

 奴はなんの面白みも無さそうに吐き捨てる。自信溢れた攻撃を防いだのが予想以上に奴をイラつかせているようだった。

「どうだろうな? お前が思ってるよりも面倒臭いものだぜ?」

 ヒビキが放った言葉を、奴は無言で打ち消す。

「この口調が嫌か? 悪いな、俺は自分より下だと思った奴にはタメで話すって決めてるもんでね」

「何──?」

 奴が、明らかに怒っているトーンでヒビキの言った言葉を再確認しはじめる。

「このワタクシが……? 人間のような矮小な存在よりも下……?」

 そこから先は聞き取れなかった。ブツブツブツブツ一人で喋っている。

 奴の呟きは、次第に耳障りなノイズへと変わっていく。それは、どうしようもない、ぶつけ先のない怒りだった。

 やがて、奴の全身から触手が生え始める。何十、いや、何百もの数の触手が一気に生える。

「認めんぞ!! 俺がお前よりも下だなんて!!!」

 奴は、触手を乱暴に振り回し、ヒビキに襲い掛かる。

 その触手のどれもが、先程の斬撃並の速度を出していた。

「少しは学んだらどうなんだよ……」

 しかし、必然と言うべきか、また世界が低速になる。ヒビキは余裕でさっさと触手を全て切り落とす。すると、世界は通常通りに動き出す。奴の切られた触手全てから黒い血が一気に放出しはじめる。

「──ッ!!!!」

「随分とつまんなかったぜ。畜生」

 奴の視界には、ヴァデンを振り上げているヒビキが映った。間もなくして、ヒビキはヴァデンを振り下ろす──

 が、奴は肉体を変化させ、するりするりとヴァデンを躱した。

「──調子に乗るなよ、家畜の分際でェ!!  その増長、その傲慢、万死をもって償わせるッ!!  さあ絶望しろ! お前はその唯一の攻撃手段を封じられた! そして哀れな姿を晒しながら死ねェ!!!!」

 溜め込んでいた罵詈雑言をこれでもかと言うほどに吐き捨て、ここぞとばかりに反撃の姿勢を取る。

「肉体変化……か」

 ヒビキは全くもって動じていなかった。

「まぁ、俺の前には意味ないけどな──」

 そう言った刹那、世界が歪み、鼓膜が破れるほどのノイズが走る。

 やっとノイズが止んだと思えば────

「……ぁ?」

 ヴァデンが、綺麗に奴を捉えていた。確かに、奴は斬撃を躱したはずだった。それは事実だった。しかし、ヒビキの権能が、世界が、その事実を拒んだのだ。

 ヴァデンが触れている所から、徐々にヒビが入り始め、それはすぐに全身へと広がった。

「死んで償え」

 その一言で、奴の肉体はポップコーンのように弾けた。奴の肉体から放出された黒い液体が、ヒビキに最後っ屁のように襲いかかった。

「……流石に死んだよな」

 跡形もなくなっているんだ。死んでいるに違いない。

 それにしても、神威は便利なものだ。本当に、思ったことがなんでも実現する。

 現実を確変したり、世界を超低速にしたり。

 ヒビキは、正直不安だった。疲弊が溜まってる体で、あんな化け物に勝てるのかと。ただ、蓋を開けてみればそれは無駄な心配だった。

「あと2人……とっとと終わらせるか」

 激戦の余韻が静かな街に沈殿する。ヒビキはヴァデンを納める。終わりの始まりを告げるヒビキの足音だけが今のこの街を飾っていた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ