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者ガタリ

作者: ロック

それは、12月の寒空の下だった。

僕、三春夏が経理部に配属されて2ヶ月のことだった。


僕は学生時代、商業簿記を勉強していた経験があったのと、前職業務の一環でV-LOOKUP関数を使っていた経験があった。

また、営業部に所属していたときに体調を崩して、休職をしてしまったことも理由でここに異動になった。

初めての経理部、正直最初は怖かった。

営業部でのパワハラや、出世競争、何より上司ともソリが合わずに、1年間。

頑張った上での突発的な休職。

退職だって考えた。寧ろ、1回転職してる身だし、ある程度の"志望動機"ストックは、あった。

直属の上司に相談したら、復帰後に経理部経理課に異動することが決まった。


最初は慣れない畑で、自分が成果を出せるか心配だった。

だけども、周りの優しい言葉や励ましによってなんとか、今日まで仕事を行えた。

先輩社員は優しい人ばかりだ。


男女比はフィフティーフィフティー。

だけど、年齢層は女性に若い人が多め。

男性は若干年齢層が高かった。

特に女性社員に至っては美人が多く、僕は現在の直属の上司である真由村さんに恋をしていた。

鼻が高く、美人と呼ぶに相応しい顔立ち。

経理部は営業部と違い、まるで絵に描いたような天国であり、会社に来ることそのものが生きがいとなっていた。


けど、僕は人付き合いが得意じゃなかった。

営業部のいた時もそれが仇となった。

現在も飲み会を断り続けてるし、職場の人ともプライベートの連絡先を交換していない。

社員携帯が貸与されてるので、そこで連絡は取り合ってる。

基本、仕事の人間は仕事だけと、僕は線引きをしていた。

あの日までは。


僕は、ある雪の降る夜一人でタバコを吸いながら帰宅をしている途中、傘を忘れた年下の先輩君子さんが、走って帰宅しているところだった。

寒そうに駅までを歩く彼女を放っておけない僕は、傘を差し出した。

「これ、使ってください」

彼女は振り向いて笑った。

「ありがとう、三春さんって優しいんですね。でも、気持ちだけで大丈夫です。」

「風邪…引いちゃうかも知れないじゃないですか」

「あらそう、じゃあお言葉に甘えて。」

彼女は傘を受け取った。

僕は雪の中、駅まで走った。


翌日も、ただ仕事をした。

最近は目の前の仕事をこなすだけだ。

徐々に仕事のモチベーションが下がってきた。所謂「3ヶ月病」だ。

入社や異動が3ヶ月過ぎると、どうも仕事のモチベーションが下がり、離席の回数が増える。

比較的拘束されることの少ないこの部署で僕は自由気ままに喫煙しに行っていた。

そこで先輩である野原さんや、佐藤さんとたわいもない会話をする。

野原さんは、営業部第三課、佐藤さんは業務部だったけど、昨年度の4月経理部に移動したらしい。

野原さんと佐藤さんは僕の喫煙仲間だ。

コミュニケーションが得意な僕に合わせてくれる二人は心の内を話せる存在だ。

もちろん、まだ飲みに行ったことはないけど。


「今日の調子はどうだい?」と両切りのショートピースを蒸す僕に佐藤さんは尋ねた。

「まぁまぁって感じです。佐藤さんはいかがですか?」

「そう堅くならなくていいよ。

僕は…普通かな」

「そうなのですね」

たわいもない会話をしてると、雪が見える。

「少し薄暗い天気と、この白雪。

オフィスの光がどうも景色をよくしてる。」

佐藤さんはタバコを吸い殻入れに捨てた。

「じゃあ、俺仕事戻るから。

長居はするなよ」

僕はゆっくりとタバコを吸い、そして強く吐いた。

冬の空の下吐息と煙が混じり合っていた。


そして今日の帰り際

僕は、今日も一人で帰ろうとしたが近所のゲームセンターに寄ることにした。

レトロなゲームが置いてあるこのゲームセンターで僕はサイコソルジャーをプレイした。

ボリュームが調整できる筐体だったので、僕は少し筐体のボリュームを上げると隣の首領蜂をプレイしてる客に「音下げてください」と言われた。

そのプレイヤーは…まさかの君子さんだった。


驚いた表紙に、僕の操作するアテナは、すぐに敵にやられた。

彼女もまた、プレイするのをやめて、僕の方を向いた。

「…飲みに…行きませんか?」

まさか君子さんに誘われるとは思いもしなかった。


僕と君子さんは、小さな居酒屋に入り、僕はコーラを。君子さんは、ビールを頼んだ。

会社ではできないような質問を君子さんは、繰り返した。

最近ハマってるゲームのことや、家族構成、恋愛経験、そして学生時代の部活動のことなど。

僕からは、殆ど質問をしないから、空気そのものは白け「じゃあそろそろ帰るね」と君子が言い、僕も帰宅の準備をした。


居酒屋から出た僕は両切りピースをすう。

ふと、横を見ると、君子さんが僕の横顔を見てることに気づく。

「なんかついてる?」

「いや、別に」

気がつくと、僕らはタメ口で会話しあってた。


僕は、彼女に1本タバコを差し出した。

「吸います?」

「私タバコ吸わない」

「そか」

「でも、君が吸ってるタバコなら吸う」

君子さんにショートピースを渡し、彼女のタバコに火をつける。

彼女は口に咥えるや否やむせた。

僕は彼女からショートピースを受け取り、近くの吸い殻入れに入れた。

「こんな重いの吸ってるの?」

「で、ですよねぇ」


彼女は、恥ずかしさを感じたのか、「失礼します」と走ってその場を立ち去った。

その仕草は、まるで少女を彷彿とさせた。

僕はまた1本タバコに火をつけた。


その日からと言うもの、週末は一緒にゲームをして、その足で一緒飲みに行き、時にカラオケで熱唱し、時にホテルで共に寝ることもあった(この場合の寝るは、本当に寝ているのだ)。


まぁ、彼女と親しく関わるようになると、連鎖的に他の同僚とも飲みに行けるようになり、徐々に人嫌いが治ってきた所存。

僕はどうやら、この会社に打ち解け、所謂幸福な状態らしい。

26歳独身、やっと、幸せを掴んだ気がする。

もちろん世間が言う26歳の幸福とは、違うかも知れないけど。


でもまぁ、僕には正直心苦しい側面がなかったわけじゃない。

真由村さんが好きだ。

今でも好きだ。この美しい笑顔。

僕の業務のモチベーションなのは、変わらない。


幸せとはなんだ。

脳裏にこの疑問が浮かんだ。

真由村さんに男としては、見られない。

だけども今良い関係の君子さんは、おそらく僕を男としてみている。

このまま、そんなに悪くないこの会社で、生きていき、君子さんと交際して結婚するのが、おそらく社会的な幸福は、手に入るだろう。

だが、それが本当の幸せと言えるのだろうか。

平均的な人間が手に入れたいだろう幸せを手にするのが、僕にとっての幸せになり得るだろうか。

わからない、それはわからない。

僕は真由村さんが好きだ、彼女のことを考えると胸がとても痛む。

でも、僕も良い年齢だ。

君子さんに告白しよう。


そう決心した、翌日彼女が飛び降り自殺をした。

脳裏に浮かぶ生前の彼女の笑顔。

それは、僕の胸を苦しめた。

理由はわからない。誰からも教えてもらえなかった。


真由村さんは、ある日僕を飲みに誘った。

そして知らされた真実。

彼女は僕のセクシャルハラスメント行為に対して、心を苦しめていたようだ。

けど、周りに対して申し訳なさを感じ、心の叫びは、彼女の胸の内にあり、真由村さんに自殺する前日に相談を受けたそうだ。


僕は

僕は…

僕は………君子さんを殺したと同時に、

真由村さんの同僚を殺したことになる。

罪悪感から僕は会社を辞めた。


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