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EP 4

鬼隊長のブートキャンプ

「おい、そこの爬虫類とウサギ」

俺が声をかけると、暴れていた二匹の野獣が同時にこちらを向いた。

「あぁん? 誰だテメェ、焦げ肉になりてぇのか!」

「おじさん誰ー? お金持ってそうに見えないけど、身ぐるみ剥いでいい?」

イグニスと呼ばれていた竜人は口から煙を吐き、キャルルと呼ばれていた月兎族は可愛らしい笑顔で物騒なことを言う。

俺は吸っていたタバコを携帯灰皿に押し込むと、懐からあるモノを取り出した。

「お前ら、腹減ってんだろ」

俺の手にあるのは、来る途中のタローソンで買ってきた『プレミアム・タロー・バーガー(チーズ増量)』が2つ。

包装紙を開けた瞬間、ジャンクだが暴力的なまでに食欲をそそる肉と脂の匂いが漂った。

ゴクリ。

二人の喉が鳴る音が、はっきりと聞こえた。

「く、食い物……!」

「わぁ……いい匂い……」

「欲しけりゃついて来い。仕事と、寝床と、山ほどの飯をくれてやる」

俺がそう言うと、イグニスは涎を垂らしながら斧(という名の鉄塊)を振り上げた。

「へっ! そんなもん、テメェをぶっ飛ばして奪えばタダだろぉが!!」

単純な思考回路だ。交渉決裂。

イグニスが地面を蹴り、猛スピードで突っ込んでくる。

キャルルもそれに便乗し、死角から回り込んで俺の財布を狙う動きを見せた。

「……クリアリング(安全確認)が甘いな」

俺は腰のポーチから、円筒形の缶を取り出し、ピンを抜いて二人の足元に転がした。

「な、なんだコリャ?」

カッッッ!!!!

閃光と爆音。スタングレネード(特殊音響閃光弾)だ。

感覚の鋭い獣人や竜人には、効果は抜群どころの話ではない。

「ギャァァァッ! 目が、目がぁぁ!」

「耳があぁぁ! キーンってするぅぅ!」

二人が目を押さえてのたうち回る。

俺はその隙に歩み寄り、イグニスの後頭部を安全靴(サンダルから履き替えた)で踏みつけ、キャルルの首根っこを掴んで吊り上げた。

「学習しろ。力任せに突っ込むからこうなる」

俺は地面に転がったバーガーを拾い上げ(包装紙のおかげで無事だ)、二人の鼻先に突きつけた。

「食いたきゃ従え。今日から俺が飼い主だ」

***

「いいか、突入エントリーとはドアを蹴破ることじゃない。その先にいる敵を認識することだ!」

廃倉庫(T-SWAT本部)に、俺の怒号が響く。

リクルートした二人は、スペックだけ見ればS級だ。

イグニスは戦車のようなパワーと耐久力、そして飛行能力を持つ。

キャルルは音速に近い機動力と、異常なほどの動体視力を持つ。

だが、連携チームワークは皆無だった。

「イグニス! ブリーチング(ドア破壊)!」

「オラァ! 燃え尽きろォォ!!(極大ブレス)」

「馬鹿野郎! 部屋ごと人質を燃やしてどうする! ハンマーを使え!」

ドカッ! 俺はイグニスの頭をメガホンで叩く。

「キャルル! ポイントマン(先行偵察)!」

「はーい! ……あ、この部屋の壺、高く売れそう♡」

「確保品に手を出すな! 前を見ろ!」

ポカッ! 俺はキャルルのウサ耳を軽く掴んで叱る。

そんな地獄のような訓練ブートキャンプが三日三晩続いた。

最初は反発していた二人だったが、俺が「SWATの戦術」で彼らをねじ伏せ続け、訓練後には約束通りタローキングの満腹セットを奢り続けることで、次第にその目は変わっていった。

「隊長の動き……無駄がねぇ。魔法も闘気も使ってねぇのに、なんで俺の攻撃が当たらねぇんだ」

「あのおじさん、私の蹴りを予測してるみたい。……それに、ご飯美味しいし」

餌付けと実力行使。

単純だが、荒くれ者をまとめるにはこれが一番だ。

***

そして一週間後。

倉庫の中央に、三人の影が並んでいた。

「……様になってきたな」

俺は満足げに頷いた。

目の前の二人は、もう薄汚れたホームレスではない。

イグニスは、特注の超大型ボディアーマーを装着していた。

背中の翼や尻尾の可動域を妨げないよう改良されており、手には巨大なバリスティック・シールド(防弾盾)と、ドア破壊用の大型ハンマー(スレッジハンマー)を持っている。

頭には角を通す穴が開いた、黒いタクティカルヘルメット。

破壊工作員ブリーチャー』の完成だ。

キャルルは、軽量化された黒のコンバットスーツに身を包んでいた。

その脚線美を強調しつつも、関節部は強固にガードされている。

そして足元には、ピカピカに磨かれた新品の『強化鉄芯入り安全靴タローワークマン・プロモデル』。

腰にはフラッシュバンや手錠、そして特殊警棒代わりのトンファーを装備している。

尖兵スカウト』の完成だ。

そして俺、鮫島勇護。

黒のBDU(戦闘服)に、タクティカルベスト。ホルスターには愛銃『Korth NXS』。

背中には白字で大きく『T-SWAT』のロゴ。

「いいか、俺たちの仕事は『戦争』じゃない。『治安維持』だ」

俺はタバコの煙を吐き出しながら、二人の部下を見渡した。

「魔王だろうが勇者だろうが、この国で法を犯す奴は全員『犯罪者ホスタイル』だ。魔法障壁? 知ったことか。盾でカチ割って、鉛玉をブチ込んで、安全靴で踏み潰せ」

「へっ、要は暴れていいってことだろ? 気に入ったぜ隊長」

イグニスがニヤリと笑い、ヘルメットの顎紐を締める。

「ボーナス弾むなら頑張るよー。あ、私の靴、経費で落としてね?」

キャルルが屈伸をしながら、ウサ耳をピコピコと動かす。

その時、倉庫に設置された赤色灯が回転し、サイレンが鳴り響いた。

太郎からの直通回線だ。

『こちら司令室タロー。……T-SWAT、聞こえるか? 初仕事だ』

スピーカーから、国王の気怠げな声が聞こえる。

『貴族街で爆破事件発生。現場には……妙な仮面をつけた連中がいるらしい。直ちに急行、鎮圧せよ』

俺は無線機インカムのスイッチを押した。

了解ラジャー。T-SWAT、出動する」

俺はKorthのシリンダーを確認し、カチリと戻した。

シャッターが開く。

朝日に照らされた異世界の街へ、黒き機動隊が解き放たれる。

「総員、状況開始グリーン・ライト!」

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