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EP 7

予測不能の100円ショップ

 深夜の魔導エネルギープラントに、場違いな男の声が響く。

「いやー、コンビニの帰り道だったんだけどさ。なんか凄い音したから」

 ジャージ姿にサンダル履き。

 片手には『タロウマート』のレジ袋(カップ麺入り)。

 この国の王、佐藤太郎だ。

 彼は凶悪テロリスト集団『ナンバーズ』と、満身創痍の『T-SWAT』の間に、散歩のような足取りで割って入った。

「……貴様、何者だ」

 ゼロが訝しげに眉をひそめた。

 彼のユニークスキル『未来予知』は、数秒先の確定した未来を視覚化する。

 だが、このジャージの男を見た瞬間、脳内の映像にノイズが走ったのだ。

『Error... 対象の行動予測不能...』

『警告:未知の変数が多すぎます』

(……なんだ? 未来が……ぼやけて見える?)

 ゼロは警戒しつつ、隣のワンに目配せをした。

 言葉はいらない。「殺せ」の合図だ。

「ヒャハッ! 誰だか知らねぇが、死にやがれェェ!!」

 ワンが地面を蹴り、太郎に向かって突進した。

 その拳には、鉄骨すら粉砕する『破壊』の衝撃波が纏われている。

 鮫島が叫ぶ。

「太郎様! 逃げろッ!」

 だが、太郎は動じない。

 彼はレジ袋をごそごそと探り、あくびをしながら「あるモノ」を取り出した。

「あ、やべ。危ないよー」

 チャララララ……!

 太郎がばら撒いたのは、魔法のアイテムでも、聖なる武具でもない。

 タロウマートの玩具コーナーで売れ残っていた、一袋100円の**『ビー玉(大容量パック)』**だった。

「あ?」

 突進していたワンの足が、ビー玉に乗った。

 ツルッ。

「――ぶべラッ!?」

 漫画のような効果音と共に、ワンが盛大にすっ転んだ。

 受け身も取れず、自らの突進の勢いで後頭部をコンクリートに強打する。

 ドゴォォン!

「……は?」

 ゼロの目が点になった。

 未来予知には、「ワンが男を粉砕する未来」が見えていたはずだ。

 なぜ、ビー玉ごときに足を取られた?

 いや、そもそもあのガラス玉はどこから出てきた? 予知には映っていなかったぞ?

「いってェェ! なんだこの玉は!?」

「あー、ごめんごめん。それ『よく滑るビー玉』だから。……お詫びにこれあげる」

 太郎は次に、スプレー缶のようなものを取り出し、ワンの顔面に噴射した。

 プシューーーッ!!

「ぐあぁぁぁ!? め、目がぁぁぁ!! なんだこの激臭はぁぁぁ!?」

 ワンがのたうち回る。

 それは、パーティーグッズコーナーの最終兵器**『罰ゲーム用・激臭スプレー(ドリアンの香り・3倍濃縮)』**だった。

 鼻が曲がるほどの悪臭が周囲に充満し、ナンバーズの仮面のフィルターすら貫通する。

「くっ……! 毒ガスか!? スリー、換気魔法を……!」

「ボ、ボス! 臭すぎて詠唱できません! オェッ!」

 完璧だった連携が崩れ、戦場がただの「臭い空間」と化す。

 ゼロはハンカチで鼻を押さえながら、脂汗を流して太郎を睨みつけた。

「き、貴様……! 一体何をした!? なぜ私の予知に映らない!?」

「え? 何って……ただの100均グッズだけど?」

 太郎は首を傾げた。

 そう。彼のスキル『100円ショップ』で呼び出すアイテムは、異世界(地球)の物質だ。

 この世界の魔力法則や因果律の外にある「異物」。

 ゼロの未来予知は、この世界のルールに基づいて演算しているため、太郎の出すデタラメなアイテムまでは計算できないのだ。

(バグだ……! こいつの存在そのものが、私のスキルに対するバグだ!)

 ゼロの脳内で、予知映像が乱れまくる。

 ビー玉で転ぶ未来。スプレーでむせる未来。とりもちで動けなくなる未来。

 どれもが馬鹿馬鹿しく、しかし致命的な隙を生む。

「……今だッ!!」

 その隙を、歴戦のプロフェッショナルが見逃すはずがない。

 鮫島が吼えた。

「イグニス! キャルル! 反撃だ! 奴らの『目』は今、死んでいる!」

 鮫島の檄に応え、瓦礫の中でうずくまっていた二人が弾かれたように立ち上がる。

「おうよ! あの変な臭いで目が覚めたぜ!」

「くっさいけど! チャンスなら行くわよぉぉぉ!!」

 イグニスが斧を構え、キャルルが安全靴を鳴らす。

 太郎が作った一瞬の「空白」。

 そこへ、T-SWATの全火力が叩き込まれる。

「……チェックメイトはまだ早いぜ、仮面野郎」

 鮫島はKorthのリボルバーに、最後の『スタングレネード弾』を装填した。

 予知不能のカオスの中、本当の戦いが始まる。

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