11.そうだ、街を滅ぼそう
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シオリとゼロは2人して、長い石段を登っていた。
ピリカ、ヴィザールの姿も気配もない。先に行ったのだろう。と、安直に推測し、ピリカ達が居るであろう頂上にまで歩いていった
ただ、唯一疑問に思うのは戦闘音が一切しないこと。ヴィザールは魔界の旧友に容赦なく攻撃を仕掛けに行った。ならば、ホタルも攻撃をするのが普通なのではないだろうか。ただ単にヴィザールとの見方が違うだけで、ホタルは旧友に手を出さないタイプかもしれないが。
石段の最後の1段を踏み越え、シオリ達が見た景色は、激戦の跡地なんかではない、静謐に包まれ、浮世離れした光景だった。
爆発痕や、血の匂いはせず、あるのは秋の夜の静かで冷たい空気だけだった。
そして奥に映るは、純和風建築と呼ばれる建物。シオリは知識として頭の中に入れてはいたものの、実物を目にしたのはこれが初めてだった。
なんで、この世界に日本文化があるのだろう。シオリは頭の片隅から生まれた疑問を一気に全体に広げた。広げたところで何にもならないが。
「全滅……にしては戦いの後が無さすぎるな……ってことは……」
ゼロは迷いなく、家の方に足を進める。シオリも、それに無言で着いていく。
コンコンコン、とゼロはノックをする。
間もなくして戸が開かれる。出てきたのは和装を身に包んだ、この家の主らしき人物だった
「ゼロ……か。隣は誰だ?」
シオリに鋭い眼差しを向けてきたので、咄嗟に「シオリです」とだけ言った
「ほぉん」
それだけ言い、男は「入れ」みたいなジェスチャーをする。
「あ、お邪魔します」
シオリは何となく、そのジェスチャーの意味を汲み取った。この男とはなにか通ずるモノがあるのだろうか。
家に上がれば杉の匂いが鼻腔を刺激する。日本人口の半分くらいの人が忌み嫌うであろうこの木。ただ、シオリは幸運にも花粉症を持っていないため、杉に対して殺意は湧かなかった。
この世界の文化は正直分からないが、明らかにこの和風建築が場違いな事くらいシオリも推測できた。
居間のような所に案内され、中に入ると、座布団を腹の下に敷いてでろ〜んと伸びているピリカが居た。
机の上には湯のみが2つ、そして目ん玉。
「おぉ……」
この部屋に今までのような雰囲気は無く、あるのは繊細な和のみだった。それに思わずシオリは声を漏らす。
シオリ達に気付いたのか、ピリカは挨拶代わりに片手をだらーんと上げる。
「適当なとこ座ってくれ」
ぶっきらぼうにそう言われると、無意識的にちゃぶ台の周りを目で探す。ここに座ってくださいと言わんばかりに座布団が2枚あった。
ピリカが下敷きにしている座布団も合わせると、計4枚。
居間は茶と畳の匂いが微かに香る。ゼロが座布団に腰をかける。それに合わせるように、シオリも座布団に腰を下ろし、部屋を見回した。
和を凝縮したような部屋だった。
煤竹の落とし掛けや、水墨画、生け花に障子。ちゃぶ台の上で飲まれるのを今か今かと待っている茶からの淡い香りもいいアクセントになっている
「ここだけ、別の世界みたいだね」
未だにぬへーっとしているピリカに、落ち着かない様子で目をきょろきょろするゼロ。そして瞬きをしなくても大丈夫なのかと心配になるヴィザール。それは、今までの緊迫した空気からは一変し、和やかな様だった。
「さて……話はピリカから聞いているか?」
さっきまでソワソワしてたのがまるで嘘かのようにゼロは態度を整える。そして何も無かったかのように家主に話しかける。
「あぁ。それっぽい話は聞いた……ただ……」
家主は1拍間を空け、また口を開く。
「俺は別に人間に恨みを持ってる訳じゃあねぇ。お前らの所の長が死んだとて、俺には関係ねぇ話だ」
あっさりと切り捨てる。この計画に賛同したとして、成功したとしてメリットは無いと考えたのだろう。
あの時のシオリも同じだった。だから何となく気持ちが分かった。シオリが賛同したのは暇だったからであり、それ以外に何も無かった。
「えー、別にいーじゃん?」
ピリカは未だに起き上がろうとせず、だらしない姿勢で話す
「別に、1人くらい仲間に出来なくても大丈夫でしょ。とっとと帰ろう」
シオリは返事も聞かずに立ち上がる
「私たちはメリットを提示できない。菓子折りもないし、ここで説得しようと停滞するのも無駄でしょ」
シオリが居間を出ようとしたその時
「待て」
声がかかった。家主だ。シオリはその声に足を止め、顔だけ振り向く
「何」
「お前、さては異世界人だな?」
その言葉に、シオリは一瞬だけ思案する。
「まぁ、そうだね」
事実をそのまま言った。ここで嘘を吐いても良かったが、見破られるだろうと何となくだが思った。
シオリの返答に、ゼロ達はなんとも反応を見せなかった。全員、分かっていましたよーみたいな感じで話を聞いている。
その返答に、家主はヘッと口角を上げ、話し始める
「興が湧いた。お前らの提案に乗ってやる」
それは、意外な言葉だった。何に興が湧いたのかは置いといて、こんなにも頑固そうな奴がこうも簡単にコチラの提案に乗るとは思いもしなかった
「ただ、条件がある」
家主はそう言ったあと、ヴィザール、ゼロ、ピリカ、シオリを一瞥して口を開く
「お前ら全員で、明日から3日以内にこの大陸にある大国の街を1つ滅ぼせ。街ならばどこでも問わん」
それは何とも無理難題なものだった。ゼロは何も言わなかったものの、明らかに無理そうな顔をしていた。
ピリカはよく分からなかった。表情が見えなかった。
「っ……街を1つですか? 随分とふざけた条件ですね」
ヴィザールがイライラした声でそう言う
「出来ないのか? ならそれでも構わん。この程度すら出来ないのならば復讐なんて諦めるんだな」
その言葉に、ゼロはハッとした。
忘れていた。復讐ってのは、あのエリュシオンが敗北した軍団に牙を剥くことなんだと。過去に一度、エリュシオンに本気でぶつかりにいった。単なる八つ当たりだった。個性能力も、魔法も、4本の尻尾も、何もかもを最大限駆使してぶつかりにいった。
それなのに、それなのに。彼女は片手だけで自分を圧倒して、鎮めて。きっと1%も力を出していなかった。余裕な素振りを見せていたくらいだ。1%も出さずに自分を圧倒した彼女が、敗北した。人間達に、負けた。それに復讐を誓ったのか? 言葉を出したい。当たり前だって言って、禁域を出て、とっとと街ひとつくらい滅ぼせば良い。なんなら、過疎地を狙えばすぐに終わる。それだけの事なのに、声が出なくて。言葉が喉の奥に突っかかってて息苦しさすら感じた。
「良いよ」
斜め上からどこか透き通った声が聞こえた。
「王都をぶっ潰してあげる」
ゼロが見上げれば、ホタルと目を合わせているであろうシオリの顔が視界に入った。シオリの返答に、ホタルは「面白い」と軽く返していた
「早く行くよ。ピリカ、そこの目ん玉持って」
なんだ、なんなんだ、この女は──
軽々しく了承を出して、なんなら条件を厳しくして。この女はアイツらの恐ろしさが分かってないから気安く言えるんだ。王都を3日以内にだなんてあまりにも無茶だ。なに馬鹿げたことを言っているんだ? こんなにも我は悩んでいるのに、恐れているのに、何も考えてなさそうに返答をするシオリを、何故か忌々しく思ってしまう。
「ゼロ」
「──!!」
シオリがかけたその言葉で自分だけの世界から引き剥がされ、現実に戻される。
「何してんの、早く行くよ」
何も気付いていなさそうな声色だった。
「あ、あぁ……」
ゼロはそれに抗えず、ついていった。
◇◇◇
鬼神の禁域を抜け、広大な大地を視界いっぱいに広げた。冷たい空気が肌全体に纏わりつくのが分かる。
国は、1番最初に目に止まった物でいいや。別にどこが潰れようが関係ないし。
「にしてもシオリちゃんさ〜? 王都って言ってたけど、結構王都は辛くない?」
決して責めてるわけではない、心配の声がピリカの口から発せられる
「別に、大丈夫でしょ。なんなら私1人でも余裕だと思うよ?」
「え〜……?」
「あまり、向こうを舐めない方が良いかと。事実、あのお方も敗北しましたし」
さっきまで目ん玉だったヤツが口になって喋る。口だけの姿は普通に気持ち悪い
「きっと、そのお方は舐めプしたんでしょうね」
「……は?」
ゼロの怒りの声が聞こえなかったのか、シオリは話を続ける。
「英雄がまだまだ未熟なんだし、余裕だよ」
響との戦闘を思い出しながら話す。
「後さ、ゼロ」
シオリは歩みを止めず、ゼロの顔をちらっと見る
「仲間にマイナス感情を抱いてても良いことはないよ」
「──!」
図星だったのか、ゼロは黙り込む。
「はっきり言って邪魔。その状態で、体が命令を聞くとは私は思えない。感情がおさまるまで、見ときなよ」
その言葉は、ゼロの心に酷く響いた。
エリュシオンに似ている彼女に言われるからこそ感じるものもあった
「……この程度、問題はない。我は同行するぞ」
その腑に落ちてない声を聞いて、心でため息をつく。
「あっそ」
もう既に人工物を視界の中に捉えていた。どこか見覚えのある感じだった。きっと、あれが国の外壁のようなものなのだろう。
「あそこに行こうか」
のんびり潰す気はない。シオリはとっとと殺ることしか考えていなかった。
ピリカが手玉を補充したいと申したので、少し待機して、また進んだ。
歩いてる最中に、簡単に作戦を立てた。
ピリカの赤い手玉で壁をぶっ壊して、困惑させてる間に潰す。簡単な作戦だ。あとは各々好きにすればいい。
20分ほど歩いただろうか。門が見えてくる。随分とデカくて、見た事がある。懐かしさすら感じられた。
隣にはデカイ森があった。見たことある配置だ。
「さて、潰そうか」
「はいは〜い♪」
「そうですね……」
「……あぁ」
4人の意気込みの様なものは、夜の空へと吸い込まれていった。
シオリは心の中で微笑した。理由は分からなかった。
ただ、唯一分かるのは、今までで1番、気分が高揚している事だった




