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第二夜 聖なる濃紺、真夏のセーラー服

 先週、この関東でもやっと梅雨が明けた。そして待望の体育のプールの授業が始まる。今日は三時間目の体育がプールなので、割と多くの生徒が下着の代わりに制服の下に水着を直接履いてきている。あえて言わないが女子生徒も結構な割合で下着をつけずにスクール水着直履き。

 そして、この僕も今日はバッチリ下は海パンだ。普段はボクサーパンツ派なので、下がスカスカしているトランクスみたいなのは、ちょっと収まりが悪くて落ち着かない。でもスースーするのは気持ちいい。

 しかし今日は暑い。登校時すでに三〇度を越えていたようで、学校に到着する頃には汗まみれ。僕は特に酷い汗っかきなので、替えのTシャツを三枚持参している。教室はエアコンが効いていて涼しいのだが、汗まみれのまま授業を受けるのが嫌なのでさっそくトイレでTシャツを着替えた。


 教室に入り自分の席に座ると、前の席の女子が振り向いて話かけてきた。彼女の名は、風祭薫(かざまつりかおる)

 サラサラの腰までの長い黒髪が、振り向きざまにフワッと舞い上がり、僕の鼻をかすめた。いい匂いがする。真夏の強い陽射しを浴びて、夏服のセーラー服の隙間から地肌が少し見えている。思わず僕は目を反らしてしまった。いや、ワキくらいしかみえないのだけれどね。

 小学校までは一緒に市民プールに遊びにいったりした中だったのだが、中学にあがりクラスも別々になって、自然に疎遠になっていたのだけれど、今年二年に進級した際にまた同じクラスになった。

「ねぇねぇ、しのみやくんさあ、今日のプールの授業! 楽しみだねえ」

「だな! 一時間目と二時間目なんかすっ飛ばして早くプールに飛び込みたいな」

「ねー、なんで数学とか英語とかを朝イチに持ってくるかなぁ。もう待ち遠しくて、ほら、みて! 中に水着来てきちゃった!」

 薫は、セーラー服をたくし上げて、ガバっと腹と胸を出してきた。何やってんの。唐突に彼女の胸元の膨らみが、僕の目に飛び込んできた。動揺を隠せない。目線をそらす僕に薫は笑いながら言った。

「あははは、なに照れてんの。これは、水着! 下着じゃないから恥ずかしくないの。ユーアンダスタン?」

「ばっ、バカ、さっさとしまえよ。こっちが恥ずかしくなるだろ」

 薫は、ちっとも分かってない。下着……ブラや素肌よりもむしろ、肌を覆いピッチピチに身体を締め付けるその濃紺の布地が、なんとも扇情的なのに。そして胸元の名札の「6−2 風祭」の文字。胸の凹凸で微妙に歪んでいる文字がなんとも気になる。ん? 「6−2」?

 小学生の頃も歳のわりには大人びて見えていたが、中二ともなるとかなり大人っぽくなってきた。顔や仕草は幼いままだが。


 二時間目の終了のチャイムが鳴った。

「っしゃあああ! 次は体育だ! プール行こうぜ!」

 いよいよ体育のプールの時間になった。僕らはぞろぞろと校舎の裏手にあるプール棟へ向かう。更衣室に着くと、男子も女子もそれぞれのスペースへ散っていく。僕はロッカーに制服と着替えをしまい、持参したタオルを手に、シャワー室へと向かった。

 キュルキュルと蛇口をひねると、冷たい水が勢いよく肌を打つ。汗だくの身体にはむしろ心地よく、一瞬にして今日の暑さを忘れさせてくれた。そして塩素で消毒。ああ、この鼻をツンとつく匂い。嫌いじゃないんだよなあ。腰まで浸かり、消毒を済ませて、プールサイドに出ると、すでに何人かのクラスメイトが準備運動を始めていた。

 プールサイドは、水しぶきと塩素の匂いが混じり合い、独特の「夏の匂い」が充満している。肌に感じるプールの湿気と、足の裏に吸い付くようなザラザラした床の感触。ああ、この感じ、本当に久しぶりだ。


 僕が準備運動をしていると、視界の隅に、鮮やかな濃紺の塊が飛び込んできた。薫だ。彼女はすでにプールサイドに立っていて、水しぶきを気にせず、大きく腕を回して肩をほぐしている。そのスクール水着姿は、教室で見た時よりもさらにピッチピチで、身体のラインをくっきりと浮き上がらせていた。太陽の光を浴びて、濃紺の布地が少し光沢を帯びて見える。小学生の頃は気にもしなかったはずなのに、なぜだろう、今は目をそらすことができない。

 特に、水を吸って体にぴったりと張り付く生地のわずかなシワや、胸元で揺れる名札の「風祭」の文字が、やけに目に焼き付く。まるで、聖なる色をまとった彼女の姿が、僕の脳裏に焼き付くような感覚だった。


 やがて、先生の笛の合図でプールサイドに整列し、いよいよ入水。ひんやりとした水が、足元からじわりと身体を包み込む。水圧で身体が少し浮くような感覚と、耳に聞こえる水音が、外界の音を遮断していく。

 クロールで大きく腕を回す。水の中は、地上とは全く違う世界だ。水の抵抗を感じながら進むごとに、身体の熱が奪われ、だんだんと心地よくなっていく。ふと顔を上げると、少し離れたコースを、薫が軽やかに泳いでいた。彼女のサラサラの長い黒髪が、水中でゆらゆらと揺れるのが見えた。


 そして、プールの授業が終わり、再び更衣室へ。濡れた水着を脱ぎ、タオルで身体を拭く。僕はそこで、しまった! と思った。家を出るときに替えの下着を持ってくるのを忘れていたのだ。

 仕方なく、僕は濡れたタオルで水着をできるだけ拭き、半乾きのまま制服を身につけた。まだほんのり湿った海パンが下半身にまとわりつく感触が、なんとも落ち着かない。


 教室に戻って来ると、室内は異様な匂いで充満していた。あきらかにプールの消毒液の匂いだ。どうやら僕を含め、結構な人数が下着を忘れて、今、制服の下は水着なのだろう。それも湿ったままの水着。

 自分の席に着席すると、ひんやりとした椅子に、湿った生地が貼り付くような感覚がした。そして、鼻腔をくすぐる、プールの消毒液、塩素のツンとした匂い。それは、僕の下半身から微かに漂ってくる、僕自身の残り香でもあった。教室中に充満している匂いと同じものなのだろうが、自分の下半身から上がってくる新鮮な消毒液臭は一際異彩を放って僕の鼻を刺激してやまない。

 前の席の薫も戻ってきて座った。どうにもモゾモゾとして落ち着かない。どうやら彼女も下着を忘れたクチだろう。気になってちょっと下に視線を落としてみたら驚いた。

 スカートを履いてない、だと!? いや、濡れた水着の上からスカートは嫌なのだろうが、いくらスクール水着といえどケツ丸出しなのはいただけない。

 それに加えて消毒用の塩素臭まで漂ってきた。

 これはいけない。僕は嫌いではない匂いなのだけれど万人受けするようなものでもない。

 薫が教科書を開いてノートを取り始めると、前かがみになり、背中と椅子の隙間からケツが見えた。少し湿っているスクール水着がケツにみっちり食い込んでいてケツの形がくっきり分かる。

 これはいけない。いくら水着といえど、湿度を感じる距離感、消毒液の匂い、資格情報でケツ。加えてなんだかすこし甘い匂いが混じっている気がする。薫の髪か、それとも制汗スプレーの香りか。


 こんな状態で授業など頭に入るはずもない。そんな僕を察してか薫が後ろに振り返り話しかけてきた。

「あはは、今日下着持ってくるの忘れちゃったから、いまスカート履いてないんだ」

「おいおい……少しくらい湿ってるからってスカートくらい履けよな」

「えー、濡れたままだと気持ち悪いじゃん。パンツじゃないから恥ずかしくないもん」

 いや、だからスクール水着のケツは、それだけで「えっっっっっっ」なんだよ。本人がどう思おうが。


 ネットなどの情報で、ブルマ・スクール水着・セーラー服といったら三種の神器と呼ばれるその筋では、神アイテムらしい。が、僕はそんなものにちっとも興味がなかったはずなのだが、どうにも調子が狂う。

 中学生になってもちっとも変わらない薫に、ハラハラしながらも濃紺の布地からほんのり感じる身体の曲線が、僕の心の中にしずかに何かが湧き上がるのを感じずにはいられない。


 期末試験が終わったら、すぐ夏休みだ。今年はまた市民プールに誘ってみようかな。


          (了)

ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回は青春の神アイテム、スクール水着とセーラー服に着目し、くわえてプール後の塩素臭を描写してみました。あまり助平にならないように気をつけてはいますが、こんな調子で、連作をしていきます。

もし気に入っていただけて、続きをもっと読みたいなあと思っていただけましたなら、ブックマークと評価をお気楽にぽちっとスイッチョンしていただけるとしっぽを大ぶりして喜びます。おねがいしますね。

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やべぇ 上手い 俺もこれくらい表現出来たらスピンオフ書かなかったかも ラーニングさせてもらいました。 マジすげぇ
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