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星々の涙  作者: 空想の魔女
第1章 思い出の故郷編
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第6話 夢現

 翌朝、昨夜の悲劇を夢に見てうなされる。

急に目が覚めて飛び起きると、汗びっしょりで布団の中にいた。

辺りを見渡すと知らない部屋で寝ていた。

「ここはどこ……?」

「ワンワンワン!!!」犬の鳴き声が聞こえる。

庭に首輪を付けた白い大型犬がこちらを向いて吠えている。

「三郎静かに!陽菜ちゃんが寝てるんだから」と水桶を持った老女が現れる。

その老女は陽菜が起きているのを見て驚く。「お父さん、陽菜ちゃんが目を覚ましたわよ!」

お父さんと呼ぶところからして、おそらく祖母だろう。額の上にタオルを置いて看病してくれていたようだ。

ゆっくりとした足取りで近づき、水桶を置いて布団の前で正座する。

「気絶したと聞いて心配したのよ。怪我とかしてない?寝たかったらもっと寝てもいいわよ。それともお腹空いた?ご飯にする?」と心配げな顔で問いかける。

そこに昨夜助けてくれた祖父も現れる。


もしかしたら昨日の出来事は夢で、父と母は生きているかもしれない。「ママとパパは……?」

祖父母に尋ねると皆黙り込んでしまった。

「受け入れがたいと思うが、とりあえずゆっくり休め」と祖父は言う。

祖母は気を遣って「ここはおじいちゃんとおばあちゃんのお家で、陽菜ちゃんのお家でもあるから遠慮なくくつろいでね」

やはり夢ではなかった......。


「しんどい時はとりあえず、よーく寝て、たくさんご飯を食べると良いのよ。何か食べたい物はある?」と祖母が尋ねるが、正直食欲がない。

精神的に打ちのめされて元気が出ない。

返事をする気力もなく、特に食べたい物が思いつかないので、横に首を振る。

「じゃあ何か食べやすい物を作ってくるわね」と祖父母は部屋をあとにする。


夢ではないことを突きつけられ、何も気力が起きない。母と父との思い出が頭を駆け巡る。思えば思うほど、腸がずたずたに断ち切られるほど辛く悲しくて、涙が溢れてくる。

「何で置いて行くんだよ…早すぎるよ…」

布団には水たまりが出来そうなほどの大粒の涙が、目から頬を伝い滴り落ちる。

「うわぁぁぁぁん、うわぁぁぁぁん」祖父母に心配かけたくなくて、枕に顔を埋め必死にこらえようとする。


少しして、祖母がお盆に食べ物を乗せて運んで来てくれる。

「お粥さん、一口でも良いから食べて」

お米を多めの水で柔らかく煮込んだ料理だ。

「ワン!ワン!ワン!」白い犬は気づいて欲しいと言わんばかりに吠える。

「あらごめんなさい、三郎に餌あげるの忘れてたわ!」三郎はご飯を目にすると、食欲旺盛で夢中になって食べ始める。

あそこまでの元気はないが、せっかく作ってくれたので一口お粥を口に入れる。

するとその味は、陽菜の記憶を蘇らせた。

昔風邪で寝込んでいた時によく母が作ってくれたお粥と似た味がする。鶏ガラの粉末で味付けし、小ネギと細切りしたザーサイを加えた中華風粥。

そのお粥は母を思い出させ、せっかく必死に涙を我慢していたのに、自分の意思とは関係なく自然に涙が出てくる。

鼻水をズルズルすすりながら、涙で少し塩辛くなったお粥を一粒残らず食べきるのだった。



 祖父に誘われ、実家の状態を見に向かう。

かろうじて家の形は残っているが、黒く焼けた骨組みだけが残り、屋根の瓦がはがれ落ち散らかっている。

箪笥や衣服など、ほとんどの物が焼けてしまって何も残っていない。

「ママとパパの亡骸は、朝のうちに葬儀場に運んでもらっておる。後で会えるだろう」

陽菜は何か残っていないかと必死に辺りを見渡し、瓦礫をのけて捜索し始める。

すると瓦礫の中から、小さな金庫が出て来た。

だが鍵がかかっている。鍵……

陽菜は鍵に心当たりがないか必死に思い出そうとする。

その様子を見かねた祖父は、父の最後を語る。

「如月さんは最後、頭をこちらにして倒れていた」

それは衣装箪笥が置いてあった近く。

おかしい。私が最後、父が倒れているのを見た場所とは異なる。しかも母と私がいた寝室とは真逆の方向。

父は何かをしようとしていた……。

そういえば、父の仕事鞄にいくつか鍵が付いていたはず。

陽菜は衣装箪笥のあった場所を掘り返す。

すると瓦礫の下から、金庫と同じ金属製の鍵が数本出て来た。


陽菜はその鍵一本ずつ、金庫が開かないか試していく。

するとその中の一本がカチャッと回った。

ゆっくりと蓋を開ける。

その中には、父の預金通帳と銀行印が入っていた。

そして箱の底から、数枚の写真が出て来た。

その写真は、家族3人が写った記念写真だった。

誕生日の時にケーキと共に撮った写真。

小学校の入学式の時に校門の前で撮った写真。

何もかも思い出全て、火事で焼けてしまったと思っていた。

祖父は言う。「お父さんにとって、大事な宝物だったんだろう。お父さんに感謝じゃの」

父との思い出がこみ上げてくる。いつもお小遣いをくれたり、疲れてると揉んでくれたり、照れくさくて感謝の言葉を口に出来なかった。

陽菜はその写真を胸に抱き涙ながら、父に届くように願って感謝の言葉を伝える。


「パパ、ありがとう」



 その日の夕方お通夜が行われた。

祖父母と共に喪服を着て葬儀場に向かった。

会場の前で係りの人が迎える。

「この度はご愁傷さまでした。ご親族様はこちらです」と案内される。

会場に入ると、知らない人々が黒い喪服を着て左右に参列している。そして奥に見えるのは、豪華な供花に彩られた祭壇の前に、父と母が眠る2つの棺桶が並べられている。

正直まだ実感がわかない。今にも父と母は生きていて、棺桶から起きて出てくるのではないかとも思う。

分かってる。これは悪夢ではなく現実だって。

分かっては入るけれど、ただこの現実を否定したい。

でも受け入れていくしかない。

僧侶がお経を読み、一人一人お焼香をあげていく。

故人の冥福を祈り、最後の夜を共に過ごす。


お焼香が終わると、参列者の方々とお寿司を食べる。

食べながらみんな父と母について語り始める。

「如月さんには本当に感謝しきれないほど、仕事では助けて頂きました。仕事はテキパキとこなされて、部下への面倒見も良くて、僕にとって如月さんは尊敬する上司でした」

おそらく父の仕事先の人だろう。

「覚えてる?初めて出会ったのは中学校の卓球部だったよね。」

「そうそう。如月さん、入部した時から男子を倒すぐらい強かったわよね。」

二人の女性が昔話をしている。おそらく母の友達だろう。

私はただ横耳を立てて聞いていただけだが、父と母の知らない一面を聞くことが出来た。

両親のことは何でも知っているつもりでいた。

けれど、実は何ひとつ知らなかった。両親という存在のほんの一部しか見ていなかったのだと、私は静かに悟った。





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