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星々の涙  作者: 空想の魔女
第1章 思い出の故郷編
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第7話 生き甲斐

 お通夜の夜、初めて一人で布団で眠る。

今まで布団に入るとものの数分で熟睡出来ていたのに全く眠れない。

母と父と一緒に川の字で囲まれて、人肌の温もりで安心して眠れていた。

寒くて寒くてしかたない。

恋しくて恋しくてしかたない。

陽菜は布団の中に潜り込む。「ママ、パパ、寒いよ……」

心臓がギュッと締め付けられて、布団の中で泣くしかなかった。


その泣き声に反応したのか、三郎は首輪を手足で器用に外し、陽菜の布団の中に潜り込んできた。

犬は人間の気持ちを理解することが出来ると聞いたことがある。

もしかして私が悲しんでるのを察して、慰めようとしてくれてるのかな。

三郎の体は人肌と同じように暖かく、脈打つ鼓動を聞くと心地よく感じる。

犬って吠えてばかりでうるさいだけかと思ってたけど、寄り添ってくれて少し心が救われた気がした。



 翌朝、告別式が執り行われた。

昨日と同様に皆が会場に集まり、お焼香をする。

そして、献花の時間がやってきた。花を故人が眠る棺の中へ手向け、故人への感謝や哀悼の意を表すための儀式。

父と母の眠る棺桶の蓋が開かれる。

だが父と母は布でグルグルに体中巻かれており、遺体は見えないようになっている。当然だ。焼死体で見つかって、私たちが目に当てられる状態ではない。

仕方ないのは分かる。でもこれじゃあ誰が誰だか分からない。


参列者が一人一人、故人を偲んで棺桶の中に花を捧げてゆく。

自分の番が回ってきた。また目頭が熱くなり、勝手に涙が溢れてくる。

でも今、一つ思うことがある。

父と母は溢れそうなほどのお花に包まれて、これだけ多くの見送ってくれる参列者がいる。

それは、それだけ愛してくれていた証でもある。

泣いてくれる人がいるのは、素晴らしいことなんだって。だから私はもう涙は我慢しない。泣きたいだけなく。枯れるまで流すこの涙は、父と母へ捧げる涙のブーケだから。


霊柩馬車で火葬場へと運ばれる。

父と母の入った木棺は、火葬炉へと入れられ焼かれる。

僧侶のお経と共に、煙突から白煙が立ち上る。

私たちはただ見ているしかなかった。

炎が絶え次に父と母の姿を見た時には、棺桶や花は燃え尽き、ただ骨だけが転がっていた。

人生は無常で儚いものだ。つい一昨日まで元気だった人が、今日には死んで白骨になる。

あまりに急すぎて、別れを告げることさえ出来なかった。


骨を一つ一つ足から頭の順に拾い上げ、骨壺に詰めていく。一番最後に喉仏をそっと添える。

喉仏の形が座禅を組んだ仏様の姿に似ていると言われており、無事にあの世へ旅立てるようにという願いが込められているからだそうだ。

そして近くのお寺にお墓を建て、骨壷から遺骨を真っ白な骨袋に移し、納骨室に埋葬する。

土の中で数百年にかけて徐々に分解され、人間は最後自然と土に還えってゆく。

お墓の前でこの日最後の読経とお焼香が行われる。

「この度はご愁傷様でございました。心よりご冥福をお祈り申し上げます」


全ての儀式が終わった。

あと残された者達が出来ることは、ただ安らかに眠ることを祈ることだけだ……。



 それから数日間、何を食べても美味しく感じない。

「ごちそうさまでした」

お残しはしたくないけれど、食べる気力が起きない。

とりあえず今は一人になりたい。

「あら、もういいの?」

陽菜は静かに箸を置き、直ぐさま寝室に戻る。

「あの子大丈夫かしら」

「無理もない。あの歳で両親を亡くしたんじゃ。わしがもっと早く駆けつけておれば…」

「娘も、もっとあの子の成長する姿を見たかったでしょうね」


陽菜は何かをするわけでもなく、ただ縁側で温かい太陽の日差しを浴びながら、ボーッとする日々が続いた。

火の消えた灰のように元気がない。

一日のうちに何度も、何度も、何度も、自分の言動を振り返っては、あの日々の正解を探す。

「あの時、もっと別の言葉をかけていれば」

「あんな態度は取らなければよかった」

絶え間なく押し寄せる反省の波に、心は何度も飲み込まれそうになる。

親が永遠に生きて、いつまでも自分の面倒を見てくれるわけではない。

そんなことは、心の片隅でずっと分かっていたはずだった。

けれど、「早すぎるよ……」

ただ今はまだ、この心に空いた穴を見つめることしかできない。

結局何一つ恩返し出来なかった自分を嘆くことしか。


「神様はなぜ、私だけを生かしたの……一番価値のない人間を」

毎日体は鉛のように重たく、ただ息をして生きているだけの屍のように感じる。



 夕飯の時間、祖母がある提案をする。

「お父さんとお話してたんだけど、今日からおじいちゃんとおばあちゃんと一緒に寝ましょ。三郎も一緒に。家族全員一緒に寝る方が、きっと安心してぐっすり眠れると思うんだけれど、どうかしら?」

陽菜は直ぐさま首を縦に振り承諾した。

父と母と三人で川の字で寝ていた頃のように、少しでもこの寂しい気持ちを紛らわせれるならと思った。


私以外が眠りについた真夜中、眠れなくてそっと起き上がり、なぜか台所に足が向かう。

台所に行くと、まな板の上に置いてある包丁が目に入る。特にお腹が空いているわけでもなく、料理も出来ないけれど、なぜかすごく魅了される。

だが次の瞬間、気づいたら自分の手に包丁を握り絞めていた。

瞬きの間に自分の意思とは関係なく、ここまで移動して包丁を手に取っていた。

陽菜は慌てて包丁をまな板の上に直ぐさま戻し、包丁から距離をとる。今の私は自分でも何をしでかすか分からない。

陽菜は急いで台所を後にした。


大人しく布団の中に戻ろうと寝室に向かう途中、祖父の部屋の方から何かが私を呼んでいるような気配を感じる。

足が自然とそちらに向く。だが待て。陽菜は立ち止まる。今の私は恐らくまともじゃない。 また予測不能な行動を取りかねない。

でも遠目で確認するだけなら大丈夫だろうと足を前に踏み出す。


祖父の部屋を確認すると、一本の薙刀が台座に置かれているのを見つける。

確か祖父が魔物と戦っていた時に使っていた薙刀。

それはまるで生きているかのように冷たく凛と佇み、研ぎ澄まされた刃が光を放ち輝いているように見える。

恐らく私を呼んでいたのはこの薙刀だろう。

でもなぜ私を読んだのか……。

まるで私に何かを伝えようとしている気がする。

先ほどとは違って、自分の意思で恐る恐る握ってみる。すると触れた瞬間、私の体に急に力が漲ってくる感覚がする。私に戦えと語りかけている気がした。

「私が生き残った理由………」


悲惨な状況で生きる希望を失っていた中、彼女は決死の覚悟を決める。

「今まで誰が相手だろうと、売られた勝負は買ってきた。うちに喧嘩を売ったことを後悔するだろう」

骨の髄にしみ込むほど深く怨み、受けた仕打ちに対して心の底から激しく怒る。

「家族を殺した奴らをこの手で皆殺しにしてやる。

必ず敵を打つ。死ぬのはそれからだ」

彼女は心を奮い立たせ、復讐を胸に誓うのだった。




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