EP 2
女神との裏取引
「……よし、準備はいいか」
T-SWAT本部(廃倉庫)。
俺は中央にパイプ椅子を置き、その上に『供物』を並べていた。
王妃たちからふんだくった白金貨50枚の小切手。
タローソンで買い占めた『季節限定・プレミアム生ビール』1ケース。
そして、リベラに頼んで取り寄せた、地球の高級ブランド『C』の新作リップスティック。
「隊長、何が始まるの? 悪魔召喚?」
キャルルが興味津々に覗き込む。
「似たようなもんだ。……出てこい、女神ルチアナ」
俺がタバコの煙を吹きかけると、空間が歪み、光が溢れた。
「あー、忙しい忙しい。今ね、韓流ドラマのいいところなんだけど?」
光の中から現れたのは、相変わらずジャージ姿に便所サンダル、片手にはスマホ、片手にはポテチを持った女神ルチアナだった。
「……何の用? 鮫島くん。返品は受け付けてないわよ」
「商談だ」
俺はパイプ椅子を顎でしゃくった。
ルチアナの目が、供物(特にビールとコスメ)に釘付けになる。
「あら、気が利くじゃない。……で? その小切手は何? 私を買収しようってわけ?」
「買い物だ。俺たちに『武器』を売れ」
俺は単刀直入に切り出した。
「ナンバーズとかいう連中、物理攻撃(Korth)は通じるが、数が多すぎる。それに、これから出てくる幹部はもっと厄介だろ?」
「ま、そうね。No.1の『破壊』なんて、普通なら即死チートだし」
ルチアナはポテチをバリバリと食べながら、面倒くさそうに頭を掻いた。
「でもさー、地球の近代兵器をこれ以上入れたら、パワーバランス崩れちゃうのよねー。私の管理責任が問われるっていうか」
「今さらだろ。この国自体がエラーみたいなもんだ」
俺は畳み掛けるように、コスメの箱を指差した。
「この色は、今年の限定色だ。こっちの世界じゃ絶対に手に入らん。……アンタのその肌色なら、似合うと思うがな」
ルチアナの動きが止まった。
彼女はスマホを放り投げ、音速でリップスティックを手に取った。
「……鮫島くん。君、女の子の扱い上手いわね。重い女とか騙せそう」
「元SWATは交渉術も必修科目だ」
ルチアナはニヤリと笑い、ビールケースの上にドカッと座った。
「いいわよ、取引成立。……で、何が欲しいの?」
俺は懐からメモを取り出し、読み上げた。
「まず、制圧力の高いアサルトライフル。『M4カービン』を人数分。オプションパーツ込みだ」
「はいはい」
「次に、近接戦闘およびドア破壊用の散弾銃。『ベネリM4 スーパー90』」
「イグニスくん用ね。いいチョイス」
「最後に……遠距離からの狙撃、および装甲目標の破壊用。『バレットM82A1』対物ライフル」
ルチアナが口笛を吹いた。
「うわぁ、エグい。それ、対人用じゃないでしょ。ドラゴンでも狩る気?」
「敵は化け物だ。これくらいでちょうどいい」
「りょーかい。……じゃ、倉庫から『紛失』扱いで持ってくるわ」
ルチアナが指を鳴らす(スナップする)。
廃倉庫の空中に、黒い亀裂が走った。
そこから、重厚な木箱がドスン、ドスンと落下してくる。
「わぁ! なんかすごいの来た!」
キャルルが歓声を上げる。
俺はバールで木箱をこじ開けた。
緩衝材の中に、油紙に包まれた黒鉄の銃器たちが眠っていた。
M4カービンの冷たい感触。ピカティニー・レールに装着されたホロサイト。
これだ。これがあれば、戦術の幅が広がる。
「弾薬はサービスしとくわ。……あ、でも気をつけてね」
ルチアナが消えかかる光の中で、珍しく真面目な顔をした。
「ナンバーズのNo.2……『コピー』の子が動いてるわ。彼女、見たもの何でも真似しちゃうから。……君らの武器も、取られないようにね?」
「忠告どうも。……だが、心配ない」
俺はM4を構え、ボルトリリースを叩いた。
チャキッ、と小気味良い金属音が響く。
「俺たちの強さは武器の性能じゃない。『扱い方』だ。素人が真似したところで、自爆するのがオチさ」
「ふふっ、言うじゃない。……じゃ、期待してるわよ、番犬くん」
ルチアナはビールとコスメ、そして小切手を抱えて消滅した。
後に残されたのは、山積みの武器弾薬と、目を輝かせる部下たち。
「すげぇぞ隊長! なんだこのデカイ筒は!?」
イグニスが対物ライフルを持ち上げようとして、その重さに驚く。
「キャルル、お前にはこのM4だ。軽くて取り回しがいい。……使い方は身体に叩き込んでやる」
「はーい! これで悪い奴ら全員ハチの巣だね!」
俺はタバコに火をつけた。
紫煙の向こうで、黒い銃身が鈍く光る。
「総員、装備換装。……次は実戦形式で訓練だ。泣いても止めてやらんぞ」
T-SWATの火薬庫は満タンになった。
次なる敵、No.2がどんな能力を持っていようと、この火力でねじ伏せる。
……もっとも、そのNo.2が勝手に自滅(貧乏落ち)するとは、この時の俺はまだ知る由もなかったのだが。




