第2節|09:45 南西戦域空域・F-15J「204飛行隊」第3編隊トルネード02号機 上空20,000ft
「トルネード03、こちら02、IFF応答再確認。南西方向、スプークAとBの間、地表熱源10超、識別取れない」
ヘルメット越しに聞こえる味方機の声はノイズ鳴りだした。
高度20,000フィート。時速980キロで旋回しながら、**第204飛行隊所属のF-15J「トルネード02」**は南西諸島の警戒警戒航法ラインを維持していた。
操縦縦桿を守るのは空自1尉・高田慶、38歳。
スクランブル歴は80回を超え、日中の航空識別任務に慣れ親しんでいる。
「トルネード02、こちらAWACS・イージス09。識別不能の地表熱源多数。公認同期不能、地上とのDL非接続状態」
「承知しました。当然の判断は空域内判断に委任。友軍の位置、依然特定不可」
高田は、HUDに表示された地表の赤外線シグネチャを再確認しました。
「くそ……」
敵か味方か、それすら気づかない。
「前方に味方陸自部隊展開中。即応機動作戦らしいが、JTACは無し。こちらと音声通信もDL不可。戦略体制が合っていない」
「なんで今時、味方の陣地が味方に渡ったらねぇんだよ……」
副操縦士席の飛行幹部・2尉の木村がぼやく。
「陸のC4Iと俺らのLink-16は仕様が違うですよ。その間中隊レベルにはアンテナ機材すらない。JTACいなきゃCAS無理って」
「味方機も敵機も、表示上は同じ“緑の点”だ。索敵の意味がねぇ……」
「トルネード編隊、上空を2000フィート下げ、警戒戒パターン変更。敵機反応なし。一応地対空火器存在の可能性。CAS案件は当面で実行不能」
「わかりました、こちら02、CAS不可。味方地上部隊とのリンク確認取れず、撃ってず、降りられず、爆弾、まさかたままた返されまして」
木村が諦めて言った。
機内には2発のGBU-38誘導爆弾が搭載されていた。
誘導装置はGPSベース。だが、地上からのレーザー誘導がなければ「都市レベルの恐怖」が出る。
高田は管制との頂上を続けながら、胸の内で計算していた。
――敵兵力の推定位置まで、ここから9分。 だが誘導用の目標マーキングがなければ、味方陣地に着弾する危険性がある
。
「トルネード02、敵空域制圧状況、現在レベル1。航空撃破済。SAM(地対空ミサイル)存在未確認。但し前方でのレーザー反射あり、味方機? 敵JTACか?」
「AWACS、レーザーID確認できず。反射のスペクトル値不明。作戦領域内、友軍と敵軍のJTACが集まる可能性あるのか?」
「否定できない。現場判断を優先せよ」
高田は圧縮息を吐いた。
「おい、木村。もしこれが敵だったとして、今ここで爆弾捨てのは正しいか?」
「いや……判断材料が不足すぎます。『爆弾は落とせるが、結果は誰も責任取らない』ってパターンですよ」
「敵だったら、何十人も吹っ飛んで。味方だったら、全滅だぞ。地上にいるやつらに『ここにいる』って伝えるわけがない」
木村が唇を噛んだ。
「それで……私たち、到着後の補給、次ありますかね?」
「基地滑走路、3日前に一部損傷を受けてまだ完全復旧してない。あれ以上の空喰らったら、俺たちは『飛んだまま死ぬ』」
「こちらトルネード02。目標識別不能、CAS実施条件を満たさない。爆撃責任中止、帰投指示を要求む」
数秒後、AWACSからの承認が下りた。
「帰還許可。燃料残量1,200以下。那覇基地へ航法補正中」
高田は機体を回転させた。
爆弾は残ったまま。敵は見えたまま。だが**「味方を殺さないために、何もせずに帰った」**のだった。
副操縦席で、木村がぼそりと呟いていた。
「陸が孤立してんの、わかってるんですよ。でも……俺たち、何もできない」
「……2分で砲撃……東斜面……赤外……」耳元
に流れるのは、かすかに混信した地上波無線の断片音。
「地上では、もう戦っている」
「空では、まだ戦えない」