プロローグ
お久しぶりです。しーしびです。
新しいお話を書きました。
楽しんでいただけたら幸いです。
──あぁ、魔法が解けてしまった
ついにこの時が来たのだとステファニアは理解した。
自分の道を指し示すかのように両脇に並び立つ兵士に、門城の向こう側から侍女を引き連れて走ってくる懐かしい乳母の姿。
ステファニアがここに足を踏み入れると彼らは分かっていたのだろう。いや、もしかすればそうなるようにと彼らが仕組んだことなのかもしれない。
あの童話のように魔法は永遠でないことを、ステファニアはよく知っていた。
そして、ガラスの靴を持ってきた“彼”と、大勢に祝福されながらハッピーエンドを迎える未来など存在しないことも。
何より、自分が灰かぶりの少女のように、皆が理想とする姫になれるわけがない。
分かっていたのに、それでも、つい夢を見てしまった。
たった数ヶ月の旅。
まだこの世に生を受けて17年しか経っていないステファニアにとっても、ほんの僅かな時間。
なのに、なぜかステファニアの心を掴んで離さないものがそこにある。
最初から一緒だったわけではない。
2年前に父に反発し国を飛び出したステファニアは、たまたま旅をしていた彼らに出会い、成り行きで共にいただけ。
けれど、その中で世界の広さを知り、己の浅はかさに苛立ち、後悔し、無力感に囚われながらも、彼らと歩み希望を生み出した。
そして、そのすべての記憶に“彼”がいた。
それが当たり前に思え始めた頃だった。
終わりが来ることなど、よく分かっていた。
分かっていたはずなのに、いつの間にかステファニアの中には数多の希望が生まれ過ぎて、捨て去るべき期待まで生まれてしまっていた。
──ここまでか
ステファニアは全てを忘れていたわけではない。
夢に溺れながら、それでも覚悟は決めていた。
だから、ステファニアは一歩を踏み出した。
彼らはきっとこれからも旅を続ける。
そしてステファニアも彼らと交わることのない道を歩むことになる。
彼らのうちの誰かがステファニアを呼び止めようと声を出した。
けれど、ステファニアはその足を止めることも振り返ることもしなかった。
彼らと離れる事は心細くとも、ステファニアにはステファニアのやるべき事がある。
それは生まれた時から決まっていて、ステファニアもその使命を背負う事を当然としてきた。
だからこそ、彼ら──仲間たちに胸を張れるよう、旅はできずとも志は共にいれるように。
いつか“彼”と会った時、堂々といられるように。
ステファニアは、その飴色の髪をガサツにまとめていた紐を解いた。