不器用な優しさ(1)
月日は流れ、かつて私を処刑しつづけたあの日は過ぎ去った。強制力を心配していた私はやっと1つ肩の荷が降りて、1ヶ月先に待ち受ける幸福に向かって歩き出す。
私に寵愛をくれた元神様の隣に立つ日が、やっと見えてきたのだ。
「何でまだいるのよ。さっさと嫁ぎなさいよ」
ここは王宮の中に併設された教会。目の前には呆れ顔のヘレンの姿。私だって、王宮に来るたび酷い目に遭うのだから、望んで来た訳じゃない。
「……国外に嫁ぐ際には、国王へのご挨拶と教会からの祝福が必要だということでしたので」
「今日はバートン様とデートのはずだったのに、貴女が来るって言うから予定ずらされたのよ。全く……長年聖女なんていなかったんだから、しなくたって大丈夫よこんなもの」
仰る通りだ。しかし文句を言いながらもきちんと手順を踏んで祈る準備をしていくヘレン。
先日の魔物の襲撃の際に聖女の力での活躍が認められ、最近では色んな場所に引っ張りだこで忙しいらしい。離れたところから見ている私にでも最近の彼女が充実し楽しそうにしているのがわかる。……以前の地位や見栄に固執していた彼女とはもはや別人だと思った。
「言ってくださればこちらが日程をずらしましたのに」
「別に。貴女にはさっさとこの国から居なくなって欲しかったから、早く準備してくれて丁度いいわ。あ〜やっと比較される人が居なくなって清々する!」
物言いは相変わらずだが、以前いじめられ抜いた経験があるために生緩く思えて。それどころか優しさすら感じてしまう。
「本当にありがとう。本当に……聖女ヘレンのおかげで、私はあの方の元へ行けるの」
言い方はアレだけど。以前ヘレンのせいで処刑されたからこそ必死で助かる道を探しクロノス様に出会えた。今回だって、私が避けたかった運命をある程度代わりにヘレンが背負ってくれたからこそ、無事にクロノス様の元へと行ける。
話をしている間にパパッと祈りを終わらせるヘレン。うん、そのくらい適当な方が、気負わずに重く背負わずにいられていいのかもしれない。
「あーそう。別に貴女に感謝されたって面白くないからお礼は結構よ。でも私の力のおかげで婚約が決まったと広まった方がよかったなぁ、私の評判もっとあがっちゃう!」
「……少しお伺いしたいのですけど、聖女ヘレンは自分に力を分けてくださった神様の名前はご存知ですか?」
ふと思い立ち、気になっていた事をヘレンに尋ねてみる。クロノス様は、国の背後には神様がついているとおっしゃった。そしてこのヴェストリス王国は時の神の管轄であると。
「え? 変な事聞かないでよ、知るわけないでしょう。勝手に使えるようになっていたのだから」
ヘレンの状況は以前私が聖女として感じていた内容そのままだった。
クロノス様の話とヘレンの話、今までの経験を総合して考えると。きっとヘレンに力を与えているのも、今現在この国を見守っているのも、あのお方のはずだ。
――君はクロノスの事どれだけ知ってる?
私の不安を煽ったあの声が鮮明に思い出される。
カイロス様。クロノス様と対になる時の神。時空を操るクロノス様とは違い、機会やチャンスなどを司る神様。
カイロス様は以前私がヘレンに何をされていたのかも含めて全てご存知だったのだ。自らが寵愛を与えた聖女があのように振る舞っているのを見て、何も感じられなかったのだろうか。クロノス様と3人でたびたび会話したけれども、あの時内心では何を思っていたのだろうか。
知りたいと思っても、私はカイロス様をお呼びする術を知らない。
「何よ急に黙って。どうでもいいけど、王様に挨拶したら今日は気をつけて帰りなさいよ」
「――? ええ、いつも気をつけているつもりだけど」
「そういう部分が高貴なお姫様だって言ってるのよ。貴女に取り入る機会が欲しい奴は沢山いる。そう明言して私の力を求めに来た奴もね。何かあったら、貴女にここで祈りを捧げた私に言いがかりを付ける輩だって出てくるんだから。この国の聖女様である私の為に身を守れって言ってるの」
確かにヘレンの言う通りだし……彼女の不器用な優しさが身に染みた。
ヘレンに説教される日が来たなんて、以前の私が知ればどう思うだろうか。
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