EP 10
宴はファミレスで
「いらっしゃいませ! 『タロウキング』へようこそ! ……ひっ、T-SWAT!?」
店員の怯えた声を背に、俺たちはボックス席へと雪崩れ込んだ。
激闘の後のファミレス。
漂うハンバーグの焦げた匂いと、甘いデザートの香りが、張り詰めた神経を緩ませる。
「隊長! 勝利の宴だよね! もちろん隊長の奢りで!」
「俺様は『メガ・ティラノ・ステーキ(400g)』を5枚いくぞ!」
キャルルとイグニスがメニュー表を奪い合うように見ている。
俺はドカッとソファに腰を下ろし、やれやれと息を吐いた。
「……好きにしろ。今回は特別ボーナスも出るはずだ」
俺が水を一口飲んだ、その時だった。
「わーい! じゃあ遠慮なく呼ぶね! ……みんなー、こっちこっち!」
キャルルが入り口に向かって手を振る。
そこには、見慣れない……いや、見覚えのある顔ぶれが立っていた。
「……は?」
最初にトテトテと小走りでやってきたのは、貧乏オーラを全身から放つ美少女、リーザ。
続いて、ふわりとした足取りで、周囲の観葉植物を異常成長させながら歩くエルフ、ルナ。
そして、戦闘でドレスが破れたままのリベラも、涼しい顔で席に着こうとしている。
「キャルルちゃんから『隊長の奢りで食べ放題』って聞いたので……! ご馳走になります!」
リーザが涙目で俺の手を握りしめ、深々と頭を下げる。
「あらあら、ここがタローキング? 賑やかで素敵な場所ね。……あ、観葉植物さんが『お水欲しい』って言ってるわ(魔法を発動しかける)」
ルナが天然発言と共に、店内にジャングル化の危機をもたらす。
「ま、たまにはファミレスの食事も悪く無いですわね。……席が狭いですわよ、イグニス」
リベラが優雅に脚を組み、当然のように合流した。
「おいキャルル。……これはどういうことだ」
「えへへ、シェアハウスの友達を呼んだんです! 隊長の奢りって言ったら、みんな飛んできました!」
キャルルが悪びれもせずピースサインをする。
俺の額に冷や汗が流れた。
(……待て。計算しろ)
俺はテーブルの下で、こっそりと財布を開いた。
中に入っているのは、今月の残金と、パチンコで負けて残った小銭のみ。
太郎からのボーナスは「後日支給」だ。
(イグニスのステーキ5枚。キャルルのパフェ。リーザの飢餓状態を考えれば底なし。ルナも意外と食うだろう。そしてリベラ……)
俺の脳内で、レジの金額表示が高速でカウントアップされていく。
そして、その合計額は、俺の所持金を軽くオーバーしていた。
(安月給だ……このままでは足りない……!)
最悪の光景が脳裏をよぎる。
翌朝の『太郎新聞』の一面記事だ。
『正義の味方T-SWAT隊長、無銭飲食で現行犯逮捕!』
『食い逃げの代償は懲役刑? 国王も「遺憾の意」を表明』
(……笑えない冗談だ。元SWAT隊長が、ハンバーグ代で社会的に死ぬだと?)
俺が顔面蒼白で財布を握りしめていると、横からスッと白い手が伸びてきた。
リベラだ。
彼女は俺の財布を優しく閉じさせると、胸元から一枚のカード――ゴルド商会発行の『ブラックカード(ツケ払い証)』を取り出した。
「……鮫島隊長。顔色が優れませんわよ?」
「……いや、少し貧血気味でな」
「ふふっ。今日のところは、私が持ちますわ。……事務所を守っていただいたお礼です。経費で落としますから、お気になさらず」
リベラはウィンクしてみせた。
……後光が見えた。ルチアナよりよっぽど女神に見える。
「……悪いな。出世払いで返す」
「ええ、期待しておりますわ」
「よっしゃあ! 注文だ!」
「すみませーん! 『王様ハンバーグ』10個と、ドリンクバーと、ライス大盛りで!」
「私は『季節のフルーツパフェ・マウンテン』!」
「わ、私は……パンの耳以外なら何でも……あ、オムライス大盛りで……!」
「私は『大豆ミートのオーガニック御膳』を。あと、お水に魔力を込めて……」
テーブルの上は瞬く間に料理で埋め尽くされた。
イグニスが肉を食らい、キャルルがクリームを頬張り、リーザがオムライスを泣きながら掻き込む。
ルナがサラダバーの野菜に話しかけようとして、リベラに止められている。
カオスだ。
だが、騒がしくも温かい空気がそこにはあった。
俺は食後のコーヒーを啜りながら、窓の外を見た。
ナンバーズの幹部、No.1は倒した。
だが、組織のトップであるNo.0――ギアン・アルバードはまだ健在だ。
それに、No.2からNo.5までの能力者たちも潜んでいる。
戦いはこれから激化するだろう。
だが、今の俺には「武器」がある。
Korthだけじゃない。
この食い意地の張った、頼もしい部下たちと、奇妙な友人たちがいる。
「隊長ー! ドリンクバーの『メロンソーダ』って魔法の薬ですか!? シュワシュワします!」
リーザが興奮して話しかけてくる。
「……ただの炭酸だ。飲み過ぎると腹壊すぞ」
俺は苦笑し、最後の一口を飲み干した。
ポケットの赤マルに触れる。ここは禁煙席だ。外で一服するとしよう。
「ご馳走様でした! ……さて、帰るか」
「「「ご馳走様でしたー!!」」」
店中に響く声。
俺は席を立ち、騒がしい連中を引き連れて自動ドアをくぐった。
夜風が心地よい。
俺はライターに火をつけ、紫煙を夜空に吐き出した。
「……ま、悪くない職場だ」
タバコの煙の向こうで、ネオンサインが輝いている。
俺たちの「異世界警察24時」は、まだ始まったばかりだ。




