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星々の涙  作者: 空想の魔女
第1章 思い出の故郷編
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第5話 非業の死

 母は直ぐさま我に返り、台所に走り包丁を手に取る。

陽菜を背中で庇いながら、包丁を魔物に向けて突きつける。

「ママの後ろから絶対に離れないで!」娘は力強く母の服にしがみつく。

魔物は夫の腹に刺さった鋭い爪を引き抜き、父はその場に倒れ込む。

「あなた!!!」

こちらに近づこうとする魔物に、夫は最後の力を振り絞り魔物の足首にしがみつく。

「俺の家族に近づくな」夫は吐血しながらも身を挺して守ろうとする。

魔物は夫の無残な姿を見下ろしながら、鼻で笑いつつ手を振り解く。


魔物はこちらに振り向き、ゆっくりと近づいてくる。

真っ赤な血が魔物の手からポツンポツンと床に滴り落ちる。

「それ以上近づかないで!」

鋭い爪に付いた血を舐めながら「その恐怖に怯えた顔もたまらないねえ、奥さん」と楽しがっている。

「ほらよ」魔物が手を振り下ろすと、いとも簡単に包丁をなぎ払われる。

とりあえず魔物から距離を取ろうと、陽菜と寝室に逃げ込む。

苦し紛れにとりあえず目に入った花瓶や机、枕などを片っ端から投げつけるがビクともしない。

「そうそう、抵抗してくれないと」怯えている姿を見て楽しんでいる。


だが急に「うわーーー!!!」と魔物が悲鳴をあげる。

何が起きたのかと思えば、娘がハサミで魔物の背中を突き刺していた。

彼女なりに何とかしようと、学生鞄に入っている筆箱から武器になるハサミを取り出したのだろう。

「このクソガキ!!!!」と魔物は怒りをあらわにし、娘を殺そうと手を上げる。

その時私は考える間もなく、咄嗟に娘を守ろうと身体が動く。



 陽菜は恐怖のあまり動けない。

もうダメだと思ったその時、母が私を抱きしめるように前に飛び込んできた。

母は背中を切られ、母の重みでその場に仰向けで倒れこむ。

魔物は見下ろしながらニヤニヤと悪いながら母の背中を踏みつける。

母は激しい痛みを感じて、痛々しい喘ぎ声が漏れる。

「あはははは、これが親子の絆ってやつか。どちらかを犠牲にすれば、もう一人は逃げられたかもしれないのに。まあ仲良くあの世へ送ってやるよ」と私たちにとどめを刺そうと手を振りかざす。


「死ね」


その時だった。誰かが光の速さで目の前に現れる。

黄色がかった白い髪や髭が生え、将軍のような鎧を纏った老人はその年齢だとは思えない程の素早さで薙刀を振るう。

危機感を感じた魔物は、瞬時に距離を取る。

老人はこちらを振り向き、冷静に場の状況を判断する。

「一歩遅かったか……」

「何もんだクソじじい」

母は顔色が悪く、石のように重たい体で後ろを振り向きこう呟く。「お父さん……」

母の父、私からすると祖父が助けに来てくれたようだ。


「老いぼれは家で茶でも飲んで、大人しくしていれば良いものを。まあいい夜はまだまだ長えからな、楽しみが増えたぜ」

魔物は祖父に真っ向から勝負を仕掛ける。「バラバラに切り刻んでやるよーーー!!!」

祖父は相手の攻撃を軽々と受け止める。まるで相手の動きを読んでいるかのように。

攻撃を薙ぎ払い、隙が出来たところで胸に薙刀を振る。

魔物は危険を察し後ろへ下がる。切先が胸をかすめ、血が出ている。

その攻撃から何かに気付いたのか「お前もしや冥送術師だろ」

今まで余裕のあった笑みは消え、鬼気迫る表情を浮かべる。


「星霊術 暗黒の鉤爪」

魔物が両腕を大きく振ると、爪のような形の黒い波動が祖父に向かって飛ぶ。

祖父はその攻撃を軽々と薙ぎ払って相手の術を打ち消す。

魔物は術を発動した直後、祖父に向かって走り出した。

間髪入れずに、次の攻撃を仕掛ける。

「星霊術 歯牙粉砕」

鋭い犬歯で噛みつこうとしてくる。

祖父は相手の術が決まる前に技を繰り出す。

「冥送術 穿通のスフィア」

左から右に薙刀を振ると、無数の石の玉が鋭い速さで魔物に向かって飛んでいく。

その衝撃で、魔物もろとも縁側を突き抜け中庭に吹っ飛ぶ。

星霊は祖父の攻撃で、心臓に一撃が入り瀕死状態で倒れ込む。



 「ママ!ママ!」と孫が仰向けで倒れている娘を必死に呼びかけている。

娘の周りは血の海で大量の出血をしている。

娘に駆け寄り「おい娘よ!しっかりするんじゃ!」

顔は血の気がなくなった青白い色で、なぜか穏やかな表情をしている。娘の最後の覚悟を感じる。

娘は昔を思い出したかのように、陽菜に最後の力を振りしぼって思いを伝える。

「陽菜、あなたを妊娠した時はね、ママもパパもすごく嬉しかったのよ。あなたが来てくれたことで、何気ない毎日がキラキラして未来に希望をもたらしてくれたの。あなたは生まれる前から、ママとパパを照らす太陽のような存在だったわ。

でも出産予定日になっても、あなたは中々出てこなくて苦労したわ。そしてやっとあなたの産声を聞けた時、パパとママは涙が止まらなかった。世界で一番の宝物が私たちのところに来てくれたんだって。

あの時の喜びは、今でも昨日のことみたいに思い出せる」

娘は血が喉に絡んでむせる。手で喉元を押さえ苦しそうだが、必死に話を続ける。

「陽菜という名前は、おじいちゃんが名付けてくれたのよ。太陽のように元気で明るく、菜の花のように力強く生き生きと健康に育ってほしいという願いを込めて付けたの。だからママとパパがいなくなっても、あなたらしく自由に生きて」


「お父さん、この子をどうかよろしくお願いします」

「ああ、任せておけ」娘の最後の願いを受け止める。

「ヤダヤダヤダ!もっともっとママとパパと一緒にいたいよ!置いてかないで!」

この状況を受け入れられない孫に、娘は孫の頬に優しく手を差し伸べる。

「大丈夫。陽菜はママとパパの子供だから。

ママとパパは陽菜の側でずっと見守ってるわ。あなたが大きくなって、いつか壁にぶつかることがあっても忘れないで。あなたはこんなにも望まれて、愛されて生まれてきた存在なんだってことを。ママとパパの子に生まれてきてくれてありがとう。愛してる。心から愛してるわ」


ゆっくり目を閉じ、頬に触れていた母の手がずれ落ちる。

娘の全身の力が抜け、ピクリとも動かなくなった。

娘は息を引き取り、これが娘の最後の言葉だった。

「ママ?ママ?うそ!!??ヤダヤダヤダ!!!」

孫は娘の顔を強く抱きしめ「うああああああああ!!!!」と泣き叫ぶ。



 中庭で瀕死状態だった魔物は、吐血しながら呟く。

「いいなあ、自分を愛してくれる人がいるのって。

俺は親父には殴られ蹴られ、お袋には怒号を浴びせられ、家に帰っても俺の居場所はどこにもなかった。

毎日毎日自分の部屋で縮こまって、恐怖に怯えて生きてる感覚なんてなかった。

友達が家族と仲の良い様子を見るとすごく自分が惨めに感じて、あいつと俺は何でこんなにも違うんだろうって。

俺はただ他の子供達のように愛されたかった、愛して欲しかった……。

だから俺は幸せそうな奴らを見ると反吐が出んだよ。なぜ俺はあいつらの元に生まれたのか、何のために生きているのか。ずっとそればっかり考えてた。なぁ、俺って可哀想な子供だろ……」


魔物は顔を上げて言い放つ。

「だから最後に可哀想な俺の頼みを聞いてほしい……。俺と一緒に死んでくれ!笑」

その直後、魔物の体が赤く点滅し始める。

「やばい!!この場を離れるぞ!」危険を察知して祖父は逃げの姿勢を取り、即座に孫を抱えて外に避難する。

「イヤ!ママとパパを置いて行けない!ヤダーー!」

「はっはっはっはっはっ笑」魔物は爆発し、家が木っ端微塵に吹き飛ぶ。

その爆破の衝撃波で、祖父は咄嗟に孫の頭を手で覆い地面に転がる。


振り返ると物凄い勢いで黒煙とともに、家が炎に包まれていた。

「パパ!!!ママ!!!」陽菜は両親を助けようと炎の中に飛び込もうとする。

だが祖父が大きな腕で必死に食い止める。

家が燃えるのをただただ見ているしかなかった。

家族を目の前で殺され、家も燃やされ、何もかも全てなくなってしまった。

自分に付いた母の血を見て、ハアハアと過呼吸を起こす。

祖父は孫の異変に気づく。「大丈夫か!!??」

胸が張り裂けそうなほどのショックで、目の前が真っ暗になり気絶してしまう。

「おい、しっかりするんじゃ!!!」 


仲良く和やかな雰囲気の中で家族全員が一緒に過ごし、心温まる幸せな時間はこうもあっさりと奪われてしまった。

まるで天国から地獄へと引き摺り込まれたかのように。




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