表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】“火花”しか出せない最弱魔法使いだった俺が、世界の魔法構造をぶっ壊して魔王と呼ばれることになった!  作者: なみゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/2

後編

 どこか遠くで、鐘が鳴り、割れたガラスの音がした。

そのたびに、ユウの心臓が一度だけ強く打つ――終わりの始まりだ。



学園の中庭には、教師と生徒、そして魔法監察官たちが集められていた。

ざわめきが渦を巻き、誰もが恐怖と好奇の混ざった目で、ただ一人の少年を見ていた。



ーユウ・アステル。

かつて「最弱スキルの火花(スパーク)」と嘲られた少年。 今、その掌に揺れる光は、誰の魔法よりも静かで、誰の心よりも眩しかった。




「ユウ・アステル!!!」


老いた声が響く。


学園長――魔法至上主義を象徴する存在。

長い外套を翻し、杖の先に黒い光を集めながら、彼は叫んだ。




「お前は秩序を乱した! 禁忌を犯し、世界の理に逆らった異端者だ!  ――この学園(ルミナリア)の最高責任者の名の下に、処刑を宣告する!」



群衆の間に走るどよめき。

ユウはただ、目を細めた。

恐怖はなかった。

もう、あの教室で嗤われていた頃の自分はいない。


代わりにあるのは――ひとつの確信だけ。


掌の“火花”がふっと瞬く。

それは怒りの熱ではなく、冷たい意志の光だった。



次の瞬間、世界が“書き換わった。

何の予兆もなく、空気の層が震える。

魔力の流れが逆転し、学園の中心にある巨大な魔法陣が、音もなく崩壊した。光が走り、風が止まる。



学園長が杖を掲げ、魔法を発動しようとした―― だが、火花すら出ない。



目を見開き、もう一度、魔力を練る。

……それでも、何も起きなかった。


その場にいた誰もが気づく。

炎も、氷も、風も、雷も

―― すべての魔法が、消えた。


高位魔法使いの手から力が抜け落ち、 貴族たちの護符はただの石と化し、 教師たちは震える指先を見つめるしかなかった。


世界の根本、「魔力の序列」という概念が、音を立てて崩れ去っていく。



ユウは、ゆっくりと息を吸った。

胸の奥の火花が、静かに脈動している。


「……終わりじゃない」


彼の声は、小さかったが、力強かった。



「お前たちが信じていた“序列”は、もう存在しない。  誰かを見下すための魔法なら、そんなもの、いらない」



学園長が膝をつく。

長年の威厳も、名誉も、ただの影のように崩れ落ちた。

唇が震え、彼は掠れた声で問う。



「……貴様は、何者だ……?」



ユウは振り返らず言った。


「落ちこぼれだよ――けどな、魔法のスキルのみで序列を作ってきたお前たちこそ、本当の落ちこぼれだ」




その言葉とともに、火花が舞う。

白い光が空を裂き、学園の塔がゆっくりと崩れ落ちていく。

瓦礫の中で、ユウは立ち尽くした。

背後では、混乱と絶望が渦を巻いている。

けれどその目の先には、まだ見ぬ遠い空があった。


――世界の外側に、 誰も見たことのない、新しい“始まり”が待っている気がした。




 * **


 夜の砂漠を、ひとつの影が歩いていた。

風が吹くたびに、砂が細く鳴る。

ユウの足跡だけが、まっすぐに月光を裂いて伸びていた。

学園を離れてから、どれほどの時が過ぎたのか。


リゼと別れた夜の光景だけが、まだ胸の奥で燃えていた。



世界は静かに、そして確実に動き始めていた。


“魔法の秩序”が崩れたという噂は、瞬く間に各国へと広がり、 魔法評議会も王国連盟も、ひとりの少年の名を口にするようになった――ユウ・アステル。



“序列を壊した落ちこぼれ”。


そして今や、“世界を壊す異端”。




彼を止めるため、世界は武装した。

魔法師団が集い、神殿の巫女が祈りを紡ぎ、 王国の塔には封印の光が灯る。

大陸中の魔法が、ひとつの敵に向けられたのは、歴史上初めてのことだった。



だが、それでもー彼の掌に弾けた“火花”は、すべてを無に帰した。

燃えたのではない。

消えたのでもない


――ただ、“意味”が失われた。



光は形を変え、空間の式が乱れ、 魔法は、発動する前にその存在理由を失っていく。

ユウの声が、空気を通して響いた。

誰に語るでもなく、世界そのものに向かって。



「“火花(スパーク)”は、始まりの信号だ――終わりすら、燃やせる」



彼の背後で、討伐軍の魔導士たちが倒れていく。

彼らの魔力は散り、空に吸い込まれるように消えていった。




そして、静寂が訪れ、ユウは空を見上げる。

青でも、黒でもない。 ただ、どこまでも透き通った“始まりの色”。


「魔法は、誰のものでもない」




その言葉が放たれた瞬間

――世界の魔法構造(アーカイブ・コード)が書き換えられた。

王の魔法も、聖女の祈りも、貴族の血統も。 それらを支配してきた“差”という概念が、音もなく消滅する。


人々の中に、微かな光が宿る。

子どもも、兵士も、老人も――誰もが、自分の掌に小さな“火花”を見た。

それは、ユウが世界に与えた“平等の魔法”。




翌朝、各国の王城では、ひとりの少年の名が祈りと恐怖の両方で呼ばれていた。

人々は跪き、 彼を“再構築の魔王”と呼んだ。



だが、ユウは笑わなかった。

彼の瞳の奥には、まだ静かな痛みがあった。

壊すことしか選べなかった日々の記憶。

そして、それでも救いたいと思った誰かの笑顔。


風が頬を撫でる。ユウは掌を見つめた。

そこには、まだひとつだけ火花が残っていた。



「……これが、俺が作った世界か」



呟いた声は風に溶け、 遠い地平線の向こうで、新しい朝が生まれていた。

誰のためでもなく、誰かの自由のために――。




 * **


 世界を包むように、雪が降り、音のない白が舞っていた。

炎も、戦いの痕も、すべてを覆い隠すように。ユウは静かに歩いていた。 足跡の先に、小さな丘がある。

その上で、ひとりの少女が待っていた。

銀の髪を風に流し、淡い青のコートを羽織ったリゼ・クラウディア。

彼女は、初めて出会ったあの日と同じ瞳の色だが、その奥にある光は―― 悲しみと、決意の色を帯びていた。



雪の中、二人はただ見つめ合った。


「来たのね」


「……止めに来たのか?」


「ええ」



リゼは息を白く吐き、歩み寄った。

その足跡が、ユウの前で止まる。



「あなたの“火花”、世界を壊すほどの力を持っている。  でも――」



彼女はそっと、ユウの胸に手を当てた。


「そこにあったのは、怒りじゃない。 痛みでしょう?」



ユウは何も言わなかった。

けれど、心の奥で何かが軋んだ。

かつて嘲られた日々。

誰にも届かない声。

小さな火花を笑われ、見下され、押し殺してきた時間。世界を焼き尽くしたのは、憎しみではなかった。


――それでもなお、“救いたい”と願った心の残り火だった。




「………リゼ…」


「なに?」


「俺は、ようやくわかったんだ」



ユウは空を見上げる。

灰と白が混じる空に、かすかに金の光が差していた。



「世界を焼き払うことが、終わりじゃない。  それは、もう一度“始める”ことなんだ」



リゼの瞳が揺れる。

それは涙ではなく、雪の反射だった。



「お前の言った通りだ。  “火花”は、壊すためじゃない。  ――救うための光だった」


ユウは手を伸ばした。

その掌の中に、いつもの小さな火花が灯る。けれど今、その光は穏やかで、温かかった。



リゼはその手を取る。

二人の指先のあいだから、ゆっくりと光が広がっていった。


雪が止む。 空の雲が裂け、陽が差す。 世界が――再び、息をした。



「行こう、リゼ」


「どこへ?」


「新しい世界へ」


彼女は微笑む。


「ふふ、ずいぶん大きく出たわね」


「俺たちが壊したんだ。 なら、築き直すのも俺たちの役目だろ」



火花が、ふわりと舞う。


それはもう、破壊の兆しではなかった。

新しい魔法の、最初の“始まり”の光。

二人は手を取り合い、歩き出す。



雪の大地を越えて、まだ誰も知らない“未来”へ。

その足跡の後ろで、世界がゆっくりと形を変えていった。



かつての序列も、嘲笑も、力の差も

―― すべてが溶けていくように

お読みいただきありがとうございます。

よろしければ、下の☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ