一話 推しの聖女が目の前におる
「はじめまして、ユウナと申します!」
ガッチガチの西洋の世界線で、現れたのはめちゃくちゃ懐かしい名前。それを聞いた瞬間、私、リリア・ガートロードは思い出した。
この世界、私が大好きだった乙女ゲームの世界じゃん……!と。
なんかこの際だから、ちゃっくり説明しちゃうね。
前世の私は、日本の何の変哲もない真面目が取り柄の高校生。それが二年の時になんでか文化祭の実行委員に抜擢されちゃって、クラスのマジョリティをはじめ皆から総スカン喰らったんだ。ショックで学校行けなくて、そんな時に姉から借りたゲーム。
それがこの「トワイライト・プリズム」だ。
私は目の前の女の子を見つめた。この子はそのゲームのヒロイン。忘れるわけない、その名前……!(トワイライトと夕をかけてるんだよね、わかる!)
あ~~めちゃくちゃきらきらしてる~……!ピンク色のショートの髪に、きらきら大きな青い目は、「私に受け入れてもらえるかな?」っていう緊張と期待に満ちてる。でも笑顔は忘れない。まぶしい、可愛い。可愛いよ~……!
「リリア?」
アレクサンダー殿下と、その右腕のクラウス様が怪訝な目で私を見ている。
でも、待って。私、まだ興奮してるんです。ほああ、とか声を出さなかったのをほめてほしいくらいなんです。
それにしても、この人たち、ユウナの攻略キャラだ。金髪碧眼、覇気と華やかさを兼ね備えたアレクサンダー殿下と、頭脳明晰、怜悧な美貌が映えるクラウス様。
私は知らずこの人たちと幼馴染やっていたというわけかい。驚かすじゃねえの。
「いえ。とてもかわいらしいお方だと見惚れていましたの」
おっと心の声が出てしまった。まあいいや。殿下とクラウス様は「は?」って顔してるけどしらね。ユウナは顔を真っ赤になった頬を両手で包んだ。
「そ、そんな……リリア様みたいな、きれいな人に言われるなんて、嬉しいです」
うお~~~~!なにそれめっちゃ可愛いじゃん!すごい謙虚!私はこのきつい顔に生まれたことをはじめて感謝した。
と、ここで少し、状況説明を入れるね。
このゲームにおける、私、リリア・ガートロードの立ち位置なんだけど。
ヒロイン・ユウナをいじめ、邪魔しまくる悪役です。ででーん。
この「トワイライト・プリズム」っていうゲームは、「魔物を浄化する力を持つ聖女が、魔法学園の生徒会に入って攻略キャラとの絆を深め、ついでに学園改革(貴族社会の世直し)をする」っていうものなんだ。
シンプルだけど、攻略キャラも一癖二癖あって、いわゆるセラピーゲームっていうのかな。でね、この尊い物語を圧倒的に邪魔してくるのが、この私、リリア・ガートロードってわけ。特に王太子ルートなんて圧巻の活躍。
リリアは貴族のプライドがドレス来て歩いてるみたいな人間でさ。だから平民の聖女ごときに救われたくなーいって言って、ずっと邪魔してくるの。
なんでも、本来聖女があらわれなければ、生徒会に抜擢されてたのはこのリリアだったのね。そういう意味でもすげームカついてたってわけ。
ユウナからしたら知らんがなって話だよね。勝手に貴族の都合に巻き込まれてすごい迷惑だよね。よし、状況説明おわり。
で、気づいたんだけど、ここはリリアが皆の前で、ユウナを拒絶して大見得切るところなの。
「あなたのような下民、誰も認めませんことよ!」
ってね。しらーん。しらんよ。ユウナだっていたくて生徒会に入ったんじゃないわい。
と、まあそれはおいておいてね。つまり長くなったけどなにが言いたいかって言うと。
ここで戦いの火ぶたを切られるってこと。じゃーんって。じゃーん。
「あなたを歓迎しますわ、聖女ユウナさま。これからどうぞよろしくお願いします」
「……リリアさま……!」
まあ、切るわけないんだけど。
私は、きつい顔をできるかぎりやわらかく見えるように微笑した。隣で、殿下とクラウス様が「は?」って顔をしてるのがわかる。いや、驚くんかい。ゲームでは「君は、またそのような……」と渋面だったのに。
まあそんな野郎の反応なんてどうでもいいのだ。私はなれなれしくない程度に、ユウナの手をとり、続ける。
「聖女の戦いは大変なことも多いでしょう。私どもも及ばずながら力になりますから、遠慮なく頼ってくださいね」
「はい……!」
ユウナのうるんだ目が、きらきら輝いている。可愛い……!私はたいそう満足だった。
悪役になっちゃってるなんて、最悪と思ったのは一瞬。だって、自分が悪役なら、それをやめれば、ぜったいにユウナは守られるんだもん。本当に、リリアがどれだけユウナをいじめたおして邪魔したか。私も本当に悔しかったよ。
でーもーそのリリアが私。なら私が守る、ユウナの楽しい聖女ライフ。気合いを入れた。