お勉強
ガチの勉強会です。自己満ですが少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
放課後の教室。
机を片付けていた俺のところに、蓮と綾がやってきた。
「なあ蒼真、今度の英語の小テストやばいんだけど。一緒に勉強しね?」
蓮がぼやき声で言う。まあこいつの言葉は半分本気で半分遊びだ。
「お前、いつもやばいって言ってるだろ」
「いや今回はマジで」
両手を合わせて頭を下げる蓮に、俺はため息をついた。
「……わかったよ。綾、お前もだろ?」
「えへへ〜それなんだけど...」
そこで綾がぱっと笑顔を見せた。
「わたし――」
綾はちらっと教室の隅に視線を送る。
そこには、いつものように静かに本を開いている神凪結衣の姿。
「神凪さんも誘いたいんだよねー。神凪さん頭いいんでしょ?蒼真一人だけじゃ教えるの大変でしょ」
「……は?」
「だって私知ってるよ?最近蒼真と神凪さん仲良さそうだもん」
わざとらしく言う綾の声に、俺は思わず眉をひそめた。
別に隠しているつもりはなかったし、やましいことなんて何もない....わけではないか。
綾がぱっと顔を輝かせて言った。
「神凪さんも一緒にどう? 四人で勉強会しよ!」
透き通るような青い瞳が、静かに俺たちに向けられる。
「……勉強会?」
「うん! 一緒にやろ?」
その声に、教室の隅で本を読んでいた神凪が顔を上げる。
ページの上から覗く青い瞳が、俺たちをじっと見ていた。
「お願い!英語の小テストあるし、みんなでやった方が絶対楽しいよ!」
「……でも、わたしは別に……」
神凪は視線を伏せ、ページに指を滑らせる。
あからさまに断ろうとしている空気が漂った。
けれど綾は一歩も引かない。
「ねっ! 神凪さんが来てくれたら心強いし!....ていうか、神凪さん肌白っ!!ノーメイクだよね!それでこんなに綺麗なの!?」
太陽みたいにまっすぐな笑顔。
その勢いに、普段なら決して表情を崩さない神凪が、一瞬だけ目を泳がせる。
「…………ふぅ」
小さく息を吐いてから、仕方なさそうに本を閉じた。
「……まあ予定はなかったし、いいわ。勉強会しましょう」
この女まんざらでもない顔である。
「やったぁ!」
*
土曜日の午後、俺たちは綾の家へ向かった。
住宅街の一角にある二階建ての一軒家。明るい外壁に花の咲く庭先が、いかにも「綾らしい家」という印象を与える。
「ここだよー!」
綾が門を開けて先に駆け込む。
蓮と俺、そして神凪もその後に続いた。
インターホンを押す間もなく、玄関の扉がガチャリと開く。
顔を出したのは小学生くらいの女の子だった。
大きな瞳にツインテール。綾とそっくりだが、一番似ているのはその眩しい笑顔だ。
「おかえり、おねーちゃん!」
「ただいま、月菜! ほら、友だち連れてきたよ」
綾が楽しげに言うと、月菜は目を輝かせて俺に向かって抱きついてきた。
「蒼真くん、ひさしぶり!」
「うん、ひさしぶり、月菜ちゃん」
「おーい月菜、俺には?」
「蓮はヤ!」
思わず俺と蓮が笑い合う。 どうやらこの子は大好きなお姉ちゃんを取られたのが気に食わないそうだ。
綾の家に来るのは久しぶりだ。中学受験の前には鬼のように3人で籠って勉強してたっけ。まあほぼ放っておくとすぐ逃げ出す2人の監視のために来ていたようなものだけど。
そして――神凪の姿を見た瞬間、月菜の目がさらに輝いた。
「……わぁっ! すっごくきれいなお姉ちゃん!」
玄関先での直撃に、神凪は思わず一歩下がる。
「え、あ……その……ありがとう?」
珍しく言葉に詰まりながらも、柔らかい笑みを浮かべる神凪。
その表情を見た瞬間、胸の奥が不意に跳ねた。
――初めて一緒に下校したときのあの顔によく似ている。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんも遊んでくれる? 本読むの好き? 月菜も大好き! 今日もね、先生にちゃんと読んでて偉いって言われたんだ!」
無邪気に詰め寄る妹に、神凪は困ったように俺と綾を交互に見た。
だがすぐに膝を折り、目線を合わせる。
「……ええ。本は好きよ。あとで少しだけなら、一緒に遊びましょう」
その声色は、普段の上品さに加えて、どこか母性めいた優しさを帯びていた。
思わず口元が緩みそうになり、慌てて視線を逸らす。
「……なに? 橘くん、笑ってる?」
「い、いや。別に」
「さ、こっちこっち!」
綾が先導して階段を上がっていく。俺たちはその後ろについて二階へ。
案内されたのは、明るい色合いでまとめられた綾の部屋だった。
壁際には小さな本棚とぬいぐるみ。窓際の机の上にはカラフルな文房具が散らばっていて、ベッドカバーも元気な花柄。
――まさに綾らしい部屋だ。
年頃の男子が同級生の女子の部屋に上がるのは、なんとなく妙にいかがわしい響きがある。
だが俺にとって綾は親友のような存在で、しかも蓮の彼女である。そういう気持ちは一切湧いてこない。
「お、おじゃまします……」
神凪が小さく呟きながら部屋を見回す。その表情には、少し緊張がにじんでいた。
「どう?かわいいでしょ、私の部屋!」
胸を張る綾に、神凪はほんの一拍置いて答える。
「……ええ、とても……賑やかね」
「それ褒めてないよね!?」
「ち、違うの。ただ……私の部屋と全然違うから。とても可愛らしいと思うわ」
神凪の頬が、わずかに赤く染まっていた。
「じゃあ、始めよっか!」
綾が机の上にノートや参考書を広げる。蓮も渋々席につき、俺と神凪もその向かいに腰を下ろした。
「……さてと。まずは英単語から確認しましょうか」
神凪が参考書をめくりながら、冷静な声で言う。
「え〜単語かぁ……」
「出るってわかってるのに、覚えてないの?」
「お、おぅ……」
神凪の冷ややかな視線に、蓮は小さく肩をすくめた。
今度実施される小テストだが、中身はそこまで難しくない。授業で習った新出単語と、学校で配られたワークの文法問題だけだ。対策をすれば満点など容易い.....はずだけど。
*
かれこれ20分ぐらいである。単語は反復作業だ。分からないところを潰す、その作業の繰り返しだけで単語は定着する。
「じゃあ次は文法ね。今回の範囲は関係代名詞だけどまずは主格をやりましょう」
神凪がホワイトボード代わりに綾のノートを使って、さらさらとペンを走らせる。
「……関係代名詞?」
「聞いたことあるような?」
神凪はため息をついた。
「....じゃあこの例文を見て」
I have a friend. She sings well.
「名詞を説明するときに関係代名詞を置いて文同士を繋げるの。この文で言えば名詞はfriendね。ちなみにこの説明される名詞は先行詞というから覚えておいて」
「う、うん」
「....なるほど?」
分かっているのかどうか曖昧な返事である。
「関係代名詞の後には代名詞が抜けた形になる。代名詞はさすがに分かるわよね?」
「お、おう」
「sheとかheとかでしょ?」
「本当に大丈夫なのかしら...」
大丈夫ではない。それだけは確実に分かる。
「じゃあ、代名詞を抜いてつなげると――」
神凪はノートにさらさらと書き加えた。
I have a friend who sings well.
「……はい、これで完成。簡単でしょう?」
「……え、もう終わり?」
「う、うん……でも、なんで“who”なの?」
綾と蓮が同時に首をかしげる。
その顔は「分からない」というより「まだ説明されてないのに終わった感」だ。
「……なぜって、先行詞が人だからに決まっているじゃない?関係代名詞が主語の代わりになるのよ?」
神凪は当然のように答えた。
「……」
「……」
理解できない二人と、なぜ理解できないのか理解できていない神凪。
この時点で早くも食い違っている。
「……えっと……つまり“who”って、ただの“she”の言い換えってこと?」
蓮が恐る恐る口にする。
「言い換えじゃなくていわば“結合のための接着剤”よ。文と文を一つにまとめる役割をしているの」
神凪は即答するが――
「接着剤……?」
「のり?」
綾と蓮の声が重なる。
「のりって……。まあそれでいいわ」
神凪が眉をひそめ、心底理解できないといった表情を浮かべる。
「えーだって、バラバラの文をくっつけるんでしょ? のりでしょ!」
「関係代名詞スティックのり説!」
二人は楽しそうに頷き合った。
「……っ!」
神凪は唇を震わせ、言葉を失う。
彼女にとっては完璧に筋の通った説明が、馬鹿フィルターを通るとここまで崩壊するのだ。
「……どうして……中学でも習ったはずよね……?」
神凪が本気で困惑している横で、俺は笑いを噛み殺すしかなかった。
まあ俺も少しは手伝ってやるか。
「よし、じゃあもう一回やってみるか。これを英文にしてみろ」
【私はとても可愛い犬を飼っています】
「これもさっきと同じ主格の関係代名詞を使うんだけど、今回は犬。物や動物はwhichを使うんだ」
「ほう、つまりはこうなると」
蓮はノートに書き始めた。
I have dog which is very cute.
「惜しいな、何か一つ忘れてる」
「え、なに?完璧じゃね?」
蓮が首をかしげる。
「冠詞だよ」
「かんし?」
「……“a”とか“the”とか付けるだろ? 数えられる名詞....可算名詞は裸にしてはいけないってルールがあるんだよ。まあ例外もあるけど、それはおいおいやろう」
「……なるほど。つまり服を着せろってことか」
「そうだ」
「たしかに!そっちの方が可愛い!」
綾も納得してくれている。可愛いとかは全く関係ないのだが。
「あなた、この2人の扱い上手いわね....」
「まあ、中学の頃から教えてきたしな。やる気がないってわけじゃないから教えていてもそこまで悪い気はしないんだ」
まあ、物覚えは悪くて、しかもすぐ忘れるけどな。
俺は心の中で苦笑しながら、次の問題を用意した。
「……それでも、あなたはずっと教えてあげているのね」
神凪がふと、俺の方を見て言った。
「まあな。放っておけないからな」
「……優しいのね」
青い瞳が、ほんの一瞬だけ揺れる。
その視線をまともに受け止められず、俺はノートに目を落とした。
――そうして勉強会は佳境を迎える。
続く
もっと詳しく説明したかった可算名詞と不可算名詞について軽くまとめ。
可算名詞と不可算名詞
1. 不可算名詞(数えられない名詞)
→そのままの形で使う
① 物質に関するもの
•oil(油)
•water(水) など
② 漠然としたもの・抽象的なもの
•music(音楽)
•love(愛)
•courage(勇気)
•furniture(家具) など
⸻
2. 可算名詞(数えられる名詞)
→ 裸で使わない(必ず形を変える)
単数のとき
•a + 名詞
•an + 名詞
※母音 [a, i, u, e, o] で始まるとき
複数のとき
•名詞+s
•名詞+es
「個」として認識できるもの(境界がはっきりしている)
•a cat (ネコ)
•an elephant (ゾウ)
•birds (トリ)
•boxes(箱) など
⸻
3. ポイント
•不可算名詞:数えずにそのまま使う
•可算名詞:単数は「a / an」、複数は「s / es」をつける
だいたいこんな感じ。基礎中の基礎だけどずーーっと大事。
こういう感じの話を書きたかった。批判が多かったら今後は控えます。感想お待ちしております。