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【完結】“火花”しか出せない最弱魔法使いだった俺が、世界の魔法構造をぶっ壊して魔王と呼ばれることになった!  作者: なみゆき


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前編

ゆるふあ設定です。


 魔法学園ルミナリアに入学したユウ・アステルは、期待という名の重荷を背負っていた。

――だって、誰だって、魔法使いになりたかったから。

ぼんやりとだけれど、自分も「すごい魔法」が使えるようになるんだって、信じていた。


入学式の日、桜が舞っていた。 ひらひらと舞い降りる花びらが、校門の前でユウの肩にそっと落ちた。



(ああ、これが“新しい俺の世界”の始まりなんだ)そんなふうに思った。


だけど、魔力適性検査

――あの日の、あの瞬間。 手のひらを開いて、魔力測定器の前に立ったとき、 「火花(スパーク)」という言葉が、まるで告知のように提示された。


つまりは最弱

――魔力序列の最底辺を指していた。



みんなが剣を振り、空を裂き、炎を呼び、氷を踊らせているとき、 ユウの掌から出たのは――ただ、ほんの小さな“火花”だった。


「お前、まだそんな原始魔法使ってんの?」

「せいぜいロウソクでも灯してろよ、スパークくん!」



教室に笑い声が波紋のように広がった。 その音は、ユウの心を海の底へと引きずり下ろした。

教師も冷ややかだった。 指名もされず、視線は彼をただの“存在しない者”として扱った。


魔力の強い者こそ価値がある。

――それが、この学園のルールだった。



でも、ユウは知っていた。

――あの小さな火花が、唯一の証だった。測定器の魔法陣が、一瞬だけノイズを帯びたこと。 誰も見ていなくても、ひそやかに何かが震えたこと。


その瞬間を、ユウだけが感じていた。なにひとつ変わらないふりをして、ユウは教室の隅に腰掛けた。

黒板の文字が、ぼんやりと溶けていくように見えた。


(俺は……何のために、ここにいるんだろう)



拳をぎゅっと握る。 掌の中で、また“火花”が揺れた。まるで、“落ちこぼれ”という烙印の奥底に封印された、 静かな革命の灯火のようにそして、桜の季節は終わった。




 * **


 ユウ・アステルの名前を、誰も呼ばなかった。 呼ばれるとしても、それは“スパークくん”というあだ名

―― 嘲りの響きを含んだ、軽やかで重たい音だった。



授業が終わったあと、誰もいない講義室に残って、 ユウは自分の机に座っていた。外では夕陽が傾き、ガラス窓に赤い光が差し込んでいる。 その光の中で、ユウの掌の“火花”が、小さく弾けた。 


ぱちり、と。


小さな音がして、すぐに消える。 それは、誰にも届かない心臓の鼓動のようだった。


(これが、俺の限界なのか……)

肩の奥に、疲労が沈み込んでいく。 言葉にできない寂しさが、胸の奥にじんわりと広がっていった。



「――それ、きれいね」声がした。


顔を上げると、教室の入り口に一人の少女が立っていた。 淡い銀色の髪が夕陽に照らされて、 まるで光を編んでいるみたいに、静かに揺れていた。



「……君は?」


「リゼ・クラウディア。二年生。あなた、ユウ・アステルくんでしょ?」


彼女の声は不思議だった。 柔らかいのに、どこか古い時代の風のような響きを持っていた。


「“火花(スパーク)”って、言ってたよね。測定のとき」


「俺を……笑いに来たのか?」


「違うよ。あれ、見えたの。――“始まりの光”が」



この学園に来てから、「理解される」という言葉を忘れていた。

けれど、リゼの瞳には、あのときと同じ揺らぎがあった。 世界が、ほんの少しだけ息を呑む瞬間のような。



「始まりの光?」


「うん。“火花”はね、燃やすための魔法じゃない。  世界の“式”に触れるための合図……そう、呼び水みたいなもの」



彼女は窓辺に歩み寄り、掌を広げた。 そこに淡い青い光が集まる。

ふわり、と花びらのような魔法陣が浮かび、 空気そのものが、柔らかく震えた。



「古代魔法《起源詠唱(オリジン)》――  わたしの一族は、魔法が“言葉”だった時代の名残を継いでるの」


リゼは少し笑って、ユウの手を見た。


「あなたの“火花”、私には見える。  まだ“始まってすらいない魔法”だけど」



ぱち、と再び光が弾ける。

ユウの指先で、今度は少しだけ長く残った。



「……始まって、いない?」


「そう。――だから、これから始まるの」



その言葉に、胸の奥で何かがほどける音がした。

夕陽が落ち、教室が夜に沈んでいく。 二人の間だけが、静かに、火のように灯っていた。

その夜、ユウは夢を見た。 果てしない闇の中で、一粒の火花が空を焦がしていく夢だった。

 


 * **


 夜の学園は、息を潜めたように静かだった。 廊下に並ぶランプが青白く灯り、ガラス窓には月の輪郭が淡く映っている。ユウとリゼは、音を立てぬように地下への階段を降りていた。 石造りの通路はひんやりとしていて、ふたりの足音だけが時間の底を打つように響いていた。



その先にあるのは、誰も近づかない禁書庫――《地下図書館》



「ここ、本当に入っていいのか……?」


「いいわけないじゃない」



リゼは囁くように言った。 けれどその声には、どこか凛とした強さがあった。



「でも、“知ること”を恐れたら、あなたの世界はいつまでも変わらない」



その背中を見つめながら、ユウは胸の奥に息を詰めた。 彼女の銀の髪が、月の光を受けて揺れている。 その光を追いかけるように、ユウもまた、一歩を踏み出した。



* *

地下図書館の扉は、重かった。 古びた封印の魔法陣が淡く脈動し、まるでふたりを拒むように静かに光を放っていた。ユウが手を伸ばす。 その瞬間、掌から火花がぱちりと散った。


「……待って。その光……たぶん、扉が反応してる」 


リゼが小さく息を呑む。


彼女の言葉と同時に、魔法陣の紋様が崩れ落ちるように光を放ち、封印が解けていく。

重厚な扉が、静かに開いた。 ――まるで、“主”の帰還を待っていたかのように。



* *

無数の書架。 積み重ねられた書物の山。 空気は乾いていて、時間の匂いがした。リゼが足を止める。 奥の棚に、一冊だけ異様な存在感を放つ本があった。黒い革装丁に、金の刻印。 その表紙には、たった一行――|《起点の記録》《オリジンレコード》


「これが……?」


「ええ。伝承にある、“世界の最初の魔導書”よ」


リゼの声が、かすかに震えていた。


ユウはそっと本を開いた。

ページの中から、風が吹いた。 光が散り、文字が浮かび上がる。それは、人の言葉ではなかった。 世界そのものの“声”だった――“火花”とは、燃やすためではなく、書き換えるための信号。

その瞬間、ユウの頭の中に、無数の映像が流れ込んできた。空が生まれる瞬間。 海が呼吸する瞬間。 星が燃える瞬間。


“始まり”のすべてが、彼の中に注ぎ込まれていく。


手のひらが、熱い。 “火花”が、言葉を得て、形を変えた。小さな光が、やがて炎の輪となり、 そして――世界の法則そのものを縫い直していく。



遠くで、リゼの声が聞こえた。


「……ユウ、あなた……“起点魔法(リライト)”を……!」



ユウは目を閉じた。

光の中で、確かに何かが目を覚ました。

それは、存在、空間、時間

―― すべてを再構築できる、神々が恐れた禁忌の力。

けれど、不思議と恐怖はなかった。 ただ、なぜか確信があった。



ユウは、ゆっくりと呟いた。


「最弱? ……違う。俺は、“始まり”だ」




その声に呼応するように、古い魔導書のページが、 火花とともにひとりでに燃え上がり、夜の地下を照らした。



 * **


 昼下がりの学園は、噂と熱気で重く垂れこめていた。 廊下の向こうで誰かが笑い、誰かが囁き、誰かが足を早める。

教室の空気はすでに割れ目を作っていて、 ユウが座っている席だけが、まるで別の季節のように冷えていた。



ゼノ・グラハムは―― 完璧に磨かれた笑顔と、誰もが従うべきだと教わった自信を纏っていた。

彼の言葉はナイフのように軽やかで、狙いを定めると必ず刺さる。



「スパークくん、今日も火遊びでもしてるのか?」



彼の仲間たちの笑いが、校舎の石壁に反射して広がる。

リゼが間に入ったのは、いつものように無言の反射だった。

細い肩を少しだけ前に出して、ゼノの前に立つ。


彼女の瞳は静かだが、その奥にある意志は強かった。


「やめて、ゼノ」



言葉は軽い。

けれど、含んだ力は重かった。

いつもなら、それだけで済むはずだった。 だが、今日は違った。



ゼノは嗤った。


「ほら、リゼに守ってもらって満足か?  この学園は強い者が上だ。俺らみたいな――」




その言葉が刃となり、ユウの頭の中で、何かが切れた。

それは静かな爆発だった。


長く、締めつけられた時間の末に、ようやく発火したもの。

小さな音がして、リゼの表情が一瞬だけ歪んだ。




胸の奥に溜めていた言葉たち。

屈辱、孤独、夜ごと握りしめた掌の小さな火花。

すべてが、言葉にならずに膨らんだ。掌に、ただ一つだけ意識が集まる。



ぱちり、と火花(スパーク)だ。



いつもと同じ、指先で弾けるあの小さな光。だが今は、光の輪郭が、空間の縫い目を探るように走り、空気を裂いていく。

風の匂いが変わり、時間が薄くなる感覚がユウを包む。



彼は誰に説明するでもなく、ただ一言だけ呟いた。


「二度と――俺の前に現れるな」




それだけでいい。

命令でも祈りでもなく、ただ届いてほしいと願う、静かな声だった。



次の瞬間、ゼノの足元に黒い紋章が現れた。 紋様は渦を描き、影を編み上げていく。

ゼノの足は宙に浮き、仲間の驚愕の声が鋭く弾ける。 彼の顔が青ざめ、笑みが引き剥がれていった。



「な、なんだこれっ――!」



闇が彼を包み、光を吸い取っていく。


その中に落ちるというよりも、別の場所へと“転写”されるように、 ゼノは裂けるように消えた。ただ一つ残ったのは、空いた空間の痕跡と、蒼白な静けさだけだった。

教室が凍りつく。教師たちの顔色がみるみるうちに変わり、 呪文を紡ごうとする手が震える。

だが不思議なことに、ユウの周囲だけ、彼らの魔法は届かなかった。

指先から漏れる火花が、空気そのものを書き換え、 外側からの干渉を拒絶しているかのようだった。



「どういう――!」



叫び声を上げる教師。

だが、その言葉は空回る。

魔法陣は白熱し、学園の結界がぎしりと歪む。

古びた石造りが軋み、塔の鐘が遠くで鳴った。


ユウは、ゆっくりと立ち上がる。



胸の中の熱は冷めていない。

けれど、指先の火花はもう怒りそのものではなく、澄んだ光だった。

周囲の目は、恐怖と興奮が混じる。

誰も彼を殴ることはできない。

誰も彼を止めることはできない。



「“火花(スパーク)”で十分だ」



声は冷たく、けれどどこか寂しさを含んでいた。



「燃やすのは、お前らの悪意だ」



その言葉が、教室の石壁に反射して、まるで脈打つように響いた。


ユウは掌を下ろす。

火花は静かに消えていった。

けれど、残されたものは消えない。



秩序の歪み。

序列という殻。

嘲笑は、剥がれ落ちた。

ユウの掌で跳ねた、あの小さな光が

―― ただの劣等の証ではなく、世界の縫い目を暴いた“合図”だった。

お読みいただきありがとうございます。

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