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EP 3

潜入者:No.2の誤算

「……退屈ね」

王都の郊外、ゴミ処理施設『タロー・リサイクルセンター』を見下ろす高台。

ナンバーズNo.2、ルルシア・キャリデリンは、夜風に金髪をなびかせながら欠伸を噛み殺していた。

可憐なドレスの上に、組織の黒いマントと仮面を纏ったその姿は、夜の支配者そのものだ。

「No.0(ボス)は慎重すぎるのよ。T-SWATなんて、私の『コピー』で捻り潰せばいいのに」

彼女の狙いは、T-SWATの隊員たち……ではない。

組織の情報網が捉えた、ある「大物」の確保だった。

「シーラン王国の第三王女、リーザ。……彼女の持つ『王家の魔力』をコピーすれば、私はNo.1(ヴォルグ)をも凌ぐ最強の存在になれる」

ルルシアは眼下のゴミ捨て場に視線を落とした。

情報によれば、その王女はなぜかこの付近に出没するという。

「……いたわ」

ゴミの山の中心に、一つの影があった。

青い髪の少女。間違いなくリーザ王女だ。

だが、その様子が――おかしい。

***

「……ふふふ。甘いわね、タロー国の市民たちよ」

リーザは、廃棄された家電製品の山を前に、鬼気迫る形相で立っていた。

その瞳は充血し、全身からは紫色に揺らめくオーラ(ただの執念)が立ち上っている。

「この魔法トースター……熱線が切れてるだけじゃない。ここを繋げばまだ動く……! 『タロー・ブックオフ』なら、ジャンク品として50円(銅貨50枚)で買い取ってくれるはず……!」

リーザは壊れたトースターを、まるで聖遺物を鑑定するかのような手つきで撫で回していた。

さらに、横にある古雑誌の束を手に取る。

「こっちは……ダメね。日焼けしてる。買取不可。……チッ」

雑誌を投げ捨てる速度。それは達人の居合いの如きキレ味だった。

「見える……見えるわ……! ゴミの中に埋もれた『小銭』の輝きが……!」

***

「な、なんなの……あのプレッシャーは……!」

高台のルルシアは、戦慄していた。

彼女の目には、リーザの姿が「ゴミを漁る貧乏人」ではなく、「万物の価値を一瞬で見極める鑑定の達人」に見えていたのだ。

「あの淀みない選別……。壊れた魔導具の構造を一目で見抜き、修復の可否を判断している!? ただの王女じゃないわ……修羅場をくぐり抜けた『強者』のオーラよ!」

ルルシアはゴクリと喉を鳴らした。

欲しい。あの力が欲しい。

あの研ぎ澄まされた直感と、生存本能。あれさえあれば、どんな戦場でも生き残れる。

「決めた。貴女の力、いただくわ!」

ルルシアは影となって音もなく跳躍した。

着地音ゼロ。背後からリーザに忍び寄る。

リーザは「あ、アルミ缶だ!」と空き缶拾いに夢中で、背後の殺気に気づかない。

(隙あり!)

ルルシアの手が、リーザの肩に触れた。

「ユニークスキル発動――【コピー】!」

ヒュンッ。

魔力のパスが通り、リーザの「本質」がルルシアへと流れ込んでくる。

『スキャン完了……』

『対象のスキルおよび特性を獲得しました』

「ふふっ、やったわ! これで私も……」

ルルシアは勝利を確信し、自身の体に力が満ちるのを感じた。

……いや、「力」ではない。

もっと別の、根源的で、抗いようのない「衝動」が、脳髄と胃袋を支配していく。

ギュルルルルルルルルルルッ!!!!!

静寂なゴミ捨て場に、雷鳴のような腹の虫が鳴り響いた。

「……え?」

ルルシアはその場に膝をついた。

力が入らない。

視界が霞む。

世界が回る。

「な、なに……この感覚……。お腹が……空いた……?」

ただの空腹ではない。

数日間絶食したような飢餓感。

そして、これまで見えていた世界が一変した。

足元に転がっているペットボトルのキャップが「換金アイテム」に見える。

捨てられた古新聞が「防寒具」に見える。

そこにある錆びた鉄くずが「お宝」に見えて仕方がない。

これこそが、リーザが過酷なサバイバル生活で身につけた後天的スキル。

【王家の誇り(貧困耐性S)】:あらゆる廃棄物を資源として活用し、プライドを捨てて生存する能力。

および、

常時飢餓エターナル・ハングリー】:常にカロリーを欲し、食べ物への執着が限界突破する呪い(体質)。

「あ、あら? お仲間かしら?」

腹の音に気づいたリーザが、キョトンとした顔で振り返った。

そこには、高級ドレスを着て仮面をつけた不審者ルルシアが、腹を押さえてうずくまっていた。

「ぐっ……ううっ……! ち、違う! 私はナンバーズの……!」

ルルシアは立ち上がろうとした。

だが、目が合ってしまった。

ゴミ山の中に落ちている、賞味期限切れ(昨日)の未開封パンの袋と。

「あ……」

貴族令嬢としての理性が叫ぶ。「そんな汚いものを拾うな!」と。

だが、コピーした「リーザの本能」が叫ぶ。「それはご馳走だ! 確保せよ!」と。

ルルシアの体は、意思を無視して動いた。

四つん這いでパンに飛びつき、袋をひっつかむ。

「……っは!?」

我に返るルルシア。手には廃棄パン。

ドレスの裾は泥まみれ。

「ふふっ、新人さんね? わかるわよ、その気持ち」

リーザが慈母のような(しかし目は笑っていない)顔で近づいてきた。

彼女はルルシアの手にあるパンを見て、あちゃーという顔をした。

「でもダメよ。それはカビが生えてるわ。……こっちの『半額シール付きおにぎり』の空パックについた米粒の方が安全よ?」

「な、何を言って……私は……!」

ルルシアは反論しようとしたが、口から出た言葉は違った。

「……そ、その米粒……どこで手に入るの……?」

「いい心がけね! ついてらっしゃい! パイセンとして、この街の『歩き方』を教えてあげる!」

リーザがルルシアの手を引く。

拒絶しようにも、空腹で足が動かない。

それに、リーザから溢れ出る「頼もしさ」に、なぜか逆らえない。

「ま、待って……私は……No.2……!」

「ツーちゃんね! よろしく!」

こうして、最強のコピー能力者は、最強の貧乏王女によって連行された。

向かう先は、欲望と絶望が渦巻く鉄火場――パチンコ屋のフロアである。

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