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噂噺

作者: 天原 夢月

 よくある噂話は皆さんも知っているだろう。学校の怪談や都市伝説の類いはテレビやネットの書込みでも目にするし耳にする。自分は子供の頃からそう言ったオカルトには一切興味が無く信じていない。実際地元の心霊スポットを回り歩いたが1度も心霊現象に遭遇しなかった。また社会人になり仕事で色々な場所へ遠征する時も心霊スポットに向かい噂が本当か確かめに行っているが今まで見た事が無い。正直そういう噂話は最初にその場所を訪れた人達が、その場の雰囲気で自分の目にして耳で聞いたものを誇張して話に尾ひれを付けたものだと思う。心理的に不安定になり合理的に目の前の物事を冷静に判断出来ないから、恐怖心に駆られて訳のわからない妄言を言っているに過ぎない。と、前の自分なら断言していただろう。あの出来事に出会うまでは。

 自分は会社のお盆休みを利用して実家に帰省した。何もない場所だが生まれ育った場所なだけに安心感がある。実家では両親と晩酌しながら会話してお互いの近況を伝えた。早く所帯を持って孫を見せろと小言も言われて少し煩わしさがあった。でも両親と久しぶりの会話は子供の頃とは違う楽しさがあった。これも自分が大人になったという事なのだろうか。

次の日の昼下がりに実家の今でゴロゴロしているとスマホに1通の連絡が届いた。相手は地元の同級生で自分と同じ様に帰省したとの事だった。他にも帰省した連中がいて集まって飲み会をしないかと誘われた。特に予定の無かった自分は参加すると返信して飲み会に向かう準備をした。夕方になり始めた頃に飲み会の場所に向かった。場所は連絡をくれた同級生の家だった。昔から自分達の溜まり場になっていて、悪い事をしていると同級生の両親にこっ酷く叱られたのが懐かしい。集まった面子は4人でずっと地元でつるんでいたやつらだった。乾杯の音頭で飲み会を始めて自分達ははしゃぎまくった。昔の様に同級生の両親にやかましいと怒鳴られたが、一緒に飲みましょうと絡み楽しく飲んだ。時間が経ち少し落ち着いた頃に1人がポツリと呟いた。それは地元のとある廃校の話だった。どこにでもある噂の類を話し出して、自分を含め他の2人も阿呆らしいと鼻で笑った。だが話し出したやつの情報だとその廃校は今でも現存しているらしい。他の廃校は軒並み解体工事されているがその廃校だけはあると言う。解体業者の重機が搬入出来ないのが理由らしいが、実際なんで取り壊されないのか分からないそうだ。もしかしたら霊的な現象で立ち入りが出来ないと言う噂話もあるそうだ。でもそれはよくある話しで気にする事でもないだろうと自分達は言い返した。言い返されたやつは、それなら今から4人でその廃校を見に行こうと更に言い出した。自分達は少し呆れた雰囲気を出して、酒を飲んだ後に行くのかよと苦言を言った。だが言い出したやつは頑なに廃校へ行こうと食い下がってきた。昔からこいつは頑固だったと思い出した自分達は、仕方ないなと諦めて缶ビールを片手に噂の廃校へと向かう事にした。

 廃校は思いの外近くにあった。同級生の家から大体10分かからない距離に位置していた。廃校へ行く前には階段と鳥居があって、階段を上がり鳥居をくぐって階段を下りると少し山道になり奥へ進むと開けた場所に例の廃校があった。廃校に辿り着いたのは23時。今夜は満月で雲1つ無い夜なので廃校の姿形がよく分かる。2階建ての木造建築で大分劣化しているのが遠目からでも分かった。自分は半ば趣味でこういった場所に来るのは慣れているので気にはしないが、1人がこの場所なんか気味悪くないかと不安げに話しかけてきた。確かにあまり来るような場所ではないから不安になるのは分かるが、そういう心理状態だから目に入るものが恐く見えるだけだと自分が諭して廃校に足を踏み入れた。中に入って更に分かった事は外の見た目程、屋内は劣化していないという事だ。特に荒らされた形跡もなく意外にも綺麗だった。自分は廃校なのに綺麗なもんだなと感心しているとさっきとは違うやつが、なんで廃校なのにこんなに綺麗なんだろう。埃が積もっていないのが不自然過ぎじゃないかと考察をした。言われて見れば確かに変だ。窓ガラスがしっかり機能しているので雨風を凌げるのは分かるが、埃が無いというのは少々気にかかる。でも自分は誰かが未だに管理しているのでは無いかとも考えた。もしかしたら自分達が知らないだけで文化財に指定されている学校ではないのかと。その可能性はあるかも知れないがならなんで外装も綺麗にしないんだろうかと意見を言われたが、飲み会の話から重機が搬入出来ないから人力でやらざるを得なくて内装だけ綺麗にしているのでは。と自分が話す。古い木造建築はそれだけでも価値があるから敢えてこのままにしている可能性もあるとも4人で考察をした。考察をしながら自分達は廃校内を隈無く歩いた。学校の怪談の代表格のトイレの花子さん。音楽室のピアノや有名音楽家の肖像画。理科室の人体模型等々をしらみ潰しに巡った。結局、何も起こらなかった。自分達は何も起こらなかった不満感があったが、何事も無くて良かったと笑いながら廃校探索を楽しんだ。少し休憩してから帰って飲み直そうと言う事になり、廃校の2階廊下から校庭を見下ろした。自分達は持って来ていた缶ビールを飲みながら外で飲む酒も旨いなと涼みなが飲んでいると、1人が校庭の真ん中を指差した。

あれはなんだろう

その言葉で全員が校庭の真ん中を見る。さっきまで月明かりで良く見えていた校庭が真っ暗に見えた。多分雲が月にかかり暗くなったのだろう。自分は真ん中に何かあるかと聞くと、指差したやつは

真ん中のあそこだけ人に見えないか?

そう言った。自分達は目を凝らして良く見てみた。自分は酔いも回っているから変に見えているだけだと思い信じていなかった。でも雲が動いて影が消えるにつれて目を見開いた。真ん中をずっと見ていると確かに真っ黒な人型の影の様なものが徐々に見えてきたからだ。色が段々と濃くなり、足が見え、身体が見え、ついに雲が消えた時には頭の形まではっきり見えてしまった。自分以外の3人は恐怖で身体が震えていた。自分は冷静に真っ黒な人型を観察しようと平静を装った。どうせ自分達と同じ考えのやつが廃校に来たのだろうと。だがそんな考えは直ぐに改められた。よく観察するとまず顔の輪郭が全く見えない。のっぺらぼうの様に見えた。月明かりがあるからある程度の表情は見える筈だが全く分からない。身体も同じ理由で分からない姿形は確かに人間に見えるが、立体の様にも見えるし、平面的な感じもする。極めつけは光の下に居るのに影が無い。それだけじゃなく浮いている。足の形をしている様に見えるが地面に接地していない。自分は色々思考した。何かの自然現象か目の錯覚でそう見えているだけな筈だと。しかし考えれば考える程、真っ黒な人型は本当の人間ではない結論に至ってしまう。自分は初めて心霊現象に遭遇し、初めて恐怖を感じた。自分達がヤバくないかとおどおどしていると、更に状況が悪い方に動いた。なんと真っ黒な人型がこちらに向かって来るのだ。ゆっくり、ゆっくりと。自分達は身の危険を感じ

逃げるぞ

と叫び全力で逃げ出した。階段を下り、玄関を抜け、鳥居がある所までひたすら全力疾走した。酔いは覚めきり生存本能に従って走り抜けた。最初に廃校に入った正面玄関では無く裏側の職員玄関から抜け出して、遠回りしながら鳥居に向かった。人型が真っ正直に後を追いかけるなら、遠回りして上手く撒けないかと思い付きで動いた。実際鳥居に着くまで人型には遭遇しなかったし、追ってくる足音もしなかった。自分達はぜぇぜぇと息を切らせながら呼吸を整えた。少し落ち着きを取り戻した頃、ふと気になり後ろを振り返った。自分は青ざめた。だって居るのだ。人型が。さっきと同じ動きでゆっくり、ゆっくりこちらに近づいて来ていた。廃校で見た時はかなり距離があった為よく見えていなかったが、今の距離感は階段10段位の間隔。人型の姿は本当に真っ黒。只々真っ黒。人間ではないと再認識した瞬間には自分達は絶叫して、鳥居の階段を駆け下りた。本当の恐怖はこれなのか、ふざけてこんな場所に来なければと後悔しながら必死に走った。階段を降りきると自分達は2手に別れて逃げ出した。飲み会をしていた家は直進で行けるが、さっきみたいに追い付かれるかも知れない。遠回りしても直ぐに後ろを取られるならいっその事2方向に別れて掻き回したほうが逃げ切れるかも知れない。自分達もギリギリの精神状態だったのでヤケクソで動き出した。上手く行かなかった時の事を考えている余裕もなかった。逃げ延びたい一心で走った。ひたすら走った。同級生の家までは直ぐなのにあまりにも長く感じてしまう。後ろは振り返らなかった。いや振り返られないと言うのが正しい。また後ろにいるかも知れないという恐怖が振り向く事を出来なくする。回り道をして集合場所の同級生の家に自分ともう1人は着いた。同じタイミングでもう1組の2人も家に着いたので、家の中に入り扉に鍵を掛ける。自分達全員体力の限界をとうに越えていた。学生時代でもこんなに全力を出した事なんて無いと思う。汗でぐっしょりとした半袖が身体にべた付いて気持ち悪い。だが、家の中に入って鍵も掛けた。少しだけだが気持ちが楽になった。皆で大丈夫かと声をかけ合ってお互いの無事を確認した。自分達は立ち上がる気力を失っていて中々動けないでいた。少し時間が経ってようやく動けそうになったから、とりあえず皆で移動しようとした時

コンコン、コンコン

何かを叩く音がした。というか扉をノックしている音に聞こえた。どこからしているのかはっきりさせようと自分達は聞き耳を立てると、どうも後ろの方から聞こえる。後ろという事は玄関の扉だ。嫌な予感がした。皆で恐る恐る玄関の方を向くと、真っ黒な人影が扉を叩いていた。追いかけて来ていたのださっきの人型が。さっきまで落ち着いていた精神状態が一気に恐怖で本当にどうにかなりそうだ。扉叩く音は段々と大きくなっていった。全身が恐怖で震えて、自分達は同級生の部屋に逃げ込んだ。学生時代は4人で集まった部屋で自分達は息を殺して身を潜めた。扉を叩く音は部屋まで聞こえていたが、いつの間にか静かになっていた。自分達は恐怖と緊張が解けないまま、その場から動けないでいた。心臓が口から飛び出しそうな勢いで動き、過呼吸になりそうだ。他の3人を見ると皆同じ様な状態だった。ようやくまともに呼吸出来るようになったのは20分かかった。時間は部屋の時計を見て分かった。時刻は深夜1時だった。自分達が廃校に2時間近く居たことになるが、今にして思えばあんな場所に2時間も居るなんてどうかしてると思う。自分は少し気を緩めて楽にしていた。それを見てか皆も楽な姿勢になってくつろぎ始めた。その内1人が部屋のカーテンを開けて外を見た。自分と残りの2人はヤバかったなと疲れた果てた声で話していると外を見ていたやつがバッとこっちを見て、口に人差し指を立てて来た。その顔は真っ青で汗で滲んでいた。恐怖と絶望の顔だ。つまり、こいつは見てしまったんだ。何かを。自分はその正体が分かってしまう。分かりたくないが分かる。その正体を確認する為に息を殺し、音を立てずにカーテン越しから外を見る。その正体はやはり自分達を追いかけ回した人型だ。同級生の家の回りをぐるぐると徘徊して何かを探している様だった。それはおそらく自分達を探しているのだろう。ひたすら家の周りをぐるぐる、ぐるぐるとゆっくり徘徊していた。その姿に絶望を感じて再び息を殺して身を潜めた。物音を立てるとあの人型がまた追いかけてくるかも知れないし、不意に部屋の中に現れる可能性もある。自分達は何が起こるか分からないので寝ずにこの夜を過ごそうと決めて、黙り込んで動く事を止めた。会話する事も無くただ静かに隠れて夜明けが来るのを待った。今の時期なら6時頃になれば朝日が昇るので、その時間まで必死に耐えなければならない。1時間が過ぎる度に早く朝にならないか、ならないかと心の中でずっと祈り続けた。外の確認はしていない。本当に恐くてとても確認しようとする気力も無い。それに万が一人型に見られたら、もう逃げ切る体力も無い。ひたすら息を殺し身を潜めるしかない。

 時計の針が午前6時になった。カーテンからは日が差して夜明けになった事が分かった。この間の時間は本当に生き地獄だった。眠る事も出来ずにただただ恐怖に怯えて息を潜めていたのだ。精神的にも体力的にももう耐えられそうになかった。自分は最後の力を振り絞り、カーテンの隙間から外を覗いた。人型は居なかった。しかし、油断出来なかった。あっちも最後の最後で襲いかかろうと身を隠しているかもしれない。日は登っているのだ、霊的存在なら現れない筈だと自分は意を決して窓を勢い良く開けた。目を瞑りながら。ゆっくりと瞼を開いて外を見る。そこには何も居なかった。自分は心の底から安堵して胸を撫で下ろした。そこで自分の視界は真っ暗になった。極度の緊張からの安心感から限界を迎えていた身体は活動を休止した。確認出来ていないが3人も眠りについたと思う。

自分達が目を覚ましたのは次の日の昼過ぎだった。しかも病院で。あの後同級生の両親が部屋に来て、幾ら起こしても目を覚まさない自分達を危ないと思い救急車で最寄りの病院まで運んだらしい。極度の疲労と脱水症状で熱中症と診断されて、今日1日点滴生活を余儀なくされた。目を覚ました後は各々の家族に泣き付かれて、喜びとお叱りを受けた。本当に申し訳なかったが無事に全員生きているという事実が信じられない程嬉しかった。1日が経ち自分達は各々の家に帰りもう1度喜んで怒られた。流石に2日連続で言われるのはキツイが自分達が悪いと割り切ってしっかりと話を聞いた。自分は昨日の出来事を正直に言おうか迷ったが、結局言わなかった。どうせ信じてはもらえないと思い適当な事を話して誤魔化した。後で3人にも話を聞いたが、皆自分と同じ対応をしたそうだ。飲み会を開いた家の同級生は、夜中自分達が出掛けて帰って来た後に何かおかしな音とかしなかったかと聞いたところ

1度トイレに起きたけど何も無かった

と言われたそうだ。扉を叩く様な音も全然しなかったそうだ。あの人型は自分達にしか見えなかった怪異なのか、はたまた自分達の妄想だったのか知る由は無い。もう1度あの廃校に行けばはっきりするが、もうあんな経験は懲り懲りだ。自分達は残りの休暇をしっかりと休養して帰省を終えた。その後、自分達はあの廃校を訪れる事はしなかった。あの日の事は遠い苦い思い出として頭の片隅に追いやっている。噂に聞いたがあの廃校は未だに解体されず残っているらしい。その理由は今になっても分からないと言われている。それを調べに調査に向かう人達も毎年いるようだが、その後の話は何も聞かない。

噂話は噂話で終わらせておく方が1番いいのかも知れないと今の自分はそう思っている。

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