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第二章 ナンバーズとリセット

予算折衝ネゴシエーション:最強の妻たち

「……おい、嘘だろ」

T-SWAT本部(廃倉庫)の事務机で、俺は今月の給与明細を握りしめていた。

震える手で封筒の中身を確認する。

金貨20枚。

日本円にして、約20万円。

「命を張って、テロリストと戦って、手取り20万……?」

俺は天を仰いだ。

ロス市警時代の危険手当込みの給料とは比べるべくもない。

これではパチンコで二回大敗したら、残りはタローソンの廃棄弁当生活だ。

「隊長ー! 弾がないよー! 経費で買ってー!」

「俺様は腹が減った! 今夜は焼肉だ! 経費で!」

部下たちが騒いでいる。

俺は明細をポケット(赤マルと一緒)にねじ込み、立ち上がった。

「……金が要る。それも、とびきりデカい金がな」

***

「無理無理。ない袖は振れないよ」

王宮の執務室。

国王・佐藤太郎は、カップ麺(シーフード味)の残り汁にご飯を入れながら、即答した。

「ふざけるな。ナンバーズに対抗するには重火器が必要だ。Korth一丁じゃ制圧力が足りん」

「わかってるよ。でもさぁ……」

太郎は遠い目をして、窓の外を見た。

「俺、小遣い制なんだわ。しかも先月、隠れて課金したのがバレて減額されたんだ。……今の俺は、この国で一番立場が弱い」

「アンタ、一応国王だろ」

「実権を握ってるのは『奥様方』だ。……どうしても予算が欲しければ、彼女たちから分捕ってくるんだな」

太郎は「俺は知らん」と言わんばかりに、書類の裏にハンコを押して渡してきた。

『T-SWAT 予算申請書(決裁権限委譲)』。

「……いいだろう。その代わり、取れた予算の使い道には口出しさせんぞ」

***

王宮の奥、プライベートエリア。

そこは、あの汚い廃倉庫とは別世界の、絢爛豪華な空間だった。

「あら、貴方が噂の鮫島さん? 太郎ちゃんが拾ってきた『番犬』ね」

「立ちなさい。……隙だらけよ」

ソファーには、二人の美女が座っていた。

一人は、ふわふわとしたドレスを着た童顔の魔法使い、第一王妃サリー。

もう一人は、鋭い眼光と鍛え上げられた肉体を持つ剣士、第二王妃ライザ。

この国の軍事と魔法、そして財政を握る最強のツートップだ。

「単刀直入に言います。T-SWATの活動予算として、白金貨50枚(5000万円)を要求する」

俺が申請書をテーブルに叩きつけると、空間が凍りついた。

「50枚? 冗談でしょう?」

サリーが可愛らしく、しかし目の奥は笑わずに首を傾げる。

「騎士団の小隊一つが一年間活動できる額よ。たった3人の部隊に、そんな大金が必要?」

「必要だ。……敵は『ナンバーズ』。既存の魔法や剣技が通じない相手だ。対抗するには、こちらの世界の理屈ロジックではない兵器がいる」

「口だけなら何とでも言えるわ」

チャキッ。

金属音が響いた瞬間、俺の鼻先に冷たい切っ先が突きつけられていた。

ライザだ。

座っていたはずの彼女は、瞬きする間に俺の間合いに入り、名刀『天叢雲』を抜いていた。

「私がその気なら、貴方は今、首が飛んでいた。……『銃』? そんな玩具に頼る男に、大金は預けられない」

速い。

現役の騎士団長。達人級の居合使い。

「……試してみるか?」

俺はゆっくりと、ポケットに手を入れた。

「私が斬るのと、貴方が抜くの。どちらが速いか」

「いいや。……『抜かない』さ」

俺がポケットの中でピンを弾いた瞬間。

カッッッ!!!

「……っ!?」

俺のポケットの中で、閃光が炸裂した。

『超小型フラッシュバン(自作)』。

俺の太ももは多少火傷するが、至近距離で見開いていたライザの目は眩む。

「ぐっ……目くらまし!?」

ライザの剣筋がコンマ1秒ブレる。

俺はその切っ先を最小限の動きで躱し、彼女の懐に飛び込んだ。

右腕で剣を持つ手首をロック。

左手は、彼女の首筋に、隠し持っていた『Korth』の銃口を押し当てていた。

「……実戦なら、これで脳漿が飛び散ってる」

静寂。

ライザは視力を回復させながら、首筋の冷たい感触に息を呑んだ。

「……魔法でも、剣技でもない。奇策と実利……なるほど、これが『SWAT』か」

ライザは刀を引いた。

その表情には、戦士としての敬意が浮かんでいた。

「面白い。認めよう、鮫島勇護」

「ふぅ……野蛮ねぇ」

サリーがため息をつきながら、分厚い小切手帳を取り出した。

「でも、50枚は出しすぎよ。太郎ちゃんのへそくりを没収しても足りないわ」

「……太郎のへそくりか」

俺はKorthをしまい、ニヤリと笑った。

「そういえば、国王が『タロー・ブックス(本屋)』の地下倉庫に、個人的なコレクションを隠しているのを知っていますか? 地球の……『非常に教育的』な本だそうですが」

ピクリ、とサリーの眉が動いた。

「……へぇ。太郎ちゃん、まだそんな隠し事をしてたの」

「俺は口が堅い男ですが……活動資金が潤沢なら、余計な記憶も消えるかもしれません」

サリーは満面の笑みを浮かべた。背後に不動明王が見えるような笑顔で。

「わかったわ。白金貨50枚、承認サインしましょう」

「感謝します」

「その代わり……今度、その『地下倉庫』の場所、詳しく案内してちょうだいね?」

「……御意」

俺は署名された小切手を受け取り、王宮を後にした。

背後から、太郎の命運が尽きる音が聞こえた気がしたが、知ったことではない。

***

「隊長! すげぇ! 本当に金ふんだくってきた!」

「これで美味しいもの食べられる!?」

廃倉庫に戻ると、イグニスとキャルルが目を輝かせて迎えた。

「ああ、予算は確保した。……だが、これは飯代じゃない」

俺は小切手を弾き、次なる目的地を見据えた。

「行くぞ。次は『女神』との闇取引だ。……この金で、戦争ができる装備を買いに行く」

俺は安月給(20万)の明細を破り捨て、タバコに火をつけた。

懐は寒いままだが、T-SWATの火薬庫は、これから満タンになる。

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