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EP 6

エネルギープラント防衛戦

 深夜。王都の北区画に位置する『第1魔導エネルギープラント』。

 巨大なパイプが複雑に絡み合い、魔力光マナ・ライトが脈打つこの施設は、太郎国の心臓部とも言える重要施設だ。

 その正門前に、4つの影が現れた。

 仮面の集団、ナンバーズだ。

「……ここが、私の覇道の礎となる場所か」

 リーダーのゼロは、巨大なプラントを見上げて板チョコを齧った。

 龍魔呂に刻まれたトラウマは深かったが、この作戦さえ成功させれば、世界を書き換える力を手に入れられる。そうすれば、あんな化け物など恐れる必要はない。

「ワン。道を開けろ」

「ヒャハハハ! 了解だボスゥ!!」

 巨漢のワンが前に出る。

 彼は分厚いミスリル合金製の防護壁に手を触れた。

「壊レロォォォ!!」

 ドォォォォォンッ!!

 衝撃波一閃。

 戦車の砲撃すら防ぐ防護壁が、まるで砂細工のように崩れ去った。

 警報が鳴り響く中、ナンバーズは悠々と敷地内へ侵入する。

「敵襲! 敵襲ゥゥ!」

「魔法が効かない! ぐあああっ!」

 駆けつけた警備兵たちが次々と吹き飛ばされていく。

 ワンの暴力的な破壊力と、スリーのテレポートによる撹乱、フォーの千里眼による索敵。

 そして何より、ゼロの指揮が完璧すぎた。

「……右からファイアボール。伏せろ」

「2秒後、足元から地雷魔法。スリー、転移だ」

 ゼロはまるで台本を読んでいるかのように指示を出し、警備兵の攻撃を全て回避させていく。

「退屈だね。……ん?」

 ゼロがふと足を止めた。

 未来予知の視界に、紅蓮の炎と、音速の影が映ったからだ。

「……ようやくお出ましだ」

 ***

「オラァァァ!! テロリスト共! そっから先は通行止めだァ!!」

 夜空から、炎を纏ったイグニスが急降下してきた。

 プラントの広場に着地すると同時に、巨大なクレーターを作る。

「お待ちどうさま! 残業代稼ぎに来たわよ!」

 続いて、火花を散らしながらキャルルが高速で滑り込んでくる。

 そして最後に、ハンドガンを構えた鮫島が、瓦礫の陰から姿を現した。

「……T-SWAT到着だ。全員、武器を捨てて投降しろ」

 鮫島の警告に、ゼロは肩をすくめた。

「投降? ナンセンスだね。……君たちこそ、今すぐ回れ右をして帰るのが賢明だ。この先の未来、君たちには『敗北』しか用意されていない」

「やかましい! 未来なんて燃やせば変わらァ!!」

 イグニスが吼え、グレートアクスを振りかぶる。

 真正面からのフルスイング。単純だが、それゆえに回避困難な暴力。

「……2秒後。縦斬り。右へ半歩」

 ゼロが呟く。

 ワンが指示通りに半歩だけ右に動いた。

 ブンッ!!

 イグニスの斧が、ワンの鼻先数センチを空振りし、地面を砕く。

「なっ!? また避けやがった!?」

「隙ありィッ!」

 イグニスの攻撃で生じた死角から、キャルルが飛び出す。

 音速の回し蹴りが、ゼロの側頭部を捉える――はずだった。

「……左ハイキック。しゃがめ」

 ゼロはその場にしゃがみ込み、靴紐を結び直すような動作をした。

 キィィィン!

 キャルルの蹴りが頭上を通過し、空気を切り裂く音だけを残す。

「うそでしょ!? 私の速度が見えるわけないのに!」

「見えているのではない。『知っている』のだよ」

 ゼロは立ち上がりながら、無防備になったキャルルの腹部に手をかざした。

「ワン。衝撃波だ」

「ヒャハッ!」

 ワンがゼロの背後から手を突き出し、キャルルに向けて衝撃波を放つ。

 ドォンッ!!

 至近距離での直撃。

「きゃあああああッ!?」

 キャルルが木の葉のように吹き飛ばされ、パイプの山に激突した。

 ルチアナ製の防護スーツのおかげで即死は免れたが、ダメージは深い。

「キャルル!! ……チッ!」

 鮫島は即座にトリガーを引いた。

 狙うはゼロの眉間。だが、ゼロはすでにスリーの能力でその場から消えていた。

「後ろだ、隊長さん」

 背後からの声。

 鮫島が振り返るより速く、見えない力が彼を弾き飛ばした。

「ぐっ……!?」

 鮫島は地面を転がり、受け身を取って立ち上がる。

 目の前には、余裕の笑みを浮かべるゼロと、傷一つないナンバーズの面々。

 こちらの攻撃は一発も当たらない。

 あちらの攻撃は必中。

 これが『未来予知』のある戦場か。

「無駄だと言ったはずだ。……君が次に撃つ弾丸の軌道も、そのトカゲが吐く炎の範囲も、全て私の脳内では『終わった過去』なのだよ」

 ゼロは両手を広げ、プラントの中枢を指差した。

「我々はこれから、あそこで魔力を回収する。……指をくわえて見ているといい。どう足掻いても、結果は変わらない」

 圧倒的な絶望感。

 イグニスが悔しげに地面を叩き、キャルルが苦悶の声を上げて蹲る。

 鮫島は口の中のキャンディを噛み砕き、冷や汗を拭った。

(……クソッ。どうする? 物理も速度も通じない。予知の裏をかく? いや、裏をかこうとする思考すら読まれている……)

 万事休すかと思われた、その時。

「おーい! 鮫島くーん! 奇遇だねぇ!」

 緊迫した空気をぶち壊す、間延びした声が響いた。

 全員が視線を向ける。

 プラントの入り口付近に、ジャージ姿の男が一人、ふらりと立っていた。

 手にはコンビニ袋。そして背後には、護衛のライザ騎士団長が青ざめた顔で控えている。

「た、太郎王!? なぜこのような危険な場所に!」

「いやー、夜食のカップ麺を買いに出たら、なんか花火みたいな音したからさー」

 この国の王、佐藤太郎だ。

 彼は戦場のど真ん中を、散歩コースのように歩いてくる。

「……ん? なにあの仮面の人たち。劇団?」

 ゼロの眉がピクリと動いた。

 未来予知には、この男の乱入など映っていなかった。

「……誰だ、貴様は」

「俺? 太郎だよ。……あ、もしかしてテロリストさん? やだなー、深夜に騒音立てちゃダメだよ?」

 空気が凍りつく。

 だが、この予測不能な「異物」の乱入が、確定していたはずの未来を、大きく狂わせようとしていた。

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