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有限×無限

 責任者のコントロールルームでアマネは人々の決断を見つめていた。

 通知から5日が経ち、全体の約三割の人達がすでに選択を終えていた。

 ユー=オルクのエコラプシーと同様に選択肢は三つ。メルトアップ、選択的尊厳死、人為的介入の拒否。

 コントロールルームがまだ馴染まない空間であることは、もっともらしい残酷な選択を突きつけなければいけないアマネにとって救いだった。

「オロス。レン=ゲードの最終選択結果を推測して」

 チョーカーデバイスが点滅すると、正面のモニターにかつてのユー=オルクの選択と、現在のレン=ゲードの状況が映し出された。

『決断の初動はユー=オルクよりもレン=ゲードが圧倒的に多く、そのほぼ全てがメルトアップであることがわかります。

 それらを元に最終結果を推測すると、メルトアップを選択する割合がユー=オルクの92%を上回ると考えられます』

 アマネは画面のデータを静かに見つめた。

「他の選択はどう考える」

 首元のデバイスが点滅し、画面の中にあるグラフの端の線のような箇所が拡大された。

『先の都市の選択が尊厳死5%、介入の拒否が3%だったのに対し、本件は尊厳死4%、介入拒否1%未満と推測されます』

 アマネは巨大なモニターから離れ、部屋にあるデスクに向かった。

 デスクの上では桜の盆栽が緑の葉を青々と揺らしている。

 研究の凍結を決めた翌日以降、何度かラボに顔を出したが、そこにユイの姿はなかった。三日が経つ頃にアマネは盆栽をコントロールルームに持ち帰り、デスクに置いた。

 アマネは小型の端末を開き、デスクに立てかけた。

 画面にはエヌリスに関わるデータがずらりと並んでいたが、それらが意味を持って開かれることはもうない。そう思うとアマネの指先は小刻みに震え、胸の奥が熱くなった。

 端末を放り投げたい気持ちに駆られたが、一度目を閉じ小さく深呼吸をした。

 それからゆっくり目を開き、キダから届いたメッセージを開く。

『少し早いかもしれませんが、ナツキと2人でメルトアップを進めることにしました。カイロスドーム側の準備が整い次第実施することになります。彼女がお二人に会いたがっているので良ければ見送っていただけると嬉しいです。日程は追ってご報告いたします。』

 数日前に届いたこのメッセージにアマネは返信出来ずにいた。

 ふと、端末上にあった協力者たちのファイルを展開すると、治験協力者たちの現在情報が個別に表示された。

 それぞれのデータの端にはエコラプシーの選択が表示されており、ユイを除いた9人がすでにメルトアップを選択していることがわかった。

 アマネは確認してしまった事実を隠すように急いで端末を畳みデスクから離れた。

 体を覆うような形のないものを振り払うようにそのまま車椅子を動かしコントロールルームを後にした。


 何も考えずに車椅子を進め、自然と向かっていたのはいつものラボだった。

 部屋の前に着くと、曇りガラス張りの扉の向こうに明かりがついているのがわかったが、自動扉がアマネの気持ちを汲むこともないままスッと開く。ラボの奥でモニターを見上げていたユイが気配に気がつき振り返るとアマネと目が合った。

 ユイはほんの少しだけ俯いたあとに、手を挙げ無邪気にそれを振った。

 アマネは自分のデスクまで車椅子を進め、ユイがモニターに開いていたシミュレーションを見上げた。

「部屋にいてもやることなんかなくってさ。

 これ見てよ。アノマロカリス。オパビニアとかアイシャイアとかもいるんだ」

 ユイはシミュレーションをスクロールして海中にいるたくさんの生物のデータを表示した。

「なんだか不思議な宇宙人みたいな生物ばかりね」

 アマネは表層的な意見だけを述べて、不思議な生物を見つめ続けた。

「そうなんだよ」

 ユイは弾むような声をあげて、シミュレーションを見つめたまま話を続けた。

「カンブリア紀って生命のルールがすごく自由でさ、なんでもありって感じがして俺大好きなんだ。これ見てよ。ピカイア。ご先祖様だぜ」

 画面から目を下ろし、ユイが振り返った。

 唇を尖らせ一度への字に結んでから勢いよく口を開いた。

「この間はごめん。ちょっと色々頭が追いつかなくて。本当にごめんなさい」

 そう言って何度も頭を下げた。

「私は大丈夫。ユイが謝るようなことは何一つない」

 アマネがそう伝えると、ユイはそうじゃないと言うように首を左右に振ってから、またシミュレーションに向き直して操作を再開した。

「……じゃあ、仲直りだ。ありがとう。

 ハルキゲニアもなんだか嬉しそうに見えるよ」

 画面に映った奇妙な形の生物を見ながらユイは肩を揺らして笑っているように見えた。

 アマネはシミュレーションを操作するユイの背中にそっと確認するように言葉を投げた。

「近いうちに、キダさんとナツキちゃんがメルトアップする。一緒に2人を見送りに行かない」

 ユイの動きが一瞬止まったが、すぐにシミュレーションを操作するように動き出した。

「ああ。一緒に行こう。しっかり見送らないとな」

 ユイは振り返らないまま力強くそう答えた。

 ラボのモニターの中ではたくさんの命が太古の海を泳ぎ回っていた。

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