不器用な優しさ(2)
教会から玉座の間に向かうには、先日魔物との大乱戦のあった広間の横を通り中庭を横切る必要がある。そのついでにどこかにクロノス様の力の欠片が残っていないか探してみるが、特に何も感じない。
では何故あれほどの量の魔物が急に襲いかかってきたのだろう。私1人を狙ったにしても多過ぎる。
「……それにしても、いつ見てもこの中庭は立派ね」
庭師を何人も雇っているだけのことはある。庭の中をぐるっと一周するだけで四季折々の植物を楽しむことができるこの庭は、一体どのような仕組みになっているのだろう。まるで全ての植物が、全ての気候に適応しているような印象を受けた。
「全て品種改良しているのかしら? でも四季の温度変化全てに対応できるようにするなんて難しいわ……あら?」
という事は。この中庭の秘密を知ることが出来れば、ジュピテール王国の食料自給率の向上に役に立つ可能性がある。
あれ程近づきたくないと思っていた王宮に、私が求める答えがあったのかもしれない。そう期待して、庭の隅で休んでいた庭師に声をかけた。
「この庭の仕組み? 本来なら門外不出なのですが……秘密にしてくださいよ。私達庭師からの婚約祝いということにしてください」
そう言いつつ、中庭から少し離れた場所にある小屋に案内された。目立たない場所にあり、同じような小屋が並んで立っている。
「4棟もあるのね。何に使っている建物なの?」
「これが我々王宮庭師の職場ですよ。意外に思われるかもしれませんが、あの四季折々の植物が生い茂る中庭の秘密はこの小屋なんです」
そう言いながら1つの小屋の入り口ドアをあけ、中に案内される。
中にはヴェストリス王国で夏に季節を迎える植物が所狭しと並べ育てられており、小屋の屋根はガラスになっているようで太陽の光が差し込んでいた。
「沢山の植物……それにしてもこの小屋の中、とても暑くないですか?」
まるでこの小屋だけ夏の蒸し暑さをそのまま切り取って持ってきたかのようだ。
「ここは夏の植物の部屋ですからね。しっかり夏の気温に合わせて、適切な環境で植物を育てているのですよ」
どうやら、中庭の植物は生育に必要な温度帯に合わせて作られた4つの小屋の中で一定の大きさまで育てられていたらしい。
「ここで育てて中庭に植え替えます。勿論植え替え先も日当たりや場所を気を遣っていますが、このそれぞれの植物に合わせた環境で大きくするというのがポイントです。無理矢理適さない環境で一から育てるよりも、こちらの方がずっと美しく育ちますから」
「この小屋の環境はどうやって調整しているの? 暑くするのは出来そうだけど、寒くするのは大変そうだわ」
暑くしたいなら、人間の冬と一緒で暖炉などで熱を加えれば良い。しかし寒くするにはどうしたら良いのだろう。人間のように扇いで風を送っても意味はないだろうし。
「それこそ魔法ですよ。だから我々王宮の庭師は全員魔術師です。このくらい狭い空間でしたら、我々程度でも複数人で気温を調整すればなんとかなりますから。植物が好きで戦えるほどの魔力が無い者にとっては最適な職場ですよ」
……つまり。魔法で気候自体を変えるのが不可能であっても、まるで暖炉で部屋を温めるように1つの部屋の室温を変化させるのは可能ということ。
ならば、ジュピテール王国という魔術師の国であればこの小屋の規模を大きくして食物を栽培することだって可能かもしれない。
「とても参考になったわ、ありがとう。ところでこの仕組みはどなたが考えたの?」
門外不出で秘密と言われてしまえば、なかなか大っぴらには真似できない。開発元に尋ねて、ジュピテール王国で使わせてもらえないか聞いてみなくては。
「これはフォード様の発案でございます。元々は中庭に植えた草木に直接魔法を掛け違う気候でも育つようにしていたのですが、幼い頃のフォード様が『大きくなるまで、のびのび育てるお家があればいいのにね』と仰ったのを参考にいたしました」
現在遭遇したくない人物No1.2の座を争う人物の名前が出てきてしまう。つい先程まで仕組みを使わせてもらえないか聞きに行く気満々だったのに、思わず逃げ腰になってしまった。
いつも読んでくださる皆様ありがとうございます(*´꒳`*)♡
閲覧数と評価を励みに、糖度高めハッピーエンドを目指し日々執筆頑張ります(๑˃̵ᴗ˂̵)♪