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星々の涙  作者: 空想の魔女
第1章 思い出の故郷編
3/12

第3話 幸せな日常

 「起立・礼・ありがとうございました」

夕暮れ時の徐々に辺りが薄暗くなってきた頃、カーカーと烏の鳴き声が響き渡る。

「じゃあな!明日は俺が勝つ!」「望むところや!」

2人とも勉強は苦手だが、スポーツは得意なのだ。

その頭脳を是非とも勉強に活かしてほしいのだが。

「やっぱり陽菜って運動神経いいよね。私なんて逃げるのに精一杯だもん」

「そうか?ただ負けず嫌いなだけだよ」褒めてくれて嬉しいがつい照れ隠ししてしまう。


下校中、通りすがりの人たちが瓦版の前で立ち止まっている。

何かあったのだろうかと思い覗いて見みると、一枚のチラシが貼られていた。

1枚の住宅の焼跡写真とともに、この近隣で火災があったという内容が記述されていた。

「昨日の夜、町内で火事があったんですって。しかも死人も出てるとか」

「夏は空気が乾燥するから、ちゃんと火の元確認してから寝ないとね」とご婦人方が話をしている。

凪紗も興味深く記事を読んでいる。だが正直私には関係のないことだ。

火を使うこともないし、万が一火事があっても逃げられるだろう。

父の読む新聞を読んだことがあるが、文章が難しくてよく分からないし、知らなくても生きていける。



 「陽菜また明日ね!」「また明日!」と陽菜の家の前で別れる。

「ただいま〜」と下駄を乱雑に脱ぎ捨て玄関に上がる。

家に帰ると直さま居間に直行し、急に疲れが押し寄せて畳の上に寝転がる。

「おかえり。もうまたそんなに服を汚して。とりあえず帰ってきたら手洗いうがいをしなさい!」母に言われるのは分かっているのだが、さっきまでの元気はどこへやらと思うほど何もやる気が起きない。


「ただいま!」ちょうど父も仕事から帰宅する。

父が居間に入ってきて陽菜を見つけると「お、ひーちゃん今日も元気にしてたか?」と話しかける。

「当たり前やん!」と陽菜は答え、毎日同じ台詞のやりとりをする。朝の気怠さとは比べ者にならないぐらいハキハキと喋る。


待ちに待った夕食の時間。

「夜ご飯出来たわよ!熱いうちに食べちゃって!」

陽菜は、熱すぎるより少し冷めてから食べる方が好きなのだが、催促されるので仕方なく冷ましながら食べる。

今日の夕食は、黄金色に輝く衣が特徴の天ぷらだ。

海老や舞茸、さつま芋、玉ねぎ、どれも大好物の食材。

まずはお塩で衣のサクサク感と、本来の素材の味を楽しむ。

また、天つゆに浸して大根おろしと一緒にサッパリと味変しながら食べるのも美味しい。

うちの父は食べ物の好き嫌いが激しく、嫌いなものは陽菜のお皿に移してくる。まあ美味しいものが2倍食べれるのでありがたく頂く。


お腹いっぱいになって眠気が急に押し寄せてくる。あくびが止まらない。母は眠たそうな陽菜を見て、「こら!寝る前にお風呂に入りなさい」と催促する。

なかなか動こうとしないので「ほな一緒に入ろ。ママが髪の毛洗ってあげるから」その言葉を待ってましたと言わんばかりにやる気がこみ上げる。



 洗面所で袴を脱ぎ、洗濯籠にぶち込みお風呂に入る。

両親は熱めのお風呂を好むが、陽菜にとっては熱すぎて一気に入れたものではない。ゆっくりと足先から入り、体を慣らしながら徐々に徐々に肩まで浸かる。母も入ると、お風呂のお湯がブワッと一気に零れ落ちる。

陽菜はお風呂に入るとつい唇をブルブルと震わせて、泡を作って遊びたくなる。「こら、お風呂で遊んじゃダメでしょ!」と叱られる。


ある程度体が暖まったら、母と一緒に体を洗う。

母が後ろから私の髪の毛を洗ってくれる。髪の毛が多くて2・3回洗わないと汚れが落ちない。たまに力が強くて痛いが、洗ってくれるだけありがたいので我慢する。

お返しに背中を洗ってあげる。背中が赤くなるぐらい擦りあげる。自分では調節出来ても他人への力加減は分からないものだ。

最後にもう一度軽く湯船に浸かる。

手と手を組み、手の隙間から母の顔に向けてお湯を飛ばす。「やったなぁ。笑」と倍のお湯の量で返り討ちにされる。


母がお風呂掃除を終えて出て来た時に、髪の毛用と体用でタオル2枚使っていると、洗濯物が増えると叱られる。でもタオル1枚じゃ髪の毛拭くだけで精一杯なので、どうしても足りなく感じて使ってしまう。寝間着に着替え、母に濡れた髪をタオルで乾かしてもらう。自分で拭くよりもヘッドマッサージされてるようで気持ちいい。



 お風呂から上がり寝室に向かうと、先にお風呂から上がった父が布団の上で横になって本を読んでいる。

娘が来たと分かるといつも「ひーちゃん揉んでーー」と足をバタバタしておねだりしてくる。

「えーーどうしよっかなぁ」

「神様仏様陽菜様、揉んでくれないとパパ死んじゃうよ」都合の良い時だけ持ち上げるのだ。

「交代ありなら良いよ。笑」と駆け引きを持ちかける。

「かしこまりました!お嬢様!」一人娘に甘い父である。


もみもみ、もみもみ、もみもみ……

父の本業はカレンダーを作る仕事なのだが、会社が休みの日は整体師として副業しているのだ。

陽菜のこってる箇所をピンポイントに、ちょうど良い力加減で揉みほぐしてくる。それがすごく痛気持ちよくて、思わず声が漏れてしまう。

せっかくお風呂に入って目が覚めたのに、これでは寝なさいと言っているようなものだ。

頭からつま先にかけて揉みほぐされたあと、交代して陽菜は父の体の上に跨って揉んであげる。

さっきの気持ちよさで頭がぼおっとしてきて、どんどん力が入らなくなっていく。


「陽菜、寝る前に宿題しなさいよ!」と母が寝室の襖を開けると、父の背中の上で寝ている。

父の体温が心地よく、親亀と小亀のように寝落ちしてしまった。

「分かってるよー」と寝言で返事をする。

寝る子は育つという言葉があるように、彼女はよく眠る。

ほんとしょうがない子だ。


毎日寝室に敷布団を2枚引き、父と母娘で三人川の字で寝る。陽菜は父と母の間で、母と同じ敷布団に入る。

陽菜は母の手をお腹の上に乗せ、足をくっつけて眠るのがクセで、安心するのかものの数分で寝落ちする。父はよく右手を伸ばし、陽菜の頭を優しくポンポンとする。

そんな感じで家族仲良く一つ屋根の下で暮らしている。


だが世間が寝静まる真夜中の24時、平穏でのどかな日々を暮らしていたこの家族にこの後、災が降りかかるとは誰も想像していなかった。

昼間あんだけ鳴いていた蝉も、夜は人間と同じく眠っているのか、もしくは息絶えてしまったのか……

家族全員で一緒に過ごせる心温まる幸せな時間はそう長くは続かなかった。

純粋で素直な心を持つこの少女に思いがけない悲劇が訪れる。



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